ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2018年02月22日
今回も2つの格言を見ていきます。
・歩越し銀には歩で受けよ
・位を取ったら位の確保
どちらも序盤戦における考え方の指針になる格言です。
【第1図】
第1図は相居飛車ではよく出てきそうな形です。6四の銀がいわゆる歩越しの銀です。ここで△7五歩に▲同歩△同銀となると、▲7六歩に△8六歩から銀がさばけて後手の攻めが成功します。
△7五歩には▲6五歩が歩越しの銀を目標にした反撃で、部分的な手筋。△7六歩なら▲同銀、もしくは▲同金と応じておき、銀取りの残っている後手は△7三銀か△5三銀と引くしかありません。
▲6五歩に△同銀も▲7五歩としておけば6五の銀が銀ばさみの形で、次に▲6六歩で銀を取れます。以下△7六歩には▲8八銀、△5五歩には▲同歩で状況は変わりません。
【第2図は△7三銀まで】
第2図は先手中飛車に後手が銀を繰り出そうとしているところです。次に△6四銀から△7五歩が後手の狙いです。先手は▲5七銀△6四銀▲6六銀と受けるのもありますが、ここで▲6六歩が歩越しの銀を見越した受け。以下△6四銀に▲6五歩△同銀▲6七銀で、やはり6五に呼び込んだ銀を目標にする指し方です。
第1図、第2図ともに相手の攻めの銀を▲6五歩で責める筋で、覚えておきたい受けのテクニックです。
【第3図は△3三銀まで】
第3図は先手中飛車に後手が急戦模様です。ここで▲1五歩のようにのんびりしていると、△4四銀と出られてしまいます。すぐに5五の位を取られるわけではありませんが、▲6六歩や▲5七銀など飛車か角の利きが止まると△5五銀と取られてしまう形になり、5五の位が負担になりそうです。
第3図では▲5七銀と上がり、位の確保に向かう方が良いでしょう。△4四銀には▲5六銀(▲4六銀)と歩調を合わせれば5五の位を安定させることができます。
【第4図は▲3七銀まで】
第4図は平成初期のころから指されていた矢倉の定跡形の一つです。「位を取ったら位の確保」なら△5三銀▲4八飛△4四銀右ですが、▲4六歩と突かれてしまいます。形勢は難しいのですが、位が目標になる形で後手が不満とされていました。
ただ数年前に△4四銀右のところで、△9四歩と突く手が発見されました。どうせ位を確保できないなら、あえて放棄してしまう考え方です。格言から常識とされてきた考え方が変わった例です。
【第5図は△5三銀まで】
第5図は高崎一生六段と佐藤秀司七段の実戦から(2011年12月・順位戦C1)。向かい飛車から持久戦になりそうな局面です。ここから▲4五歩が積極的な位取り。以下△7七角成▲同桂△2二玉▲4六銀で位を安定させにいきます。「位を取ったら位の確保」の格言通りの指し方です。
これがたとえば▲5七銀と△6四歩の交換が入っていない状態で▲4五歩と位を取ると、△7七角成~△3三桂で位が負担になりかねません。すぐに位を支えることができる状態だからこそ、歩を伸ばしやすいのです。
【第6図は▲3七桂まで】
数手進んで第6図です。4五の位が安定しており、銀多伝風に組み上げた先手陣はのびのびとしています。位を確保できれば、駒組みにおいてポイントとなるのです。対抗形においては玉頭の位は将来敵玉への攻めの拠点になることもあるので、大きな位です。
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段