見守ることが子供との絆をより深める。「無言の声援者」として子供を信じることの大切さ【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

見守ることが子供との絆をより深める。「無言の声援者」として子供を信じることの大切さ【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年05月09日

将棋の大会などで子どもたちの対局を保護者が観戦する場合、応援や声援は禁止されています。保護者は、一生懸命頑張っている子供をただ見守るだけの「無言の声援者」でなければならないのです。無言の声援を送る親子の間には、強い絆で結ばれるのです。

将棋を学ぶと子どもたちの「眼」も変わる

これまでも将棋の「型」から教えられることを様々な視点で見てきましたが、実際、1年間でも将棋を学ぶと、何よりもまず子供たちの眼が変わります。ここぞというとき、100パーセントの力を出すべきときに、真剣な眼になれます。これからの人生、子どもたちは様々なハードルを乗り越えていかなくてはならないでしょう。そのときの心の持ち方の感覚を、幼いうちから将棋を通じて実体験できるのです。

将棋の教育的な効果と言うと「考える習慣」「論理的思考力」のような頭脳に関する効果がまず挙げられます。しかしそれだけでなく、もっと大切なことを子どもたちが実体験して手にしていくのです。例えば、「相手との無言の会話」「相手を待つという行為」「我慢」「粘り強さ」「負けましたと言う勇気」「自分の内面と向き合うこと」など、心の内側における「気づき」をもたらすのです。これらを手にすることでの子どもたちの変化は眼差しに現れます。明るく無邪気な眼差しに、それでいて思慮深さが加わっていくのです。

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保護者は「無言の声援者」でなければならない

保護者の方々も、その変化に気づいていることでしょう。その証拠に、こどもを対象にした将棋大会は年々参加者が増えています。テーブルマークこども大会では全国で10000人の規模にまで大きくなり、小さな子供に将棋をさせようと考える保護者が増えていることがよくわかります。

将棋の大会を運営しているスタッフさんから、こんなことを聞きました。「将棋の大会って、他の競技と違って保護者のマナーがいいんですよね」。

実は将棋の大会では、応援や声援は禁止されています。保護者が観戦するにあたっては、対局場の周りに黄色の線が引かれ、その内側には入れないようになっています。保護者はただ見守るだけの「無言の声援者」でなければなりません。

一生懸命頑張っている子供を信じて、その背中を黙って見つめているお父さん、お母さん。必死に格闘している自分の子どもを前にして、きっと苦しい気持ちになってご覧になっていることでしょう。

大声を張り上げたり、音を立てたりして応援する競技やスポーツが多い中、じっと黙って見守る。子どもの力を信じて、子どもに任せるといった無言の声援も、私たちが忘れそうになっている日本人の心なのではないでしょうか。将棋をする実体験は、教育の基本「見守る」ことを教えてくれるのです。

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2016年度 将棋日本シリーズ 北海道大会 テーブルマークこども大会

子どもとの絆がより深まっていく

一方で無言の声援を受けている子どもは、どんなにつらくても、誰にも頼ることはできず、すべて自分の責任で対局を進めなければなりません。負けそうになって、泣きたくなったとしても、頼れるのは自分だけなのです。この経験を通じて、自己責任について、実体験として学んでいくのです。

自分自身の力だけで戦っている子どもと、それを無言で見つめ応援し続ける保護者は、目には見えない強い絆で結ばれています。その経験を重ねるたびに、子どもも保護者もお互いを信頼し合って、絆が強固なものに育っていくのです。

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一歩離れて、無言で声援を送り続ける体験を

もし、将棋の大会に親子で参加する機会がありましたら、お子さんが真剣に将棋を指しているその姿を、無言で見続けるという体験をしていただきたいと思います。勝っても負けても、頑張った子どもを見守ってあげてください。そしてその帰路、お子さんとじっくり話し合ってみてください。「お母さん、今日はとっても楽しかったわ。あなたの真剣な顔が見れたから。」と。

こうした親子の会話こそ、子どもを励まし次の意欲へつなげる、「親子の感想戦」でもあるのです。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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