強さの秘密は詰将棋?考え続ける力を身につけることは将棋以外にも役にたつ【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

強さの秘密は詰将棋?考え続ける力を身につけることは将棋以外にも役にたつ【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年07月09日

今話題の藤井聡太四段は、詰め将棋で考える力をつけてきました。考えることが、「面白い!」と感じることができたことが、子供の力を伸ばす原動力となります。誰かに言われなくても、見ている人がいなくても頑張る、そういう主体的な人は努力する土台が出来上がっています。表立って見えることはあまりありませんが、プロ棋士たちも、日々の地道な努力を積み重ねて、勝負の舞台に立っているのです。

普段からの地道な努力が実を結ぶための鍵

プロ棋士は普段から棋譜並べ、詰将棋、戦術の研究、体調管理など地道な努力の積み重ねをしています。 そうした不断の努力をしていないのと勝てないというのが、将棋なのです。 いい加減に指そうと思えば、とりあえず指すことはできますし、努力していなくても勝つことだってあります。しかし、必ずどこかでそのしっぺ返しをくらってしまいます。

地道な努力を怠ったからといって、そのせいで即負けとなるわけではないのですが、やがてどうやっても勝てなくなるのです。この程度でいいだろう、と手抜きをしていたらロクなことにはならないことを、プロ棋士はこれまでに散々痛い目にあった経験から、身にしみて理解しています。普段から、着実に読みを積み重ねていくこと。それこそが最も重要だと、プロ棋士は実体験を通して体得しているのです。 ですからプロ棋士の皆さんは、詰将棋などを読みの練習として毎日やっているわけです。

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考え続ける筋肉を鍛えるトレーニング

詰将棋というのは、将棋の終盤だけに特化して駒を配置し、王手の連続で相手の玉将を詰めるパズルのような練習問題のことです。一手詰や三手詰といった将棋を覚えたての方でも楽しめるようなものから、高段者でも頭を悩ませる、十五手を超えるような問題もあります。

江戸時代に考案された伊藤宗看作の「将棋無双」や、伊藤看寿作の「将棋図巧」といった難しい詰将棋集もあり、最長のものはなんと611手で詰みというものまであります。また、20年ほど前に発表されたミクロコスモスという詰将棋に至っては1525手で詰むという難問です。

実を言うと、それをやっても将棋はそんなに強くなるわけではありません。長手数の詰将棋は作品であり、そんな局面は実際の将棋の終盤に現れることはないからです。しかし、それが実際に現れるかどうかではなく、考え続けること、それ自体が重要なのです。考え続けることが、プロ棋士としてやっていくための心構えを養い、さらに"考え続ける筋肉"を鍛えるトレーニングになるのです。

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考え続ける筋肉は仕事の場でも発揮される

これは羽生三冠から伺った話なのですが、プロ棋士の登竜門とも言える日本将棋連盟の奨励会に入ったものの、規定の年齢までにプロ棋士になれなかった若者が、退会してコンビニエンスストアで働き始めたのだそうです。他の店員は店主が見ていないとサボるのに、彼は店主が見ていないときでも、いつも変わらずに黙々と仕事をこなす。それに気づいた店主がとても感心していた、というのです。

奨励会は、プロ棋士を目指して全国から"天才少年たち"が集まってきて、将棋に人生をかけてしのぎを削っています。そんな天才少年たちも、限られた年齢のうちに結果を出せないと、奨励会を退会しなければならないという、とても厳しい世界です。プロになれるのはほんの一握りだけ。熾烈な戦いに敗れ、年齢制限となって涙を飲んで去っていく若者は大勢いるのです。

そんな一人だった青年は、プロ棋士にはなれませんでしたが、それまでの精進は彼にとって決して無駄にはなっていなかったのです。棋士にとって何よりも必要だった地道な努力の詰み重ねを、仕事の場でも発揮していたのです。誰からも見られていない所でも、ちゃんと努力する。それは、将棋に限らず仕事だって全く同じことが言えるのです。

事実、彼は誰も見ていなくても仕事をサボらなかった。そこに将棋の本質が表れているのではないでしょうか。彼は将棋を通して人生における大切なことをしっかりと学びとっていたのです。プロ棋士になれなくても、将棋は彼に人生の歩み方を教えてくれた、と言っても過言ではないでしょう。

将棋の実体験が、努力する土台を作り上げる

将棋から学んだことや実体験が、その人の人生の糧になり、生き方の背骨になります。私は将棋のスキル以上に、こうした学びこそが大切だと、子供たちに伝えていきたいと思っています。勉強だって、部屋の片付けだって、親や先生が見ているから、あるいは「やりなさい」と言われるからやるのではなく、誰も見ていなくてもやる。見ている人が誰もいないところでもちゃんと一人で地道に努力する。そういう子供になって欲しいと切に願っています。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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