将棋コラム

感想戦は実体験を通じた最大の勉強の場【将棋と教育】

感想戦は実体験を通じた最大の勉強の場【将棋と教育】

更新: 2017年10月09日

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

子供たちは将棋から何を学ぶのか

先日の王座戦第一局の終盤は凄いものでした。まさに、人間対人間の将棋。羽生善治王座と中村太地六段が最後の勝利に向けて残り時間が切迫した中、その最善手を模索する姿が映像でも流されていました。両者の最後の一手まで自分の力をぶつけ合う姿、指し手に、これはコンピュータ将棋では決して出来ない感動を与えてもらった気がしました。まさにこの実体験が棋士を美しいものにしているのだと確信した出来事でした。

この実体験こそが最高の学びであると羽生二冠は言います。プロ棋士はその学びの道を、現役生活の長きにわたって歩み続けているのです。何十年もの間継続するためには、新鮮な気持ちで居続けられるということも大切なのです。

実体験こそが最高の学び

「今の時代、将棋の持つ意味、その教育的意義にはどんなことがあると思われますか?」とお聞きしたとき、羽生二冠は、実体験できることの大切さをお話ししてくれました。

「たとえば、『アフリカの子どもたち』の飢餓のビデオを見るとしますよね。それを見てその瞬間は自分を振り返り、考えると思います。しかし、一時間もするとそれを忘れている自分がいたりしますよね。もしそれが自分の家族や親戚の話だったとしたら・・・また、自分の家族がいなくなったとしたら・・・」

このように話を自分事としてとらえるような実体験、「これは自分のことなのだ」という経験を作り出していくことが大切なのだと羽生二冠は言います。

将棋を指すときは、頭で考えた手を実際の対局を通じて、実体験を重ねることができます。なんでこの手を指したか、何が間違いでピンチになってしまったか、どういうプロセスでこういう状況になったか。本での知識や誰かの将棋を見るだけでなく、自分でその場で指していたという、実体験で語れることが大きな意味だと言います。

kyoiku39_02.jpg

感想戦の意義――巻き戻して反省する共同作業

将棋には「感想戦」があります。スポーツの世界などをはじめとして、勝負事のほとんどは、その場で振り返り、自分の反省点を点検することは困難でしょう。野球の投手がなぜ打たれたか、その場でビデオテープを巻き戻し、反省して次の回に投げるということはないでしょう。また、試合後に反省するとして、打たれた球やそれまでの配球の組み立てなどを見直したり、チームメンバーやコーチなどから意見をもらったりすることは出来るかもしれません。しかし、対戦した打者からの意見やそのときの感じたことを一球一球シェアしてもらえることはありません。

将棋の感想戦は、勝負の直後に、お互い今まで対戦相手だった同士が自分の指し手の善悪を検証し合います。そのときに、どんな心境であったか、どんなことを考えていたか。次回は同じ失敗をしないように、あるいは次はもっと良い手を指せるように、お互いの意見を出し合い、高め合っていく。将棋にはそんな振り返りの機会が仕組みとしてあるのです。

反省する作業を共同で行う感想戦が、実体験を通じた最大の勉強の場になるのです。

社会では、すべてのことを経験できるわけではありません。ですが、勉強過程である子供たちには、実体験できることはその機会を与えることで、自力で学び取ることや、自分のこととして感じるという体験をしてほしいと思います。「自分の責任でこれをやって、その結果こんな風になった」ということを、身をもって体験していってほしいものです。

kyoiku39_01.jpg

1日1時間としても、それを20年間以上も続ける重み

「ひとつのことを1日1時間はすること」はできるけれど、それを「20年間続けること」は、果たしてできるでしょうか。

棋士は、長い現役生活を将棋の修行に打ち込みます。棋譜並べ、詰将棋、局面研究など日ごろの訓練を地道に続けています。一手一手の是非が生活に直結する厳しさの中で戦っていますから、普段の生活の中でも、自分自身を高めること、経験から振り返ること、学ぶ時間を持つことを常に意識しています。

羽生二冠は、対局や研究に加えて他の仕事などで忙しい日々の生活の中で、改めて「ゆとりの時間」を大切にしているそうです。電車の駅をあえて一駅前で降り、ただひたすら歩くこともしているそうです。頭の中に空白の時間を作って、新たな気持ちで盤に向かうのだそうです。新鮮な気持ちで、対局に臨むと新しい発想が生まれるのでしょう。

実体験を基にした、継続は力なり

自分の成長に必要なあらゆることを吸収する方法を知り、そのための時間をいかに作っていくか。そしてそれを「ずっと続けていくこと」がとても大切になるそうです。

コツコツとまじめに続けることは教育の基本そのものです。楽な道ではないかもしれないけれど、確実に積み上げることの出来る道。実体験を基にした確実な学びの道を、歩んでいってほしいと思います。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

私立暁星小学校教諭。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

このライターの記事一覧

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています