女流四冠vs女流四冠の覇権争い ー第31期倉敷藤花戦三番勝負展望ー

女流四冠vs女流四冠の覇権争い ー第31期倉敷藤花戦三番勝負展望ー

ライター: 田名後健吾  更新: 2023年11月06日

 里見香奈倉敷藤花(清麗・女流王座・女流王位の四冠)に西山朋佳女流四冠(白玲・女王・女流名人・女流王将)が挑戦する、大山名人杯第31期倉敷藤花戦三番勝負(主催・倉敷市、公益財団法人倉敷市文化振興財団、山陽新聞社)が、11月7日(火)に岡山県倉敷市「倉敷由加温泉ホテル 山桃花」で行われる第1局から開幕する。
 四冠対四冠。女流棋界の8つのタイトルを二分する両者の覇権争いに注目が集まる今シリーズの見どころを紹介する。

里見のタイトル第1号

 里見は倉敷藤花戦8連覇中で、タイトルを通算13期獲得しており、清水市代女流七段(通算10期獲得)に継ぐ「二世クイーン倉敷藤花」の称号の有資格者だ。里見にとっては倉敷藤花は女流棋士になって初めて手にしたタイトル(第16期=2008年)であり、当時は16歳の高校生だった。学生服姿で対局に臨む姿が話題になったのが懐かしい(下写真)。あれから15年、里見の女流タイトルの通算獲得数は54期を数え、女流棋界を代表する存在として君臨している。
 中でも倉敷藤花戦は獲得数が最も多く、愛着があるに違いない。また、チェスクロック2時間という持ち時間は相性がよいようで、ストレート勝ちが多い。

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写真:田名後健吾

女流五冠を目指す西山

 対する西山は、昨年に続いて2回目の挑戦となる。前期は、0-2と振るわず涙をのんだ。2時間という持ち時間に慣れる時間もなかったのだろう。また、第2局は現地で公開対局されたが、大勢の観客が見守る中でのタイトル戦というのも初めての経験であり、棋戦のカラーに順応しきれないハンディはあったと思う。
 しかし、今期は絶好調だ。勝率は8割を超え、先日まで戦われていた第3期白玲戦七番勝負はフルセットの激闘を制し、里見からタイトルを奪還。2年振りに女流四冠に復帰した。倉敷藤花のタイトルも奪取すれば自身初の「女流五冠」となり、女流棋界の勢力図が変わる。西山としては是が非でも勝ちたい三番勝負である。
 余談だが、西山は白玲戦七番勝負最中に行われたプロ公式戦の第17回朝日杯将棋オープン戦一次予選(午前と午後のダブルヘッダー)で、渡辺和史六段と佐々木大地七段を連破し、女流棋士で初めて二次予選進出を決めている。渡辺は2年連続で連勝賞(20連勝・18連勝)を獲得した俊英。佐々木は今期の棋聖戦と王位戦でダブルタイトル挑戦をした強豪だ。いずれも西山が圧倒する内容で快勝したのは見事で、この勢いは三番勝負を展望する上で無視できない。

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写真:常盤秀樹

 参考までに、前期の三番勝負のハイライトをおさらいしておこう。

【第1図は△4六角まで】

 第1図は前期三番勝負第1局の終盤で、後手の里見が△4六角と金を取って王手で角を飛び出した局面だ。
 実戦は▲3七金打と固めたが、持ち駒がなくなって反撃の味が薄くなった。そして△3七同角成に対する▲同桂が敗着とされた。以下△5四飛▲6五角△3四飛▲5三とと迫ったが、△3六歩が冷静な見切りで里見の一手勝ち。
 戻って第1図では、苦しいながらも持ち駒を温存して▲3七金なら西山も指せていたようだ。以下、同じように△3七同角成▲同桂△5四飛▲6五角△3四飛と進んだときに、▲8三金△6一玉▲5三と△3九銀▲2九玉(参考図)の展開が予想されるが、ギリギリの激戦が続いていた。

【参考図は▲2九玉まで】

 第2図は第2局の終盤で、後手の西山が△8五桂と跳ねてきたところ。

【第2図は△8五桂まで】

 里見はすでに持ち時間を使い切って一分将棋に入っていたが、自玉頭の銀取りに構わず▲6四銀と勝負に出たのが会心の一着だった。以下、△5六飛に▲6三銀成!と猪突猛進。西山は勢い△9五香と出たが、これが詰めろになっておらず、じっと▲5六金と飛車を取り返して後手は受けなしとなった。以下、いくばくもなく後手投了。里見が防衛を果たした。

 以上のことから、筆者が三番勝負を予想すると、第1局の勝者がシリーズを制すると見たい。
2時間の持ち時間を使うコツを熟知した里見が第1局を勝利すれば、公開対局の第2局に気分よく臨めるので有利。
西山が第1局を勝てば、たとえ慣れない公開対局の第2局を敗れたとしても、翌日の第3局(非公開)に集中して臨める。連戦になっても、体力の強さは前述の朝日杯の勝利で実証済みだ。
経験でまさる里見と、勢いの西山。あなたの予想は?

新しくなった「倉敷藤花戦」題字

 今期から、「倉敷藤花戦」の題字が新しくなった。伊東香織倉敷市長(下写真の左から2人目の女性)が揮毫に指名したのは、清水市代女流七段だ。
 7月に東京「将棋会館」で開かれた贈呈式で、伊東市長は「今年は、倉敷市の名誉市民であります大山康晴十五世名人の生誕100年の記念すべき年です。その記念事業として、初代クイーン倉敷藤花の清水市代常務理事にご揮毫いただきました」と説明した。
 清水女流七段は「歴史もあり重みもある倉敷藤花戦の題字の揮毫という大役をお声がけいただき、身に余る光栄です。優しさと温かさと強さが出せればと思いながら書かせていただきました」と照れたように話し、キレイに額装された題字を伊東市長に手渡した。
 両者の仲介をしたのが、倉敷市の将棋界の重鎮で生前の大山康晴十五世名人と関りが深く、倉敷藤花戦の創設にも携わった北村實さん(大山名人記念館館長=下写真右端の人物)。「倉敷藤花戦を私が企画した当初は、全く別の棋戦名を考えていました。しかし当時、日本将棋連盟の専務理事だった大内延介九段から『もうちょっと特色のある名前にしたらどう?』と言われ、考えた末に出来上がった名前が倉敷藤花戦なんです。30年たって思い出してみると、大内九段のあの一言が大きかった。この名前のおかげで盛んになったわけではありませんが、女流棋士の方々にはこれからもいっそうの精進を期待しています」と裏話を聞かせてくれた。

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写真:田名後健吾

最高峰の闘いを現地で

 倉敷藤花戦三番勝負は、第2局が対局場の倉敷市「倉敷市芸文館」のホールにて公開対局の形式で行われるのが恒例だ。
 対局当日は、午前10時の対局開始から12時までは上階にある和室「藤花荘」で行うので非公開だが、昼食休憩明けの午前12時45分から終局までは、館内の大ホールに場所を移して続きの対局を再開。観客は、客席から勝負の一部始終を観戦することができる。入場無料はうれしい。

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左の白カベの建物が「倉敷市芸文館」、右下の建物が「大山名人記念館」        写真:田名後健吾

 第2局でタイとなり、翌日の第3局までもつれた場合は、公開対局はないものの、館内「アイシアター」で棋士による大盤解説会が開かれる(当日受付の500円で定員140名)。余裕のある人は延泊して最後まで見届けてほしいものである。

 情緒豊かな美しい街並みが魅力の倉敷市。芸文館周辺の美観地区(下写真)はぜひ歩いてみよう。この時期は県花の「藤」が見られないのが残念だが、秋の倉敷の風景も郷愁を誘って魅力的。心に残る旅になること請け合いだ。お土産には岡山名物「ままかり」がお勧めですよ。

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写真:田名後健吾


大山康晴十五世名人生誕100周年記念「倉敷藤花戦」題字贈呈式の模様はこちら

田名後健吾

ライター田名後健吾

1997年、日本将棋連盟入社。機関誌『将棋世界』編集部に配属される。2007年より同誌編集長となり、株式会社マイナビ出版移籍後の2023年6月まで16年間務める。同年7月より、同誌編集と並行してフリーランス活動もスタート。

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