チーム康光VSチーム糸谷 ABEMAトーナメント2023~Dリーグ第二試合振り返り~

チーム康光VSチーム糸谷 ABEMAトーナメント2023~Dリーグ第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年06月28日

 6月24日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023予選Dリーグ第二試合を振り返る。チーム康光「駅伝」(佐藤康光九段、高見泰地七段、大橋貴洸七段)とチーム糸谷「鉄拳流」(糸谷哲郎八段、森内俊之九段、徳田拳士四段)の対戦だ。チーム康光は第一試合でチームエントリーに5勝1と快勝。チーム糸谷は初陣を迎える。振り駒の結果、チーム糸谷が先手番を得た。

 第1局はチーム糸谷がいきなりリーダーを投入。高見か大橋のイキのいい若手を倒しにいく作戦だっただろうか。チーム康光の大橋に対し、角換わりの戦いでねじ伏せている。早指しといえばやはり糸谷だ。

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第2局は高見と森内がぶつかる。戦型は相掛かり。森内の意欲的な桂頭攻めが裏目に出て、高見がまずまずの態勢に。忙しくなった森内が攻めるも高見が的確に対応して優勢になった。森内は少しらしくない将棋だったが、自身の初陣という影響もあっただろうか。

第3局はリーダーの佐藤と新鋭徳田が顔を合わせる。佐藤が阪田流向かい飛車から穴熊に組む。徳田も十分な陣形を組んでがっぷり四つ。力のこもった攻防を徳田が制した。昨年度公式戦で高勝率を挙げた徳田、しっかりと実力を見せる。関西若手の勢いはこの大会でも顕在だ。

第4局は再び高見-森内戦。戦型はまたも相掛かりだった。今度は森内が冷静な指し回しを見せてリベンジを果たした。

第5局 大橋貴洸七段─徳田拳士四段

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 第5局は大橋-徳田戦。序盤から興味深かった。よくありそうな角換わり腰掛け銀対早繰り銀の将棋である。

【第1図は▲7七角まで】

 ここで△3五歩▲4七銀△9四角が機敏な手順だった。次に△8六歩の銀取りが強烈なので▲6七銀と引いたが、△8六歩▲同歩△8八歩で筋に入った格好。▲8八同角は△6七角成▲同金△8六飛で8筋を突破できる。評価値も大橋側に数字が傾き、徳田が時間を使う。大橋が一本取ったのは誰の目にも明らかになった。

 しかしそこから徳田が勝負手順をひねり出し挽回。差を広げられないよう頑張るのは並大抵のことではなかったが、さすがであった。リードを維持したい大橋が時間をつぎ込み、あっという間に残り10秒を切る。実戦的に慌てる展開となった。

【第2図は△6六銀上まで】

 上図はもうどちらが勝ってもおかしくない。ここで▲5八玉△7六角▲5九玉なら際どく先手が残していたようだ。しかし下段に玉を落とされるのは怖すぎる。本譜は▲5六玉と上がり△7六角。ここも▲6九飛なら6六銀を食いちぎる筋があって耐えていたのだが、本譜は▲5九桂。大橋はすかさず△5四歩。その着手の勢いは慌てつつも手応えを感じていそうだった。これで先手玉は受けが難しい。▲8六角(これもすごい受け)△同銀成▲6六玉△8八角の王手飛車が決まり、大橋が勝ちになった。

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 第6局は1局目と同じく大橋-糸谷戦。糸谷の土俵ともいえる一手損角換わりに大橋が飛び込む。大橋が早繰り銀でリードを奪い勝ちきる。糸谷にも一瞬のチャンスがあったのだが、銀を成るか成らないかの選択で誤ってしまい、逃すという一幕もあった。

第7局は高見-徳田戦。両者は研究会で指したことのある間柄のようだ。相掛かりから乱戦模様となったが、高見が先輩の貫禄を示す。

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第8局 佐藤康光九段段─糸谷哲郎八段

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 第8局はリーダー対決。佐藤が三間飛車の出だしから、自ら角を交換して角交換振り飛車の将棋になる。

【第3図は▲8四馬まで】

△3五桂が抜け目ない利かし。▲7五馬は△2七桂成▲同金△7九竜で先手玉が薄すぎるので▲3六銀とかわしたが、△6五飛▲6六歩△6四飛▲同馬△2七香と一気呵成に攻め立てる。6六歩を突かせたので8四の馬が自陣に通らなくなったのも大きい。以下▲2七同金△同桂成▲同銀△7九竜と補充し、実戦的には後手がかなり勝ちやすい状況となった。あそこで踏み込まなければ佐藤が馬を駆使して妖しくペースを奪っていたかもしれない。糸谷が鋭く丸太を鉄拳で粉砕し、最終戦にバトンをつなぐ。

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第9局 佐藤康光九段段─森内俊之九段

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 第9局は佐藤-森内戦となった。これまで幾多の名勝負を生んだ平成の黄金カードである。佐藤が通称「一間飛車」と呼ばれる変わった作戦を披露。4-4のスコアで指すとは恐ろしい。森内もずんずんと棒銀で対抗。大一番はじっくり指したくなるものだが、両者とも肝が据わっている。

【第4図は△2四飛まで】

 早くも意表の一着が出た。△2四飛がそれで、▲2二角成△同銀▲1五角の王手飛車があるからだ。佐藤の予定通りかと思いきやうっかりだったとのこと。本譜もそう進めて森内がリードを奪う。

【第5図は△7二玉まで】

形勢は森内勝勢。しかし時間がない。ここからの指し回しは森内の本能ともいえるだろうか。▲2八飛成△4四歩▲3九飛が鉄板流らしい受け潰し。しかし佐藤の嫌みの付け方も絶妙で、森内はなかなか楽にならない。△7四角▲5七玉△4五歩▲8九飛△4六歩▲同歩△5六銀▲3三角△3二金▲4四角成△4三香▲1一馬△4六香▲7八玉△4七香成......以降も続くのだが、最後は大量リードを生かして森内が勝ちきった。森内の手堅い指し回しと佐藤の劣勢時からの追い込みは非常に見応えのある応酬で、眼福であった。互いにこうやって勝ってきたのだという歴史すらも感じさせた。

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 チーム糸谷は5勝4敗で大きな勝利。本戦進出に有利な状況で迎えることなった。敗れたチーム康光も勝ち星の関係で本戦進出が決定。佐藤はまさかの3連敗となったが、本戦で大暴れを期待したい。

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【総合成績】
第1局 大橋●-○糸谷(第1局はチーム糸谷が先手番。以下は交互)
第2局 高見○-●森内
第3局 佐藤●-○徳田
第4局 高見●-○森内
第5局 大橋○-●徳田
第6局 大橋○-●糸谷
第7局 高見○-●徳田
第8局 佐藤●-○糸谷
第9局 佐藤●-○森内
総合4勝-5勝

【個人成績】
佐藤九段 0-3
高見七段 2-1
大橋七段 2-1
糸谷八段 2-1
森内九段 2-1
徳田四段 1-2

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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