チーム康光VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2023~本戦トーナメント1回戦第二試合振り返り~

チーム康光VSチーム斎藤 ABEMAトーナメント2023~本戦トーナメント1回戦第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年08月10日

 8月6日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023本戦一回戦第二試合を振り返る。チーム康光「駅伝」(佐藤康光九段、高見泰地七段、大橋貴洸七段)とチーム斎藤「飛慎隊」(斎藤慎太郎八段、黒田尭之五段、冨田誠也四段)の対戦。両チームとも予選2位で本戦に進出した。本戦進出チームは勝ったことで結束力もより高まり、強い絆が生まれたことだろう。何より「また次も見られる」というのがファンにとってもありがたい。ここから先はトーナメント方式の一発勝負だ。

 第1局は大橋-黒田戦。チーム斎藤にはひとつ明るい話題があった。予選Bリーグのチーム山崎戦で冨田が3連勝し、リーダーからご褒美としてスーツをプレゼントしてもらっていたのだ。今回はそれを身にまとっての参戦。これに密かに対抗意識を燃やしていたのが黒田。自分も3連勝してスーツをいただこうと気合が入っていたのだ。
 戦型は相掛かりに。黒田の事前準備がうまくいき、序盤で局面、時間ともにリードを奪う。大橋は時間に追われながらうまく粘るが、黒田の勢いは止まらなかった。チーム斎藤が幸先よく白星を挙げる。

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 第2局は高見-斎藤戦に。1993年生まれの同年代対決だ。戦型は相掛かり。高見が意欲的な端攻めを敢行したが、斎藤の対応がうまく、じわじわとリードを奪う。高見も見えづらい攻め筋をひねり出すかと思えば斎藤も華麗に受け流し、見応えのある攻防が続いた。最後は斎藤がためていた力を解放させ、勝利を手にした。

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第3局 黒田尭之五段─佐藤康光九段

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 第3局。連敗を喫したチーム康光はリーダーの佐藤が登場。勢いに乗るチーム斎藤からは黒田が迎え撃つ。

【第1図は▲6三銀まで】

 黒田が▲6三銀と打った局面。少し駒不足だが、食いつかれてしまいそうなので後手としては厄介な展開だ。ここで佐藤は15秒ほどで△8五桂と打った。いろいろな手が考えられた中でここに手が伸びるのはまさに百戦錬磨の感がある。駒を渡さずプレッシャーをかけ、△4四角の攻防手で仕留めてしまう狙いだ。その間に自玉が無事なことも織り込み済み。時間がない中でも体幹の強さが凄い。ちなみにAIも△8五桂は候補に示していた。
 だがスーツの懸かった(?)黒田も負けていなかった。不利になっても怒涛の早指しで佐藤を土俵際に追い込んでいく。まるでボクシングのような迫力だったので、ぜひとも映像で見てもらいたい限りである。

【第2図は▲7四桂まで】

 ▲7四桂と打ったのが決め手になった。飛車が横に逃げれば▲8四桂までの詰み。△8四飛も▲8五歩が痛い。黒田が強敵を破ってチームスコアを3-0とした。チーム康光は窮地に追い込まれる。

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 第4局は大橋と冨田が顔を合わせた。同じ関西所属棋士で、研究会の対戦もあるという。冨田の四間飛車に大橋が▲5五角~▲4六角と転換して持久戦に持ち込む将棋に。飛車側の細かい攻防を大橋が制し、リードを奪ってからは的確に差を広げた。チーム康光が反撃の狼煙を上げる。

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 第5局。チーム康光は大橋が連投。チーム斎藤は流れを変えさせないためにリーダーが参戦。関西を代表する俊英ふたりが激突した。戦型は角換わり腰掛け銀の定跡形。70手台に入ってもほぼ形勢互角の様相だったが、わずかな綻びを見逃さなかった斎藤が抜け出した。角換わり腰掛け銀を指す方は非常に参考になる将棋だったと思う。

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第6局 高見泰地七段─黒田尭之五段

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 第6局は黒田-高見戦。チーム斎藤はここまで4勝1敗で王手をかけている。ならば懸かるものがある黒田の出番。勢いそのままに持っていくかと思われたが、高見が意地を見せた。

【第3図は△3五飛まで】

 黒田が△3五飛と3四からかわした局面。ここで▲1六角が端角の好手だった。△3七歩成に▲2四銀が絶品の銀上がり。飛車と金の両取りになっている。△3四飛で飛車角交換を迫ったが、▲2三銀不成がまたうまい。△3三飛は▲3四歩だし、ほかの逃げ場所は▲4三角成で決まっている。
 だが3局目と同様に不利になってからの黒田の指し回しは目を見張るものがあった。辛抱強く受けに回り、高見が手をこまねいている間に少しずつ差を詰めていく。

【第4図は▲2二竜まで】

 高見が1一にいた竜を2二に引いた局面。次に▲3二との狙いだ。△4三馬が幻惑の一手。▲3二とが馬取りにならないようにしただけでなく、△4四馬の王手をちらつかせている。それを喫してもまだ先手が勝っているが、優勢と見ていたであろう高見にとっては嫌みだ。△4三馬に本譜は▲6八銀△6二香▲7七銀と進む。慌てず落ち着いて矢倉を作ったのも味わい深かった。△8五桂の端攻めに▲8六銀と対応できるのも大きい。▲6八銀に代えて▲6三銀は、△6二歩で相手に銀を渡すことになり、すぐに後手玉が寄るわけでないので逆転の要素を与えていただろう。地味ながら筆者が感心した応酬であった。以降も高見は逆転されないように粘り倒し、チームにバトンをつないだ。駅伝は苦しくなってからこそ応援し甲斐があるもの。

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第7局 冨田誠也四段─佐藤康光九段

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 7局目。チーム康光のオーダー決めでは「将棋を見ると疲れるでしょ」となぜか疲弊していた佐藤が高見に連投を促した。「康光先生だけに休みということですね」と高見が話せば「じゃあ俺は高みの見物してるよ」と佐藤も返す。最終的に「駅伝的には交互でもいいと思うんですけど」という高見のひと押しで佐藤が出陣となった。
 チーム斎藤はまだ今回目立っていない冨田が気合の登板。ということで佐藤-冨田戦が組まれた。

【第5図は△3二金まで】

 図はなんと200手目。△3二金と佐藤が自陣に金を打ちつけたところ。冨田の陣形からは猛攻を必死にしのいだ痕跡が見られ、ならばと佐藤も体力で負けないと宣言したわけで、もう手の善悪は関係なく、どちらが最後にリングに立っているかという勝負となった。ここで▲1五歩に△同歩が唯一の明確な悪手だったか。▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲1四歩△同香▲1三歩と端から攻め立てられ、囲いの外に追い出された佐藤玉は粘る手段が難しくなった。勢いに乗った冨田はそのままハードパンチを打ち続けて大熱戦を制す。終局後は肩で息をしていた。

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 この将棋は見どころが多過ぎて、それだけで記事が1本書けてしまうほどであった。ひとつだけ確かなのは、素晴らしい大熱戦であったということ。将棋連盟ライブ中継アプリで棋譜が掲載されているので、ぜひ盤に並べて味わっていただきたい。

 チーム斎藤が5勝2敗で二回戦に進出した。黒田と冨田の気迫のこもった指し回しは見応え十分。それを穏やかにまとめる斎藤とのバランスも美しい。この日で新規ファンが多く生まれたのではないだろうか。また、黒田は3連勝ならずで無念だったが、次に期待がかかる。「また次も見られる」ことは本当にありがたい。

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【総合成績】
第1局 大橋○-●黒田(第1局はチーム斎藤が先手番。以下は交互)
第2局 高見●-○斎藤
第3局 佐藤●-○黒田
第4局 大橋○-●冨田
第5局 大橋●-○斎藤
第6局 高見○-●黒田
第7局 佐藤●-○冨田
総合2勝-5勝

【個人成績】
斎藤八段 2-0
黒田五段 2-1
冨田四段 1-1
佐藤九段 0-2
高見七段 1-1
大橋七段 1-2

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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