どうしてプロ棋士は直感力が優れているのか【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

どうしてプロ棋士は直感力が優れているのか【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

ライター: 安次嶺隆幸  更新: 2017年07月01日

子供たちは将棋から何を学ぶのか

人は何かを地道に頑張っている時、「なんでこんなことをやっているんだろう?」「今やることは、これで本当にいいんだろうか?」と思ってしまうと、不安がよぎって努力する意欲が下がってしまいます。地道な努力が成功につながりますが、その努力の道筋は成功体験によって見出されるのです。

過去の努力の積み重ねがプロ棋士の「詰み勘」を作る

終盤戦の最終局面、いよいよ詰むや詰まざるやの緊迫の局面を迎えると、観戦しているプロ棋士の皆さんから「これは詰むぞ!」とか、「ほとんど詰んでいるな」といった声が上がることもあります。

アマチュアの場合は、「この駒がああいって、それを受けてあのコマがこう行って、そのあと・・・」と考えて、「えっと、本当に詰んでいますかね?」となってしまうのですが、プロ棋士の場合は、順を追って考えるのではなく、盤面を一目見ただけで詰みかどうかわかるといいます。いわゆる「詰み勘」と言われるものです。

プロ棋士は、誰に見られていなくても詰将棋や棋譜並べなど、地道な努力の積み重ねを毎日欠かさずしています。いくつかの未来の局面を頭に思い描いて比較検討を重ねる「読みの無駄」も、繰り返し行っています。

その経験が蓄えられ、何万、何億という場面の映像が棋士の頭の中には入っている。だから目の前にある現時点の盤面を見ただけで、未来に展開されることになる詰みの状態になった画面が一瞬にしてパンッと見えるらしいのです。

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(第41期棋王戦 第2局より )

アマチュアとプロ棋士では、使っている脳の部位が異なる

そうした神業を理化学研究所脳科学総合研究センターが科学的に研究しているそうです。その方法は羽生三冠をはじめとする棋士の皆さんに詰将棋の問題を1秒で解いてもらい、その際の脳の血流の変化を機能的MRIという機械で調べるというもの。その結果、アマチュアの場合は、思考や判断などを司る「大脳皮質」が活発に働いていたのに対して、プロの場合は「線条体」という部分が活性化。アマチュアとプロでは活発に働く脳の部位が違うということがわかったそうです。

線条体の詳しい働きはまだわかっていないようですが、線条体はパソコンのキーを打つなど「身体が覚えた行動」を行うときに活性化するとか。そこから考えると脳科学的に見ても、プロ棋士はアマチュアのように「意識的」に考えるのではなく「直感的」に思いつくと言えそうです。

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繰り返しのトレーニングが直感を生み出す力を作る

運動選手がトレーニングで筋肉を鍛えているように、プロ棋士たちは考え続ける筋肉をつけるために毎日欠かさず頭の筋トレをしています。その地道に積み重ねた経験がやはり「直感=詰み勘」の源になっているのです。

「勘」と言うとなんだか行き当たりばったりの答えのように思われるかもしれませんが、決してそうではないのです。

気の遠くなるほど繰り返し積み重ねてきた"頭の筋トレ"によって、脳に幾多の「詰み」の経験が蓄積されています。そのベースがあるから、一局面を見ただけで、蓄積された経験の中から最適な答えを瞬時にピックアップすることができるのです。

繰り返しのトレーニング、努力こそが達人への道なのです。勉強で言えば、計算練習や漢字練習といったものを毎日毎日続けていく努力が大切です。日々、地道に解いてきた子は、計算ミスも減るし、漢字もすぐに思い浮かんで書けるようになります。

多くの問題を解いていると、次第に解き方のコツも身についていき、答えが瞬時にわかるようになります。こんなふうにパッと答えが分かるようになったとき、もしかしたらその子の脳でも、プロ棋士のように線条体が活発に働いているのかもしれません。

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成功体験が努力する道筋を照らす

もちろん将棋の詰み勘は、たやすく身に付けることはできません。しかし子供でも、一度勝てると自信がつきます。それまで自分が努力をしてきたようなことが勝ちという結果を手に入れることで、「そうだったんだ、これで良かったんだ」と思えるようになるのです。

言ってみれば、自転車に乗れるようになる感覚です。一度自転車に乗れると、「あれ?乗れたぞ!」という感じで、どうして乗れたかはよくわからないけれど、そのコツを体得できます。 そうしたら、次からは必ず乗れる。それに似たことを勝つことで体験することができるのです。

そして、その自信が揺るぎないものになって、努力する道筋がはっきり見えてくるのです。成功体験が次の努力する原動力となり、それが次の勝ちにつながり、さらには詰み勘を養っていくことにもつながるわけです。

自信の筋肉を鍛え、努力を積み重ねられる自分を作ろう

プロ棋士の場合はそうした積み重ねを長年続けてきたからこそ、いざというとき「詰み勘」が作動して、詰んだ画面が一瞬にして浮かび、次に指すべき一手が見えるのです。画面が見えるということは、つまり到達点が見えるわけですから、それに向けて歩くことができます。

頂上が見えないと「どこまで歩くの?」とイヤになってしまいますが、「詰み」という頂上が見えれば、その到達点に至る手を読む意欲も高まり、さらなる成功体験を重ねることができるわけです。

こう考えてみると、"考え続ける筋肉"を鍛えることは、すなわち"自信の筋肉"を鍛えることでもあるのです。

安次嶺隆幸

ライター安次嶺隆幸

東京福祉大学教育学部教育学科専任講師(元私立暁星小学校教諭)。公益社団法人日本将棋連盟学校教育アドバイザー。 2015年からJT将棋日本シリーズでの特別講演を全国で行う。中学1年生のとき、第1回中学生名人戦出場。その後、剣持松二九段の門下生として弟子入り。高校、大学と奨励会を3度受験。アマ五段位。 主な著書に「子どもが激変する 将棋メソッド」(明治図書)「将棋をやってる子供はなぜ「伸びしろ」が大きいのか? 」(講談社)「将棋に学ぶ」(東洋館出版)など。

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