難しい詰将棋の問題を出された時に、子供はどのように対応するべきなのか?

難しい詰将棋の問題を出された時に、子供はどのように対応するべきなのか?

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年09月06日

教室の子供たちを見ているとそれぞれの子の素晴らしさが見えてきます。しかし、一人の子としてみるととてもいい子、素直な子に見えるのが、いざ集団になったときに今の子は少し違って見えるときがあります。人とのかかわり不足、いわゆるコミュニケーション不足からか、どうしてもわがままが顔を出すときがあるのです。

個性をぶつける子供たちの意識が徐々に変化していく

特に一年生の初期の教室は、それぞれの幼稚園から来た子が、その個性をぶつけることになります。今までとは少し違った関係性のコミュニケーションがそこにはあり、これまで失敗をしてこなかった子同士のぶつかり合いが生まれたりもします。自分の思いをストレートに言い合う中で子供たちは、他者のとのかかわり方、社会性や協調性を学んでいきます。一時的な衝突も、実は大切なことなのだと教室にいると感じます。

そんな、個性をぶつけていた子供たちも、学年が上がり、中学年から高学年になると変化が見られます。自分が分かっている問題には積極的に手を挙げるけれど、少し疑問があると失敗を恐れて手を挙げないという、自分の意見を抑える子が増えてきます。「間違うことは恥だ」という意識が生まれてくるのでしょう。

この意識は、昔よりも現代の方が強くなっていると感じます。拙著「将棋に学ぶ」(東洋館出版)での羽生三冠との対談の時にも、この話題になりました。羽生三冠は、「現代の子ども達は友達同士の絆をもっとも大切にしていくのでこの傾向はますます強くなっていくでしょうね」とおっしゃっていました。

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アンケートの結果から見えてくる「恥の文化」の表れ

30年以上前になりますが、私の指導している将棋クラブで小学生の児童を対象にアンケートを行ったことがあります。そのアンケート項目に、子供の思考力・創造性を調べようという狙いで、3問の詰将棋を出題しました。1問目はアンケートの1週間前の講義で行った問題、次の2問は応用問題として難易度を上げた問題です。

応用問題は難問でしたので正答率は低かったものの、なんとか解こうとして記入した児童が78%もいて、その問題に関する執着心、やる気は十分であったことが読み取れました。

それから21年後、同じ方式でアンケートを行いました。正答率は同じような結果になったのですが、記入があったのが43%という結果になりました。21年前のおよそ半分です。分からないとき一手目の王手さえ書かない、空白での回答が目立ちました。最近の子は、自分でわかったときはいいのですが、応用問題を出されて分からなかったときに、間違いを恐れて諦めてしまうという傾向が読み取れました。

完璧な答えを求め続けている大人社会が今の子供たちの自由を奪っているのかもしれません。これからも、「教室は間違える場所である」と子供たちには言い続けて、常に挑戦できるような環境にしていきたいと思っています。

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恥の文化とリセットボタン

昔と比べると現代の方が情報社会で大変便利な環境になっています。携帯電話、コンピュータの普及など、昔は無かった機器が氾濫し、情報があふれている中で育っている子供たち。間違いを恐れてしまうのは、どうしてなのでしょう。

それはもしかすると、前記の恥の文化をもたらしたものは、「リセットボタン」ではないかと思っています。間違いはリセットして「無かったこと」にして、正しい答えを出して終わらせる。そんなことが容易にできるような環境になったからではないでしょうか。 正しい答えがすべてよくて、間違えた答えがすべてダメ、というものではありません。間違いを恐れて何もしないよりも、間違いから学びを深めるプロセスの方がよっぽど大切なのです。

昔は無かった、簡単に押せなかったリセットボタン。今は、目の前に人がいないこと、顔が見えないこと、間違うと簡単にやり直せるリセットボタンの弊害があるのではないかと思います。

チャレンジを通じて子供は成長し続ける

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将棋盤を介し対峙して、年齢性別を超えて、一手一手お互いの指し手と無言の会話をする将棋。そして、自分の負けを認めて「負けました。」と言うこと、自分を振り返る感想戦をお互いにするコミュニケーション力、考える集中力、持続力、忍耐力。 多くのチャレンジと、失敗からの学びによって、子供たちは成長し続けていきます。間違いをリセットするのではなく、そこから学びにつなげられるよう、応援していきたいものですね。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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