佐藤天彦名人が名人戦3連覇を達成、渡部愛が新女流王位に就位した6月の将棋界を振り返る【2018年6月振り返り】

佐藤天彦名人が名人戦3連覇を達成、渡部愛が新女流王位に就位した6月の将棋界を振り返る【2018年6月振り返り】

ライター: 生姜  更新: 2019年02月10日

2018年の将棋界を振り返るこのシリーズ。今回は新たなヒロインが誕生した女流王位戦や佐藤天彦名人が3連覇を果たした名人戦を振り返ってみましょう!(肩書・段位はいずれも当時)

豊島将之八段が王位戦も挑戦者に(2018年6月14日)

2018年は豊島将之八段の快進撃が止まりませんでした。ヒューリック杯棋聖戦で挑戦者になったあと、王位戦でも挑戦者決定リーグ白組で4勝1敗と勝ち星を重ね、プレーオフでは澤田真吾六段に勝利。挑戦者決定戦に駒を進めました。対するは羽生善治竜王。こちらは挑戦者決定戦リーグ紅組を4勝1敗で1位突破。奇しくも棋聖戦と同じカードとなりました。いろいろな棋戦で顔を合わせるのは活躍している何よりの証拠といえます。

【第1図は△2二玉まで】

戦型は角換わりとなり、終盤まで優劣不明の戦いが続きました。第1図は豊島八段が△2二玉と指した局面。ここで▲5四飛寄が逸機。代えて▲6六角なら△3三桂▲7一飛上成△6一歩▲6二竜△同歩▲3四桂から詰みがありました。△3四同金は▲2三歩、△1三玉は▲1一飛成△1二金▲同竜△同玉▲1一金から詰みます。

とはいえ、終盤の持ち時間が少ない中で読みきるのは至難の業です。実戦は△5八金▲3九玉△4八金打▲2九玉△4七金▲3四桂△1三玉▲3一角△2二銀▲同桂成△3八桂成まで豊島八段の勝ちとなりました。

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激戦を制して、王位戦初挑戦を決めた豊島八段 王位戦中継ブログより

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惜しくも敗れた羽生竜王 王位戦中継ブログより

豊島八段が菅井竜也王位への挑戦権を獲得したことで、シリーズは関西棋士同士の勝負となりました。関西は盛り上がりが止まらず、関西の中継記者たちも忙しそうです。なお、平成生まれ同士のタイトル戦は史上初のことでした。

下馬評を覆したニューヒロイン(2018年6月13日)

5月から開幕した女流王位戦里見香奈女流王位に挑戦したのは渡部愛女流二段でした。里見女流王位といえばここまで3連覇中と、いよいよ絶対王者としての地位を確立しつつある状態でした。一方で渡部女流二段は初のタイトル戦の舞台。ここは里見有利と見た方が多かったかもしれません。しかし、 渡部女流二段は開幕局を制すると、勝負強い指し回しで以降も戦い続けます。

【第2図は△6三玉まで】

第2図は2勝1敗の挑戦者リードで迎えた第4局。里見女流王位のゴキゲン中飛車に対し、渡部女流二段は超速を採用。形勢は難しそうですが、2二角のラインが強く、少し間違えると一気に持ってかれそうです。ここで渡部女流二段の▲3三桂△同金▲5五桂△5二玉▲2一飛△3一金▲同飛成△同角▲3三歩成が手順を尽くした攻めで、2二角を無理矢理動かしながら寄せの形を作りました。飛車を渡すので自陣も怖いですが、この踏み込みのよさが挑戦者の持ち味です。以下は渡部女流二段が手堅くまとめて勝利をつかみました。

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初タイトルを獲得した渡部女流二段、感極まって涙ぐむ場面も 女流王位戦中継ブログより

このタイトル獲得には相当な努力があったと聞きます。ここ最近は奨励会出身の女流棋士の活躍が目立ちますが、渡部女流王位は奨励会を経験していません。また、LPSA出身の棋士からのタイトル獲得者も初。女流棋界も戦国時代に突入しつつあるでしょうか。

大名人の道(2018年6月19日、20日)

6月といえば名人戦は外せません。4月にも触れましたが、やはり決着局も見ていきましょう。

佐藤天彦名人3勝、挑戦者の羽生善治竜王2勝で迎えた第6局。シリーズに1400勝を達成し、羽生竜王の流れとなりかけたシリーズでしたが、やはり名人は強かった。あと1勝で名人戦3連覇となる一戦。ここで羽生竜王は2手目にある作戦を用意しました。

【第3図は△6二銀まで】

第3図は2手目△6二銀が指された局面。データベースで調べたところ、タイトル戦で2手目に△6二銀が指されたことは2局しかありませんでした。その2局で採用したのはほかでもない羽生竜王。ただし、それまでは▲7六歩に対して△6二銀でした。本局は▲2六歩に対してだったので、タイトル戦では初のこととなります。細かい話になってしまいましたが、羽生竜王の意欲的な姿勢が見られました。

将棋は相居飛車の力戦形に。力と力がぶつかり合う戦いとなりました。注目は彼我の玉形。佐藤名人はバランス、羽生竜王は銀冠に囲い、堅さを重視しました。

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意欲的な姿勢をみせた羽生竜王 名人戦棋譜速報より

【第4図は△2二玉まで】

佐藤名人がみせた銀冠崩しの参考になる攻め筋を見てみましょう。第4図は後手が2二にあった垂れ歩を玉で払ったところです。ここで▲2五歩△同歩▲2六歩△同歩▲2五歩がうまい順。次に▲2六飛~▲2四歩とすれば、もう後手玉はぺしゃんこです。 よって羽生竜王は△7七歩▲7九金△5五歩と急いで手を作りにいきますが、▲5五同歩と冷静な対応を見せ、上記の狙い筋を実現させて勝利。手数は145手。佐藤名人が3連覇を果たしました。

【第5図は投了図 ▲5二銀まで】

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名人3連覇を果たした佐藤名人 名人戦棋譜速報より

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通算100期をまたも逃してしまった羽生竜王 名人戦棋譜速報より

これまで名人を3期獲得した棋士を挙げましょう。

木村義雄
大山康晴
中原誠
谷川浩司
森内俊之
羽生善治

この方々に共通しているのは全員「永世名人」資格保持者であることです。佐藤名人は第二十世永世名人に最も近い位置にいる棋士といえるでしょう。大名人の道は気づけばあと2期。平成の次の年号で達成となるでしょうか。

次回は7月、アマチュアの活躍を取り上げたいと思います。

2018年振り返り

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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