ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2018年09月12日
今回は終盤戦に競り勝つための、寄せの格言を見ていきます。
【第1図】
第1図は実戦でも出てくることのありそうな形です。ここで▲2三金△同金▲同歩成△同玉▲2一竜と駒を取りながら王手を続ける寄せも有力ですが、相手の戦力が豊富な場合は上部に逃がしてしまうおそれもあります。▲2三金△同金▲2一竜△同玉▲2三歩成が覚えておきたい寄せ。「玉は下段に落とせ」です。上から押さえて持駒が金桂は、典型的な必至図です。局面全体を見て、どちらの寄せが良いか比較して指しましょう。
【第2図】
第2図は有名な必至問題。ここで▲2二銀が手筋です。これが「玉の腹から銀を打て」の格言です。普段は「腹銀」のように使われることも多いでしょう。▲2二銀は次に▲1三金△同桂▲2一銀不成の詰みを狙っています。①△2四歩には▲3三金(以下△3二金は▲1三歩△同桂▲3二金)。②△8一飛には▲2一金で必至。③△3一金には▲1三金△同桂▲3一銀不成△2五桂▲2二銀不成まで必至。腹銀だけではなく、受けられた時の寄せ手順までセットで覚えておきましょう。
第1図、第2図に共通した格言が「金はトドメに残せ」です。金を持駒にしておけば玉を詰ましやすいので、温存しておこうという意味です。以上3つの格言を踏まえてプロの実戦から寄せを見ていきましょう。
【第3図は64手目△5四同銀まで】
第3図は2018年1月の第44期岡田美術館杯女流名人戦第2局(▲里見香奈女流名人△伊藤沙恵女流二段)の終盤戦。ここで▲3一角!が派手な寄せでした。△同玉なら▲3四桂で上から押さえて寄り筋となります。実戦は△2三玉と上に逃げたものの、▲4六桂△4五銀▲6三歩成△同竜▲6四歩(△同竜なら▲4一桂成)△6二竜▲6三銀と手堅く攻めをつなぎ、先手勝勢となりました。▲3一角が入ったのは大きく、後手は粘りが難しくなりました。
【第4図は104手目△6二同玉まで】
次は監修の髙﨑一生六段の実戦から。第4図は2010年10月の第59期王座戦一次予選(▲高崎五段△阿部健治郎四段 ※段位は対局当時のもの)戦。広そうな後手玉ですが、▲7一角が鋭手。△5一玉は▲5三角成、△7三玉も▲9三角成があるので△7一同玉と取るよりありません。そして上から▲7三銀と押さえます。金を持っていれば△7二金の受けがありますが、この場合は「金なし将棋に受け手なし」。実戦は△7二香▲6二金△8一玉▲7二金△9二玉▲9四香△同銀▲8二銀不成(第5図)まで、最後は腹銀の形に持ち込んで必至が掛かりました。下段に落とし、上から押さえ、トドメは腹銀と基本を組み合わせた寄せです。
【第5図は115手目▲8二銀不成まで】
【第6図は101手目△8七同桂まで】
最後に直近のタイトル戦からの問題です。第6図は第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第5局(▲羽生善治棋聖△豊島将之八段)の終盤戦。2九飛の利きに注意して先手玉を寄せきりましょう。
実戦は△7八金▲9八玉△8八銀と腹銀の手筋で受けなしに。以下▲6七歩と角を取りましたが、△9九銀成▲同玉△9七香まで、先手の投了となり豊島八段が初タイトルを獲得しました。△9七香に▲同桂なら△7七角と「大駒は離して打て」の筋で詰みとなります。
ライター渡部壮大