チーム藤井VSチーム千田 ABEMAトーナメント2023~Eリーグ第二試合振り返り~

チーム藤井VSチーム千田 ABEMAトーナメント2023~Eリーグ第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2023年07月19日

 7月15日(土)に放送されたABEMAトーナメント2023予選Eリーグ第二試合を振り返る。チーム藤井「トウカイテイオー」(藤井聡太竜王・名人、澤田真吾七段、齊藤裕也四段)とチーム千田「シーソーゲーム」(千田翔太七段、西田拓也五段、藤本渚四段)の対戦だ。いよいよファン待望のチーム藤井の登場である。昨年はまさかの予選落ちを喫したが、今回はどうか。チーム千田は第一試合でチーム渡辺とのシーソーゲームを制して勢いに乗っている。

第1局 齊藤裕也四段─藤本渚四段

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 振り駒の結果、チーム藤井の先手番。第1局は齊藤と藤本のフレッシュな対決になった。両者は四段昇段が同期である。ともに公式戦で好調だ。将棋は齊藤の先手中飛車。力のこもった攻防が続いた。

【第1図は▲5三歩まで】

 齊藤が▲5三歩とパンチを入れる。対処が難しいようだが△4二金寄▲5四桂△5三銀がうまかった。手順中の▲5四桂が絶品なので読みから外してしまいそうだが、△5三銀以下▲4二桂成△同銀まで進むと意外にもスッキリしていて厳しい継続手がなくなっている。

【第2図は△2一金まで】

 ひと息ついたところで、△2一金と埋めたのが酸いも甘いも知り尽くしたかのような一着。すぐに自玉に危機は迫っていないものの、先受けしておくことで強く戦いやすくなっている。17歳とは思えぬ落ち着きぶりだった。しっかりと補強してから△1五歩と端攻めに転じて勝利。藤本の持ち味が存分に出ていた好局だった。

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 第2局は藤井と千田のリーダー対決が実現。角換わりのいい勝負が続く中、千田に▲5五桂という落手が出てしまう(△4六角の王手桂取りがあり、すぐ取られてしまうのだ)。千田は指す直前に気づいたそうだが、「留まるのはマナー違反」と見て仕方なくそのまま着手。あっ、と気づいて手を引っ込めず、礼儀を重んじる千田の熱い一面が見られた。だがその損失は痛く、藤井は見逃さずにとがめて1勝1敗に。

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 第3局は齊藤と西田がぶつかる。先手中飛車対向かい飛車の出だしから、駆け引きの末に齊藤が居飛車に戻し、穴熊に組む対抗形になる。ここは西田が緩急自在の指し回しで穴熊を攻略し、貫禄を示した。

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 第4局はいよいよ澤田が初登板。勢いに乗る西田は連投。森信雄七段門下の同門対決となった。澤田といえば長考派のイメージがあるが、この超早指し戦でも時間を多く残すなど慣れているように映った。西田の三間飛車に澤田は左美濃から穴熊に組む工夫を見せる。実戦的な食いつきでペースを握った西田が兄弟子を破った。西田は対局前に「自分の仕事をするだけ」とよく話すが、この職人芸には目を見張るものがある。

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 第5局。ここまでチーム千田が3勝1敗でリード。チーム藤井は流れを変えるべく藤井が出陣。チーム千田も藤井が出てくると読んだのだろう、藤本をぶつけた。チーム千田は当初から藤井-藤本戦を実現させたいと話しており、勝敗以上に大きな仕事を成し遂げたといえそうだ。注目の一番は、藤井が今大会大活躍の藤本のよさをまったく出させない圧倒的な指し回し。矢倉で雁木をじわじわと攻略していった。まさしく横綱相撲の内容に筆者は驚愕。藤本は対局後に「自分と差が歴然としている」と肩を落とした。

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第6局 千田翔太七段─澤田真吾七段

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 第6局は澤田-千田戦に。このふたりも森信雄七段門下の同門対決だ。澤田は三間飛車を採用。9筋の位を取ったのを見て千田が逆襲する展開に。

【第3図は▲7七角まで】

 ここで澤田は△9一香と先着し、制空権を握りにいったが▲9九香が機敏な切り返しだった。△9九同香成は▲同飛が幸便。解説の佐々木慎七段は「いい手ですね」。チーム千田の控室からは「得したかも」。藤井は「損した気がします」と、各々のリアクションが見られた。

 だがそこで崩れず△9三銀と上がったのがまたすごい手だった。▲9二歩を受けたのだが、意外とこれでバランスが保たれている。▲9三同香成は△同香で、9筋を我が物にできるので後手よし。最後は澤田が角のにらみを生かして先手陣を攻略した。チーム藤井が3勝3敗で追いつく。

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 第7局は澤田と藤本の対戦。相掛かりの戦いになったが、澤田が作戦勝ち模様から積極的に端攻めを敢行し、気づけば藤本陣が完全崩壊。澤田がほぼ一方的に攻め続けて快勝した。藤本は経験値の差が出てしまったか。チームメイトに拍手で迎えられた澤田は「たまにはいい将棋指します」とユニークに語った。

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第8局 西田拓也五段─藤井聡太竜王

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 第8局は藤井と西田の対戦になった。チーム藤井は王手をかけている。リーダーが自ら決めにいったが、西田もここまで絶好調。熱戦の将棋になった。

【第4図は△4九角まで】

 ここまでずっと藤井がリードしており、いよいよ決めにいったかという局面になった。しかしこの△4九角が危険な手。▲4三角成△同銀▲4一竜と踏み込んでいれば逆転模様だった。以下△1七角▲1八玉△2八金▲同銀△同角成▲同玉△2七角成▲同玉△2九竜と王手が続くのだが、際どく詰まない。しかし相手はあの藤井である。ほかにも王手の筋は多いため、相手の読み筋を外したくなるのが人情だ。実戦は▲1三銀△同桂▲同歩成△同香▲1四桂打と1筋をカバーして手番を握ったが、△3三玉で後手玉が安全になり、再び藤井がよくなった。最後もスマートに着地を決めて勝利。

 チーム藤井が5勝3敗で制した。いろいろなカードと戦型が見られて満足された方も多いのではないか。改めて藤井の強さが際立った。チーム千田は1勝1敗。第三試合の結果によって運命が決まる。試合後のインタビューで千田は兄弟子の澤田を、藤本は同期の齊藤を全力応援していたのが印象的だった。果たしてどのチームが勝ち上がるだろうか。

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【総合成績】
第1局 齊藤●-○藤本(第1局はチーム藤井が先手番。以下は交互)
第2局 藤井○-●千田
第3局 齊藤●-○西田
第4局 澤田●-○西田
第5局 藤井○-●藤本
第6局 澤田○-●千田
第7局 澤田○-●藤本
第8局 藤井○-●西田
総合5勝-3勝

【個人成績】
藤井竜王・名人 3-0
澤田七段 2-1
齊藤四段 0-2
千田七段 0-2
西田五段 2-1
藤本四段 1-2

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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