チーム永瀬VSチーム天彦 ABEMAトーナメント2023~本戦準決勝第一試合振り返り~

チーム永瀬VSチーム天彦 ABEMAトーナメント2023~本戦準決勝第一試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年09月13日

 9月9日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023本戦トーナメント準決勝第一試合を振り返る。チーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢王座、増田康宏七段、本田奎六段)とチーム天彦「天辺堂」(佐藤天彦九段、三枚堂達也七段、戸辺誠七段)の対戦だ。いよいよ勝ち残りは4チームに絞られる。どこが優勝してもおかしくない熾烈な戦いを制するのはどのチームか。振り駒の結果、チーム天彦が先手番を得た。

 第1局は両チームの切り込み隊長、増田と三枚堂がぶつかる。戦型は相掛かりになり、増田が威勢よく揺さぶるも三枚堂もうまくバランスを保つ。増田玉が中段に放り出されたが、絶妙な玉さばきで自陣に戻り、ためていた力を解放。増田が三枚堂の粘りを振り切った。総手数は210手。開幕から熱がこもっていた。

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 第2局は本田と戸辺が対戦。ゴキゲン中飛車の出だしから本田が▲5八金右の超急戦含みを志向する。戸辺は穏やかに角交換をして穴熊に潜った。本田は銀冠に組む。対抗形らしい攻防が続いたが、玉を固めて時間を稼ぎ、端攻めが火を噴いた本田の勝利。敗れた戸辺だが銀冠に対して△5五香~△5六香打という見たことのない攻めを披露し、存分に持ち味も出していた。

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第3局 佐藤天彦九段─永瀬拓矢王座

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第3局は永瀬と佐藤のリーダー対決に。横歩取りに誘導した永瀬がペースをつかむ。形勢よしになってからの永瀬の指し回しは目を見張るものがあった。

【第1図は▲7四歩まで】

 ▲7四歩と桂取りに打った局面。ここで△8五桂が肝の据わった一着だった。▲7三銀から自玉をいっぺんに薄くされてしまいそうだが、しのいでいると判断している。この見切りには増田も思わず「神モードじゃないすか」と感嘆の声を上げた。以下▲4五桂△4四銀▲3三銀と佐藤も勝負手を繰り出したが、△3三同銀▲同桂成△6七と▲同金△3三馬が冷静な対応で崩れない。このあとも薄い玉をまとめ上げて勝利をつかんだ。チーム永瀬が開幕3連勝を決める。

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第4局 増田康宏七段─戸辺誠七段

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 第4局。チーム永瀬は増田が出陣。苦しくなったチーム天彦は戸辺が流れを変えにいった。戸辺が4→3戦法から5筋に位を取り、石田流から中飛車に振り直す工夫の指し回し。増田は7筋の位を取って玉頭位取り風に対抗した。増田がリードを奪ったが戸辺も辛抱強く受け続ける。

【第2図は▲8五桂まで】

 最終盤にドラマが起こった。持ち駒の桂を8五に打った局面。先手が押せ押せムードのようだが、△8八銀が狙い澄ました一撃だった。なんと先手玉は詰んでいる。増田は30秒以上盤上を見つめ、そのまま投了した。▲8八同金△7九飛左成▲7八金△8八飛成▲6六玉△7四桂▲7五玉△8四馬まで。変化はあるものの即詰みだ。

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 第5局は永瀬が登場。負けを即取り返そうという思いが感じられた。上昇ムードに乗りたいチーム天彦からは三枚堂が挑む。永瀬は佐藤との将棋同様に横歩取りへと誘導する。堅い玉形にしてからうまく手を作り、横歩取り後手番での理想的な戦い方を見せた。このまま永瀬が押しきるかと思いきや、三枚堂の粘りも驚異的だった。筆者はそのバランス感覚に感服したのだが、相手が悪かったか。永瀬はロボットのように的確に差を広げていく。最後も広いほうに玉を逃がしながらそのまま詰ましきって勝利を収めた。総手数は188手。

 結果がすべての世界なだけに厳しいが、三枚堂の粘り強い2局の指し回しも見応えがあった。チーム永瀬の控室からも「粘り強い」「崩れない」と称賛の声が漏れたほど。

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 第6局。あとがなくなったチーム天彦は佐藤が食い止めにいった。チーム永瀬は本田を投入する。戦型は佐藤が雁木を採用。ここ最近での公式戦では横歩取りが多かっただけに意表を突かれた方も多いのではないか。本田は早繰り銀の急戦で挑む。▲2二歩という手裏剣が効果的に打てて本田がよくなったが、佐藤が被害をうまく抑えて混戦に。逆転に成功してからの佐藤は永瀬のようにカラい指し回しで勝ちきった。チーム天彦が2勝目を挙げてスコアは4-2に。

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第7局 戸辺誠七段─永瀬拓矢王座

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第7局は永瀬と戸辺が顔を合わせた。両者は研究会で指している間柄とのこと。本局は戸辺の中飛車の出だしから相穴熊になったのだが、穴熊のエッセンスがこれでもかと詰まっている素晴らしい内容だった。

【第3図は▲3七銀打まで】

 戸辺が▲3七銀打と粘った局面。受け一方のようだが3八飛の利きを止めており、▲2二金△同金▲同成桂△同玉▲3四桂以下、王手が続くようにはなっている。しかし後手玉はそれでも詰みはない。それは10秒もあれば永瀬なら判断できるだろう。ならば見切って寄せにいきたくなる局面なのだが、それを踏まえて△2一金打が「負けない将棋」だった。自玉を絶対に詰まない形にしてから寄せるつもりである。以下▲3四桂に△1三銀と埋める。さらに▲3九歩△3六歩▲2三成桂(▲3三角以下の詰めろ)の猛追にも△3二金打と徹底的に駒を埋めてチャンスの芽を摘み取った。そして冷静に永瀬が勝ちきり、チーム永瀬が5勝目を手にした。

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 7局目の全容は「日本将棋連盟ライブ中継アプリ」で見ることができるので、ぜひとも盤に並べて味わっていただきたく思う。永瀬強しはもちろん、戸辺の秘術も驚嘆した。

 チーム永瀬はリーダーの後手番3連勝がやはり大きかった。MVPといって差し支えないだろう。だが増田も本田も、チーム天彦も非常にハイレベルな攻防を繰り広げ、どれも見応えのある熱戦ばかりだった。チーム永瀬は決勝に進出。誰も経験したことのない2回目の優勝を狙う。なお、もう一方の山のチーム藤井とチーム稲葉も優勝経験があり、目標は同じだ。初の偉業を成し遂げるのはどのチームか。

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【総合成績】
第1局 増田○-●三枚堂(第1局はチーム天彦が先手番。以下は交互)
第2局 本田○-●戸辺
第3局 永瀬○-●佐藤
第4局 増田●-○戸辺
第5局 永瀬○-●三枚堂
第6局 本田●-○佐藤
第7局 永瀬○-●戸辺
総合5勝-2勝

【個人成績】
永瀬王座 3-0
増田七段 1-1
本田六段 1-1
佐藤九段 1-1
三枚堂七段 0-2
戸辺七段 1-1

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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