将棋コラム

将棋で負けた子供へはどう接すればいい?「負けました」から得られる心の成長【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

将棋で負けた子供へはどう接すればいい?「負けました」から得られる心の成長【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

更新: 2017年04月28日

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子供たちは将棋から何を学ぶのか

負けるのは、悔しいことですよね。まして自分の負けをしっかりと認め、自分の口で「負けました」と相手に伝えなければならないとは、悔しさもひとしおです。しかし、「負けました」と伝えるたびに得られるものは、悔しさだけではありません。今回のコラムでは、「負けました」で得られる子どもの心の成長の機会をお伝えします。

「負けました」と言うのはこんなにも悔しい

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将棋は、相手と同じ条件、同じルールの下で戦います。お互いに自分の考えをぶつけ合い、駒を一手ずつ動かしていきますから、運の要素はありません。お互いが全力を尽くした結果、どちらか一方が勝ち、もう一方が負けるという過酷なゲームです。負けの原因はすべて自分にあり、負けの責任はすべて自分で負わなければなりません。だから、負けると余計に悔しいのです。そんな中で、「負けました」と言わなければならないですから、これは相当につらいものです。しかし、そこにあるのは悔しさだけではありません。見方を少し変えてみましょう。

能動的に取り組むことで得られるものが何倍にもなる

よく保護者の方から、「子どもに宿題をやらせるにはどうしたらいいですか?」と質問されることがあります。そのときには、「子どもに『これから宿題をやります!』と宣言させるようにしてください」とアドバイスします。その宣言だけで、子どもにとって宿題は能動的に取り組むべきものに変わるのです。親に「早く宿題をやりなさい」と言われてイヤイヤ取り組む宿題と、自分で能動的に取り組む宿題とでは、意欲が全く違うものになります。意欲が違えば、そこから得るもの、身につくものも変わってくることでしょう。

この宣言と同じように、「負けました」と能動的に言うことが大切な行為です。敗者が能動的に口に出した瞬間、負けは単なる負けではなくなるのです。確かに将棋には負けたでしょう。しかし、それでも悔しい気持ちを折りたたんで「負けました」と言ったのは、「弱い自分に打ち克った」という証、宣言でもあるのです。「負けました」は、敗者にだけ与えられた特権です。負けを宣言することで、負けたほうが勝った相手よりも精神的に上にいけるものなのです。だからこそ、「負けました」と口に出していう意味があるのです。

将棋は、「負けました」と言って勝負が終わるというのが「型」として組み込まれていますから、負けてなお成長する機会が用意されています。「負けました」というその行為を実体感し続けることができるゲームなのです。

負けを乗り越えることで人は成長する

この「負けました」を言う意義に気づくと、負けがプラスの意味を持ちます。将棋に限らず、スポーツでも運動でも同じで、「負けた。悔しいからもうやめた」では進歩はありません。負けて悔しい気持ちを折りたたみ、負けを乗り越えてまた前に歩きだすことで、人は成長していきます。

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(テーブルマークこども大会より)

「テーブルマークこども大会」という将棋大会は、2016年は全国11都市で開催されていて、全国で9,000人を超える子どもたちが参加しています。東京会場では、2,500人を超える子どもたちが一堂に会して将棋を指すという壮大なスケールで開催されています。

よく考えれば、決勝戦で勝つ子以外はすべて、「負けました」と言うことになるのだと、私は感慨深い思いにかられました。うがった言い方をすれば、わざわざ「負けました」というために会場に集まったことにもなります。巷には、もっと気軽に楽しめるゲーム・娯楽があるにもかかわらず、多くの子どもたちがせっかくの休日に、「負けました」と言いに参加しているのです。しかも、毎年の参加人数が増えていますので、前回参加した子どもが友達にもすすめて、仲間を増やして、翌年の大会に参加しているということでしょう。

将棋を指した子どもが、実際に対局することで何か感じるものがあったおかげと言えるのではないでしょうか。将棋はルールに合っていれば指し手は全て自由に選べます。この自由さも現代の子には魅力なのではないかと感じています。保護者の方々も、子どもが「何か」を感じ取ったことにより、確実に変わってきていることを実感しているからこそ、将棋を楽しませて、続けさせているという証拠なのではないでしょうか。

負けてしまった子どもへの接し方

あるとき、こんなことがありました。野球が大好きで、将棋はまだ始めたばかりの2年生の児童が初めて将棋道場に行くと言っていた日に、道場でしょんぼりとした様子を見かけました。「どうしたの?」と声をかけると、「全部負けちゃいました。3連敗・・・」といかにも残念そうな様子で言うのです。私は、「えらいぞ!よく3回も『負けました』を言えたね!」と励まし、「午後もしっかりと負けてきなさい。将棋は負ければ負けるほど強くなるんだからね」と伝えました。すると、その子は笑顔を取り戻し、また午後の道場へと入っていきました。

その翌日、その子の保護者からお手紙をいただきました。「昨日は、息子は夕方まで将棋を指していました。必死に考えている横顔を見ていたら、何かいつもの息子とは違う面を垣間見た気がしました。最終局を終えた息子と対面したときの、あの顔は忘れられません。20局対局して2回しか勝てなかったけれど、その充実した表情は、それまで待っていた私の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれました」

きっと、この子に限らず、ほかの多くの子どもやそのご家族も、同じような体験をしていることでしょう。

「負けました」を言いながらの成長を応援する

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子どもが将棋を始めたばかりのうちは、なかなか勝てず、負けることが多いものです。3連敗、4連敗と続いてしまうと、悔しさが前面に出て、泣いてしまうかもしれません。しかしそんなときには、悔しい気持ちを折りたたんで、「負けました」と言えたことを褒めてあげてください。負けましたを言いながら子どもが成長していく様子を応援しつつ、子どもが負けても次に挑戦できるように声をかけてあげられる、そんな会話が家庭に広がってほしいと思います。

子どもの将棋に口出しをすることはできません。しかし、負けを乗り越えて、また次の対局へと向かえるように子どもを応援することならできます。黙って子どもを見守ることが教育の原点です。見守られている子は伸びしろがあります。そういう姿勢で子どもの成長を見守っていくことが、絆を強め、自立の心を育てることにつながるのです。

子供たちは将棋から何を学ぶのか

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

私立暁星小学校教諭。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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