チーム渡辺VSチーム千田 ABEMAトーナメント2023~Eリーグ第一試合振り返り~

チーム渡辺VSチーム千田 ABEMAトーナメント2023~Eリーグ第一試合振り返り~

ライター: 相崎修司  更新: 2023年07月11日

 7月8日(土)に放映された予選Eリーグ第一試合、チーム渡辺「ランランラン」(渡辺明九段、佐々木勇気八段、岡部怜央四段)対チーム千田「シーソーゲーム」(千田翔太七段、西田拓也五段、藤本渚四段)戦の模様をお伝えする。

 第1局は振り駒の結果、チーム千田が先手に。対戦カードは▲西田―△岡部となる。西田が得意の四間飛車から中盤でリードを奪い、快勝。
「初戦、西田さんで正解でしたね」(千田)
「正解でしたね」(藤本)
 と、チームメイトも笑顔を見せる。チーム千田は千田と藤本がABEMAトーナメント初参加なので、前回でフィッシャールールの経験がある西田が先陣を切り、勝利をもたらしたのはチームに弾みをつけたか

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 第2局は▲渡辺―△藤本戦。先手矢倉対後手雁木から急戦となる。中盤で生じた渡辺の一失を藤本が的確にとがめ、新鋭が大敵を下したチーム千田が2連勝。控室に戻った渡辺は「グラウンド3週、いや10週レベルの(罰ゲームを課すべき)将棋を指してしまいました」とうなだれた。

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 第3局、チーム千田は藤本が連闘。チーム渡辺は佐々木が出陣し、なんと千日手に。先後を入れ替えた指し直し局は相居飛車の力戦から、終盤で藤本が引き離して勝利した。

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第4局 岡部怜央四段─藤本渚四段

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 第4局は何と藤本が3連闘、ここで勝てばチーム千田の勝利はほぼ決まる。対して苦しい状況のチーム渡辺は岡部が第1局以来の再登場。岡部も初のABEMAトーナメント参加であるため、まずは目先の1勝が欲しいところだ。本局は岡部の先手で相居飛車の力戦形となり、形勢は一進一退の状況が続く。そして迎えたのが第1図である。

【第1図は△3三同桂左まで】

 ここでは後手が優勢になっているのだが、早指しの対局では何が起こるかわからない。実戦は以下▲4三歩成△同歩▲同飛成△同金▲同角成△8六歩▲5三銀△同桂▲同桂成△同馬▲7四桂と進み、王手飛車取りを掛けた岡部が逆転に成功した。手順中の△8六歩では△7四香と王手飛車の筋を消す攻防手を放っていれば後手が優勢を維持できていた。

 チームに待望の初勝利をもたらした岡部は「途中の内容は満足できるものではありませんが、何とか勝つことができてよかった。チームとしても自分としても初めての勝利なので、これから流れを取り戻せれば」と語った。

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 第5局はリーダー対決となり、相掛かりに。渡辺が序盤に初歩的なミスをして「チームメイトに合わせる顔がない」と冷や汗をかいていたが、終盤で粘りの好手を放ち、逆転勝ち。千田は初のフィッシャー対局について「中終盤に難があったのは悔やまれる」と振り返った。

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 第6局は▲岡部―△西田戦。第1局から先後を入れ替えての対戦は、西田の三間飛車に対し、居飛車穴熊から趣向の駒組を見せた岡部が制勝。初戦のリベンジを果たした。この時点で3勝3敗の五分。そして両チームとも岡部、藤本という初参加の若手が2勝1敗という好成績でチームに貢献している。残る3局で、後輩の奮戦に報いるのはどちらのチームか。

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第8局 渡辺明名人─千田翔太七段

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 果たして第7局は▲千田―△佐々木の同世代対決となり、佐々木が勝利。チーム渡辺が3連敗からの4連勝で、勝ち越しに王手をかけた。あとがなくなったチーム千田は第8局でリーダーが自らの責任を果たすべく、連闘。この日2度目のリーダー対決となった。

【第2図は△5八歩成まで】

 終盤の第2図。実戦はここから▲5八同金△5六飛▲4九銀△2三歩▲3四飛△5七角成と進んで後手勝勢になり、フィッシャールールで初勝利を上げた千田がフルセットに持ち込んだ。図からの▲5八同金は当然のようだが、実はチャンスを逃した一着で、ここでは▲6四角と打つ手があった。実はこの手が後手玉への詰めろになっている。よって△6八とや△4八角成▲2九玉△3七金では間に合わない。しかしこの瞬間の後手には持ち駒が無いため、2四の飛車の利きを遮るのが困難なのだ。

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第9局 佐々木勇気八段─西田拓也五段

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 最終第9局は振り駒の結果、チーム渡辺の先手で▲佐々木―△西田戦に。このカードを実現させるために、8回戦で自らが連闘したのが千田の深謀遠慮である。実は前回のABEMAトーナメントで、西田は佐々木相手に3勝1敗と勝ち越している。この相性のよさにも懸けたのだ。

【第3図は▲9九玉まで】

 第3図から△9三銀▲5八金右△8四銀▲6七金△7二金▲7八金△3一飛というのが驚きの順である。解説の藤森哲也五段は「凄い手が出ましたね」と感嘆した。狙いは△9二香~△9一飛の地下鉄飛車による居飛車穴熊の粉砕である。佐々木は△3一飛に対して▲8八玉△6四歩▲8六歩と、▲8七金を用意する非常手段で頑張ったが、△9五歩と仕掛けてからよどみなく攻めたてた西田が快勝し、チーム千田の勝利が決まった。西田の指し回しについて「振り飛車をやりたくなる人がまたこれで増えるのではないでしょうか」と藤森五段は絶賛した。

 チーム千田がその名の通りのシーソーゲームを制して、まずは1勝。7月15日に放映される予選Eリーグ第二試合でチーム藤井「トウカイテイオー」相手に、予選通過をかけて臨む。こちらの対戦もどうぞお楽しみに。

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【総合成績】(第1局はチーム千田が先手番。以下は第8局まで交互、第9局はチーム渡辺の先手番)
第1局 西田○-●岡部
第2局 藤本○-●渡辺
第3局 藤本○-●佐々木(千日手指し直し)
第4局 藤本●-○岡部
第5局 千田●-○渡辺
第6局 西田●-○岡部
第7局 千田●-○佐々木
第8局 千田○-●渡辺
第9局 西田○-●佐々木
総合5勝 ― 4勝

【個人成績】
千田七段 1-2
西田五段 2-1
藤本四段 2-1
渡辺九段 1-2
佐々木八段 1-2
岡部四段 2-1

ABEMAトーナメント

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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