昨年の雪辱を目指してーリコー杯第13期女流王座戦五番勝負展望―

昨年の雪辱を目指してーリコー杯第13期女流王座戦五番勝負展望―

ライター: 君島俊介  更新: 2023年10月24日

 リコー杯第13期女流王座戦五番勝負は昨年に続いて里見香奈女流王座と加藤桃子女流四段の対戦となった。クイーン王座と初代女流王座による争い。13期目の女流王座戦で、二人による五番勝負は早くも5回目となる。里見がタイトルを堅持するか、加藤が昨年の雪辱を果たしてクイーン王座の資格を得るか。注目の五番勝負は10月25日に東京都文京区「ホテル椿山荘東京」で開幕する。

居飛車党代表の加藤

 ここ数年、女流棋界は振り飛車党の里見と西山朋佳女流三冠が女流タイトルの大半を保持している。ほかの女流棋士からすると、タイトルを獲得するには二大巨頭の振り飛車を破らなければならない。
 そうした中、現在の女流棋界で居飛車党代表といえるのが加藤だ。奨励会時代からタイトルを獲得して通算9期。女流王座は通算4期でクイーン王座にあと1期と迫っている。
 2020年度から今回の女流王座戦までを調べると、女流タイトル戦の登場回数は里見が22回、西山女流三冠が17回、加藤が8回。タイトルホルダーの二人に次いでタイトル戦に出ているのが加藤なのだ。

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写真:翔

大勝負続きの里見

 里見は女流王座戦が2023年度で4棋戦目のタイトル戦登場となる。女流王位戦と清麗戦で防衛、西山女流三冠との白玲戦は1勝3敗から2連勝して3勝3敗のフルセットに持ち込んだ。
 11月には倉敷藤花戦三番勝負も始まる。大勝負が続いて多忙だが、里見には平常運転かもしれない。2016年度から女流王座戦と倉敷藤花戦の両方の番勝負に出続けているからだ。2015年秋からは常にタイトルの半数以上を保持している。高い棋力と安定感が抜群だ。
 本年度の女流棋戦の成績は18勝8敗(0.692)。プロ棋戦も9局指しており、合わせると35局になる。里見よりも対局しているのは西山女流三冠(女流棋戦とプロ棋戦を合わせて45局)と佐々木大地七段(36局)しかいない。

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写真:常盤秀樹

関西への移籍

 昨年の五番勝負との大きな違いは、加藤が今年7月から所属を関西に移したことだ。タイトル経験者の移籍は極めて珍しい。棋力向上が理由。挑戦者決定戦後の記者会見では、「環境が変わって将棋に接する時間が増えた。関西で先輩や棋士に教わって感謝している」といい、研究会も始めている。すぐに効果や成果が出るものではないだろうが、環境を変えてモチベーションが上がっていることは間違いない。加藤は五番勝負前の時点で女流棋戦の成績は16勝9敗(0.640)。関西に移った7月からの成績は9勝3敗(0.750)で、タイトル挑戦も含めて調子を上げている印象だ。

主戦場は中飛車対居飛車の持久戦

 対戦成績は里見36勝、加藤12勝。タイトル戦では里見9勝、加藤2勝。今回の女流王座戦が12回目のタイトル戦だ。2017年11月から2021年8月にかけて14連勝するなど、里見が大きく勝ち越している。加藤もトップで活躍する女流棋士だから、対戦成績は力以上に大きく離れている印象も受ける。
 加藤が勝ったタイトル戦は2回とも初戦を制した。勢いある将棋を指す加藤は、番勝負でも勢いよくロケットスタートで発進できると波に乗りやすいようだ。里見もタイトル戦では初戦を勝つことで番勝負も制するケースが多い。女流タイトル戦は白玲戦を除いて五番勝負か三番勝負だ。短期決戦の面もあり1局目の比重が大きいのかもしれない。
 戦術面を分析すると、振り飛車党の里見は相手が居飛車なら先後どちらも中飛車を軸にしている。先後とも三間飛車が中心の西山女流三冠とは振り飛車党でもタイプが違う。居飛車党の加藤は対振り飛車には急戦を指すこともあるが、がっちり固めて戦う傾向が強い。中飛車に対しては一直線穴熊や、右銀を足早に繰り出す「超速」から玉を深く囲う作戦を多用している。
 二人の対戦の48局中、実に40局が里見の中飛車対加藤の居飛車の対抗形になった。中飛車とわかっているのだから、相手からすると的を絞りやすい。だが、研究や経験値、鋭い寄せなどの強みで、里見は相手を三振や凡打に打ち取っている。加藤も尻尾をつかみきれずに苦杯をなめていることが対戦成績からも表れている。
 さらに細分化して見ると、中飛車対居飛車の40局中24局で加藤は居飛車穴熊や左美濃に組んだ。前期の五番勝負も里見が趣向を凝らした第2局以外はすべて加藤が穴熊や左美濃に囲っている。今回の五番勝負でも主戦場になりそうだ。ただし、二人の直近の対戦だった4月の女流名人戦▲里見-△加藤戦では、加藤が左銀を中央に使う急戦策を用いた。中飛車対居飛車の枠の中で互いに趣向を凝らす可能性もあるだろう。
 前期の五番勝負は里見が3勝2敗で接戦を制してタイトルを死守した。その中でも最終第5局は199手に及ぶ熱戦となり、第50回将棋大賞の女流名局賞を受賞している。今期もこうした名勝負を期待したい。

君島俊介

ライター君島俊介

2006年6月からネット中継のスタッフとして携わる。順位戦・棋王戦・棋聖戦などで観戦記も執筆。将棋連盟ライブ中継の棋譜中継で観る将ライフを楽しむ日々。

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