ノートを丁寧に書くことがどうして大切なのか【将棋と教育】

ノートを丁寧に書くことがどうして大切なのか【将棋と教育】

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年12月09日

子供たちにノートを取らせると、その書き方は様々です。黒板に書かれたことを上手にまとめて書いていく子もいれば、きれいに写して満足している子や、ばーっと殴り書きしてしまう子もいます。ノートなんて、どう書いたって同じだと思われるかもしれませんが、とんでもない。伸びる子というのは、ノートを丁寧に書いています。

実は、将棋の盤面もこれに似ているのです。

デザインの善し悪しが優劣を決める

2008年に『東大合格性のノートはかならず美しい』(太田あや著・文藝春秋刊)という本が話題になったのをご記憶の方もいらっしゃることでしょう。私の教師の経験から言っても、著者の主張はまさにその通り。伸びる子のノートは整理されていて、きれいです。

ただ単純に写すのではなく、自分で工夫してまとめながらノートに書き込んでいくと、知らず知らずのうちに情報の取捨選択や情報の紐づけを行います。丸写しではなく、自分の表現で書くことが、学習をより促進させます。つまりノートを丁寧に書くということは、自分の頭を整理することなのです。ですから私は子供たちには、いつも「ノートを丁寧に」と指導しています。

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実は、将棋の盤面もこれに似ていて、いかに陣地を整理して、攻めと守りをデザインしていくかという勝負でもあります。陣形をどのようにデザインするか、その出来・不出来が勝敗に大きな影響をもたらします。

ノートを丁寧に整理してきれいに書く子が伸びるように、陣形のデザインがきれいな方が優勢なことが多いです。特に上級レベルでは同程度の棋力の人が対局すると、序盤戦の駒組み(駒の陣形を組み立てること)の段階で優劣が決まることもあると言われるほどです。

もう一つノートを「書く」という行為そのものが能動的なことも重要です。鉛筆を持ち、自分の意志でノートに書き写すその行為は、将棋で駒を取り、マス目にきちんと指して入れる行為と通じるからです。プロ棋士の指し手の美しさを観て頂けると納得してもらえるはずです。

駒たちの連携とそのバランスがきれいな形を作る

将棋には「攻めは飛角銀桂」「王の守りは金銀三枚」など、古くからの成功体験や失敗体験に基づいた様々な格言が残っています。例にあげた格言は、攻めには飛車、角行、銀将、桂馬を使い、王の守りには金将2枚と銀将1枚を使って攻守バランスの取れた駒組みをしなさいという教え。よい形を築き、戦いを優勢に進めていくための駒のバランス配分を端的に示しているこの格言が教えているのは、いい戦いができるときは、その陣形デザインは攻守のバランスが取れたきれいな形になる、ということです。

サッカーでは、選手たちが攻守のバランスを考えながら動きまわり、ボールをつないでいきます。ボールを持っていない選手も休んでいるのではなく、ピッチ全体の中での自分のポジションを意識して動いています。将棋の駒たちも、そうしたサッカー選手のように互いに連携し合って戦っています。

たとえば、「王の守りは金銀三枚」の格言に則って、「金銀3枚は王様を守って、残りの銀1枚は攻めに出ていこう」となったり、別のケースでは、飛車が「ぼくが先に行っておくよ」と動いたら、銀と桂馬が「ぼくたちも一緒に攻めるよ」となって飛車を援護したり。「きっと敵にやられてしまうだろうけど、その代わり、何か取ってくるから」という駒もいます。王様を守りつつ、別の方向に対しては攻めているという攻守両方の役割を果たしている駒もいます。

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第30期竜王戦 第2局より

盤面のデザインで勝負を予想してみよう

一枚でも遊び駒があると将棋は勝てないと言われています。ですから、駒みんなが攻守のバランスの中で連携して動いていることが大切なのです。

といっても、将棋の初心者にとっては、駒の動き方やルールを覚えて動かすだけでも大変。それらを連携させて自由自在に動かすなんて、初めのうちはとても無理に違いありません。自分で動かすどころか、対局を見ているだけでも、ややこしくて何が何だか分からないという方も多いことでしょう。

しかし、陣形が上手くデザインされている盤面、お互いの駒が上手に配置された盤面は、将棋を知らない人が見ても、案外美しく映るものです。

新聞にも将棋欄がありますし、NHK Eテレでは毎週日曜日に「NHK杯テレビ将棋トーナメント」が放送されています。そこで掲載・放送される盤面をご覧になると、なんとなくきれいだなと思ったりすることがあるはずです。「このデザインがよく見えるから、こちらの棋士が勝つのでは?」などと予想しながら見てみるのも、面白いかもしれません。

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第30期竜王戦 第2局より

いい形、いい戦略もきれいにデザインされている

いい形にデザインされた陣形の盤面を覚えていくことは、初心者の棋力上達にも大いに役立ちます。よく「将棋の定跡」と言われますが、それは双方ともに最善とされる指し方のこと。格言と同様に、長い歴史の中で先人たちによって積み重ねられた、研究されつくして明らかになっている最善の戦略モデルです。そうした定跡も見事にデザインされているというのは、言うまでもありません。

子供のノートの取り方の工夫ひとつで、頭を整理し、きれいにデザインすることができるようになっていきます。毎日の学習で繰り返していくものですから、きれいに書く習慣を身につけていってほしいと願っています。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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