チーム稲葉VSチーム千田 ABEMAトーナメント2023~本戦トーナメント2回戦第三試合振り返り~

チーム稲葉VSチーム千田 ABEMAトーナメント2023~本戦トーナメント2回戦第三試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年08月29日

 8月26日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023本戦トーナメント2回戦第三試合を振り返る。チーム稲葉「NIN NIN」(稲葉陽八段、出口若武六段、服部慎一郎六段)とチーム千田「シーソーゲーム」(千田翔太七段、西田拓也五段、藤本渚四段)の対戦だ。チーム稲葉は予選Aブロックを1位で、チーム千田は予選Eリーグを2位で通過した。両チームとも予選の戦いぶりは目を引くものがあった。推しになったファンの方も多いのではないだろうか。

 第1局は服部と西田が対戦。西田の三間飛車に服部は居飛車穴熊模様の駒組み。西田が4筋に飛車を振り直して攻勢を握るが、服部も崩れず受け、形勢難解の勝負が続いた。服部は踏み込んでいれば勝ち筋という局面もあったものの、西田の気合が通って勝利。

abema2023_0826_01.jpg

 第2局は出口と藤本の同門対決(井上慶太九段門下)に。戦型は相雁木となり、出口が仕掛けでペースを握った。しかし藤本の対応のうまさや、出口の時間切迫もあってリードを広げられず。反撃に転じた藤本が兄弟子を破った。出口にやや硬さが見られたように見えたがどうだったか。チーム千田が連勝スタートを決める。

abema2023_0826_02.jpg

第3局 千田翔太七段─稲葉陽八段

abema2023_0826_03.jpg

 第3局はリーダー対決となった。相掛かりから稲葉が棒銀の趣向を披露。千田はうまく銀交換でまとめて1筋から反撃し優位に立つ。稲葉も被害を最小限に抑えて中盤戦へ。

【第1図は▲5四角まで】

 ▲5四角と飛車取りに打った局面。稲葉の頑強な受けに対し、千田は時間がない中必死に手をつないできた。ここで△6六歩が実戦的なジャブ。▲6六同金△7七歩▲同金△8五桂▲8一角成△7七桂成▲同玉△8五桂▲6八玉△7七角▲5八玉△6六角成▲5四馬△6七銀▲4九玉△6五馬で混戦模様に持ち込んだ。戻って▲6六同金では▲8一角成△6七歩成▲同金△6六歩▲同金△6五桂▲2一銀なら先手が有望だったようだが、歩で守りの金をはがされるので本能的にやりづらい。以降は稲葉が力を見せて反撃の1勝を返す。

abema2023_0826_0302.jpg

 第4局。稲葉は勢いそのままに連投。チーム千田からは必殺仕事人の西田が火消しにかかる。相穴熊の将棋になり、中盤の段階で西田がかなり勝ちやすい展開に。だが、そこからの稲葉のしぶとさは筆者も思わず舌を巻いた。いつの間にか西田の攻めが細くなっていき、完璧にしのいでからは素早く寄せきって稲葉が逆転勝利。スコアを2-2の五分にした。

abema2023_0826_04.jpg

第5局 藤本渚四段─出口若武六段

abema2023_0826_05.jpg

第5局は再び出口と藤本がぶつかった。戦型は相掛かりに。藤本が老獪な指し回しでじわじわとペースをつかんだ。

【第2図は△7六歩まで】

 先手にチャンスがきている局面。ここからの藤本の寄せが鋭かった。▲6三と△同金▲6一飛が気づきにくい組み立て。△5二金▲2一飛成△2二銀と打ち歩詰めを利用してこらえようとするが、▲1五桂が決め手になった。△同歩▲2四歩△1四玉▲2二竜△1六歩(△2二同角は▲1五歩△2五玉▲1六銀△2六玉▲3七金までの詰み)▲2三歩成△2二角▲2四と△1五玉▲2六銀まで投了に追い込んだ。以下は△同玉▲3七角までの詰み。▲1五桂と捨てて、あえて1四に空間を作るのがうまい。序中盤はじわじわと模様をよくして、終盤は切れ味鋭く寄せる。どこか藤井聡太竜王・名人のようでもあった。

abema2023_0826_0502.jpg

 第6局は服部と藤本の顔合わせ。関西若手の俊英同士だが、服部によると練習将棋もやったことがないほどの初手合いだという。藤本は研修会時代に指導で負かされた記憶があるそうだ。藤本は雁木風の駒組みから右玉に構える。服部も得意の矢倉で迎え撃った。難しい攻防が続いたが、右玉の弱点である端攻めでペースをつかんだ服部の勝ち。

abema2023_0826_06.jpg

 第7局。ここまで3-3と一進一退の戦いが続く。勝負どころで顔を合わせたのは出口と千田。角換わり腰掛け銀の戦型から、ひと目では判断のつかない難解な展開に。千田の軽い攻めがつながるかどうかが焦点になったが、入玉を果たして受け切った出口の勝利。千田は敗勢になってからもしばらく指し続け、終局後のインタビューでも悔しそうな様子だった。

abema2023_0826_07.jpg

 第8局、あとがなくなったチーム千田は千田が連投。己の責任は己で果たす、男らしい一面を見せる。王手をかけたチーム稲葉も服部が「ニンニン!」と気合を込めて立ち向かった。将棋は千田が急戦矢倉を採用。服部はまとめづらそうな形を強いられる。攻勢の千田がペースを握ったが、前局の二の舞だけはいけない。しかしそのプレッシャーを跳ね除け、寄せきって詰ました。最終手を着手する前に「ふうっ!」と昂る鼓動を落ち着かせていた(終局後に服部に詫びていたようだった)のと、終局後のインタビューでの心から安堵した様子には胸が熱くなった。そして服部も途中のチャンスを逃したことを非常に後悔。両者の気持ちがよく出ていて見応えがあった。

abema2023_0826_08.jpg

第9局 西田拓也五段─稲葉陽八段

abema2023_0826_09.jpg

 第9局は稲葉と西田が再戦。今期本戦トーナメントでは初めてのフルセットだ。カード的には稲葉が厚そうに見えるが、第4局では西田があと一歩のところまで追い詰めていた。再び振り駒が行われ、西田の先手番に。

【第3図は▲4三とまで】

 戦型は西田の三間飛車、稲葉が左美濃で対抗。第3図は最終盤。ここで△5九飛成が勝ちを決めた見切りだった。自玉が怖いが、▲3四桂に△2三玉で詰みはない。一方の先手玉は△6八竜引以下の詰めろだ。稲葉が大勝負を制してチームに勝利をもたらした。

 チーム稲葉は稲葉の3連勝が光る。出口と服部には硬さも見られただけにこの安定感は心強いばかりだ。敗れたチーム千田も初参戦ながらABEMAトーナメントを大いに盛り上げてくれた。次回の活躍に期待したい。

abema2023_0826_0902.jpg

【総合成績】
第1局 服部●-○西田(第1局はチーム藤井が先手番。以下は交互、第9局はチーム千田の先手番)
第2局 出口●-○藤本
第3局 稲葉○-●千田
第4局 稲葉○-●西田
第5局 出口●-○藤本
第6局 服部○-●藤本
第7局 出口○-●千田
第8局 服部●-○千田
第9局 稲葉○-●西田
総合5勝-4勝

【個人成績】
稲葉八段 3-0
出口六段 1-2
服部六段 1-2
千田七段 1-2
西田五段 1-2
藤本四段 2-1

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています