「この一局が竜王奪取につながった」広瀬章人竜王が粘って逆転勝ちした竜王戦挑戦者決定戦、深浦康市九段との死闘とは?【2018年8月振り返り】

「この一局が竜王奪取につながった」広瀬章人竜王が粘って逆転勝ちした竜王戦挑戦者決定戦、深浦康市九段との死闘とは?【2018年8月振り返り】

ライター: 生姜  更新: 2019年02月20日

2018年の将棋界を振り返るこのシリーズ。今回は里見香奈女流四冠の男性棋士六番勝負や200手を超える熱戦となった竜王戦挑戦者決定戦、広瀬章人八段VS深浦康市九段戦を振り返ります。「この一局が竜王奪取につながった」と広瀬竜王が就位式で語った深浦九段との死闘とは?(肩書は当時のもの)

里見香奈女流四冠対男性棋士六番勝負(2018年8月8日~27日 )

8月は里見香奈女流四冠が公式戦に6局も登場(収録日も含む)。元奨励会三段という実力の高さに加え、勝負強さは男性棋士のそれと遜色ありません。ではさっそく6局の結果を見てみましょう。

2018/08/08
第12回朝日杯将棋オープン戦 一次予選
対 増田裕司六段 ○

2018/08/08
第12回朝日杯将棋オープン戦 一次予選
対 福崎文吾九段 ○

2018/08/11
第4期叡王戦 段位別予選四段戦
対 井出隼平 四段 ●

2018/08/21
第27回銀河戦 本戦Bブロック(収録日)
対 脇謙二八段 ●

2018/08/24
第90期棋聖戦 1次予選
対 藤井聡太七段 ●

2018/08/27
第67期王座戦 1次予選
対 浦野真彦八段 ○

トータルは3勝3敗。なお、8月8日の福崎九段に勝ったことで、対男性棋士3連勝を達成していたのです。(6月18日、対村田智弘六段 ○)この記録は2009年の石橋幸緒女流王位(当時)に並ぶタイ記録。その後も勝ち星を積み重ね、今期はすでに7勝を挙げています。女流棋士といえば、男性棋士相手にそれまで1割~2割ほどしか勝てませんでしたが、里見女流四冠を筆頭にレベルが底上げされ、いまや男性棋士に勝つことは以前ほどの衝撃ではなくなってきました。これからの勢力争いに注目です。今回は8月8日に行われた福崎九段との将棋を紹介します。

【第1図は▲4八歩まで】

福崎九段の力戦調の構えに対し、里見女流四冠は持ち前の積極的な姿勢で局面をリードしていきます。図は里見女流四冠があともうひと押しというところ。 ここで△4四角が好手。△2六角の筋を受けようと▲2七金と引きますが、△3三桂が大きな駒の活用でした。わかっていても次の△4五桂が受けづらく、先手陣は崩壊寸前です。以下▲7四歩△同歩▲6八玉に待望の△4五桂が実現して、里見女流四冠の勝利となりました。

YAMADAチャレンジ杯からふたりの初優勝(2018年8月19日)

フレッシュな棋士が集まる棋戦、YAMADAチャレンジ杯は8月に行われます。若手のみの参加とはいえ、対局はもちろんハイレベル。さらにYAMADA杯女流チャレンジ杯も並行して行われます。この棋戦の特徴はベスト4進出者が群馬県高崎市「「LABI1 LIFE SELECT高崎」にて公開対局が行われること。いわゆるヤマダ電機本社ですね。持ち時間も20分30秒の早指しとスピーディー。若手たちの熱い闘志がビシビシと伝わりますよ。

今期、群馬行きの切符を手に入れたのは牧野光則五段、近藤誠也五段、黒沢怜生五段、大橋貴洸四段。決勝に勝ち進んだのは近藤五段と大橋四段でした。

【第2図は△3一金まで】

決勝戦の最終盤を見てみましょう。先手の大橋四段は三間飛車を採用し、後手の近藤五段は銀冠に。力のこもった戦いが続き、いよいよクライマックスといったところです。ここで▲3一飛成が自玉の安全度を見切った決め手。飛車を渡すと先手玉も危ないですが、30秒の秒読みの中、深い読みが入っています。△3一同金▲同飛成に△3八成銀から後手も迫りますが先手玉は詰まず、大橋四段の優勝が決まりました。

続いては女流の戦いを見てみましょう。ベスト4進出者は前回優勝者の石本さくら女流初段、実力者の 中澤沙耶女流初段と山根ことみ女流初段、そしてプロ入り間もない加藤圭女流2級の4人。決勝は石本女流初段と中澤女流初段のふたりとなりました。

【第3図は▲4四桂まで】

最終盤の鮮やかな決め手を見てみましょう。△2八銀は▲2七玉でややこしい。すると次の一手がわかると思います。△2七飛打が寄せの教科書に載せたい一着でした。▲2七同金としてから△2八銀と打てば▲同金△同飛成までの詰みです。手厚い指し回しが光りました。

大橋四段と中澤女流初段はともに初の優勝。YAMADA杯はやはり持ち時間の短さが売りの棋戦。ぜひとも現地の公開対局を観戦してみてはいかがでしょうか。

熱い挑戦者決定戦(2018年8月14日・27日)

8月になるといよいよ竜王戦の挑戦者が決まるころです。大熱戦が繰り広げられた挑戦者決定三番勝負を振り返りましょう。三番勝負の舞台に駒を進めたのは深浦康市九段と広瀬章人八段。両者とも棋界随一のトップ棋士です。決勝トーナメントには藤井聡太七段、増田康宏六段ら若手の名もありましたが、やはりトップの壁を突破するのは容易ではないようです。

【第4図は△6五歩まで】

まずは第1局から。図4は広瀬八段が△6五歩と打ったところです。先手が桂損ながら歩得+右辺を制圧している状況。ここはすでに先手がいい局面ですが、▲6五同桂が決着をつけにいった手でした。△6五同金に▲5四銀と出る狙いです。本譜は△3七歩成▲同飛を利かしてから△6五金でしたが▲5四銀が実現。△6六金▲6三銀成△7七桂▲同金△同金と一直線に進みましたが、▲5四桂までで深浦九段の勝ちとなりました。この一戦に勝利し、このまま深浦九段の挑戦の流れかと思われました。しかし、第2局は恐ろしい死闘に。

【第5図は△6五龍まで】

図は第2局196手目の局面です。ここで▲9四竜が入玉を確定する好手で、広瀬八段の優位がはっきりしました。▲8六玉~▲9五玉の脱出ルートが開けたのが大きいです。ここで後手玉を無理に寄せようとすると、かえって悪くなってしまいます。先手勝勢のまま局面は230手を超えました。

【第6図は△2三玉まで】

ここで▲1三金が詰将棋のような捨て駒。△1三同香は▲2二金打、△1三同玉も▲2二銀△1二玉▲1三銀打△同桂▲2一銀不成△2三玉▲3三金打までの詰みです。これで広瀬八段が追いつき、勝負は第三局に持ち越されました。

次回はイケメン対決と話題になった王座戦、中村太地王座VS斎藤慎太郎七段が行われた9月を振り返ります。

2018年振り返り

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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