ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2018年02月05日
今回も2つの格言を見ていきます。
・序盤は飛車よりも角
・振り飛車には角交換を狙え
飛車と角はどちらも強い駒ですが、基本的には飛車の方が強いことが多いです。ただし序盤に関しては別で、お互いに金銀があまり動いていない低い陣形の場合は打ち込む場所のない飛車よりも、角の方が使いやすいことがあるという格言です。
飛車を渡しても相手にすぐに使われることがなく、直後に角の効果的な打ち場所があるなら飛車角交換に踏み込んで優位を得られる場合があります。
【第1図は△4二銀まで】
第1図では▲5五歩△同歩▲同飛のさばきが成立します。以下△同角▲同角は両取りの形ですし、飛車を渡しても後手は使い道がありません。先手からは▲5二飛成△同金▲2二角成△同玉▲5五角の狙いもあるので、後手は△7三銀のように受けるくらいでしょうが、▲5九飛と手順に下段まで引いて振り飛車満足の序盤です。
これは両取りという実利があるので分かりやすい例ですが、駒組みの進んでいない金銀の低い陣形は飛車を渡しやすいのです。
【第2図は▲5六角まで】
第2図は一時期プロ間でも流行した早石田の乱戦です。以前は直前の△6五角が飛車取りと角成りを見せて先手が悪いとされて指されませんでしたが、この▲5六角が発見されて流行が始まりました。
以下△7四角▲同角となり、飛車角交換ですが、やはり低い先手陣には効果的な飛車の打ち場所がありません。対して先手は角のラインを生かして手を作ろうとします。形勢は難しいのですが、「序盤は飛車よりも角」にのっとった作戦と言えるでしょう。
「振り飛車には角交換を狙え」は今では古くなってしまった格言の一つでしょうか。当初は振り飛車と言えば角道を止め、居飛車は急戦を狙っていました。
【第3図は△6四歩まで】
第3図は四間飛車に対する急戦の一つです。ここから▲4五歩と突くのがいわゆる「4五歩早仕掛け」です。△同歩なら▲3三角成△同桂▲2四歩で先手良し。居飛車の飛車先を受けているのは後手の3三角なので、角交換をすれば飛車先を突破できる、というのがこの格言の基本です。
こうなっては悪いので、もちろん後手は△4五同歩とは取らず△6三金▲3七桂△7四歩のように指すのが定跡です。
【第4図は△8二玉まで】
第4図は三間飛車に対する急戦の一つです。今度は▲3三角成に△同銀と取れる形なので、単純な飛車先突破は簡単にはいきません。▲4五歩△同歩に▲5五歩が攻めの手筋。△同角なら▲同角△同歩▲2四歩で、5五の地点で角交換になるなら飛車先を突破できます。
▲5五歩には△同歩ですが、それには▲3七桂で、3三の角を目標にするのがこの急戦の狙いです。単純な角交換ではありませんが、これも角交換を含みに飛車先突破を狙った急戦です。
【第5図は▲9八香まで】
「振り飛車には角交換を狙え」は急戦の時代にはよく使われる格言でしたが、居飛車が穴熊を目指すようになると事情が変わりました。第5図のような局面では振り飛車から△4五歩と突いて角交換を挑んできます。角交換になれば先手もバランスの取り方が悩ましいですし、▲6六歩と止めれば△3五歩から石田流の形を目指します。立石流四間飛車が有名ですが、振り飛車から角交換を狙ってくるようになりました。
さらに近年では振り飛車が角道を止めずに角交換する「角交換振り飛車」が流行しています。格言も時代とともに変わっていくという例ですね。
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段