初の頂上決戦―大成建設杯第5期清麗戦五番勝負展望―

初の頂上決戦―大成建設杯第5期清麗戦五番勝負展望―

ライター: 松本哲平  更新: 2023年07月07日

 里見香奈清麗に西山朋佳女流三冠が挑戦する大成建設杯第5期清麗戦五番勝負展望が開幕する。清麗を含めた五冠を保持する里見と三冠の西山、女流八大タイトルを分け合う二人による頂上決戦が清麗戦で初めて実現した。

 前期の清麗戦は西山の初参戦が話題になり、期待に違わぬ活躍で挑戦者決定戦まで勝ち進んだが、大一番を制したのは里見だった。挑戦権を得た里見はタイトルを奪われた加藤桃子清麗(当時)とリターンマッチに臨み、怒濤の3連勝で清麗奪還。これで過去4期のうち3期で五番勝負制覇と、並ぶ者のない強さを見せている。

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写真:紋蛇

 清麗戦の予選は2敗失格制で、1敗してもチャンスがある点が大きな特徴だ。本戦は4人と少人数で行われるため、予選が大きな比重を占めることも清麗戦の特色といえる。今期、西山は2戦目で室谷由紀女流三段に敗れて再挑戦トーナメントに回ったが、そこから全勝で予選を通過している。本戦では甲斐智美女流五段に勝って挑戦者決定戦に進み、加藤桃子女流三段を下して清麗初挑戦を決めた。

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写真:文

 5月22日に行われた挑戦者決定戦は西山の持ち味が存分に出た好局になった。序盤で加藤女流三段の駒組みをとがめるため、穴熊に潜らないまま仕掛ける。これで指せると見た大局観が見事だったし、圧巻だったのは終盤の寄せである。

【第1図は△2四玉まで】

 第1図は▲2一飛成でも先手勝勢だが、▲2五金△同玉▲1七桂△2四玉▲3六桂△1三玉▲2五桂以下の即詰みに討ち取ったのだ。最後は打った桂も▲2四桂と跳ね出して華麗な桂の舞いで詰みとなる。リードを奪ってそのまま押し切る完勝といえる内容だった。

 私は控室でモニターを通して対局を見守っていたが、西山がわずか2分半で▲2五金を指してからは終局まであっという間。早見え早指しの迫力に圧倒されると同時に、詰みを逃さず1時間以上残しての勝利は確かな充実を感じさせた。それだけに局後のインタビューで「最近はあまり思うような将棋が指せていない」と話していたのは意外だったが、飽くなき向上心の表れと見たい。

 昨年度の西山は女流棋戦だけで年間65局、46勝と歴代記録を大幅に更新した。すさまじい過密日程に体調も心配になったが、今年は昨年に比べればスケジュール面は少し緩やか。妹弟子の藤井奈々女流初段に聞くと「余裕があるように感じる」という。コンディションは良好といえそうだ。

 今年度は7月4日時点で里見が8勝1敗、西山が14勝0敗と両者とも快進撃を続けている。里見は女流王位戦五番勝負で伊藤沙恵女流四段の挑戦を退け、西山はマイナビ女子オープン五番勝負で甲斐女流五段に開幕から3連勝し、それぞれ自身の持つタイトルを防衛した。西山は女流順位戦A級で独走、最終日を待たずに白玲戦七番勝負で里見に挑戦を決めている。清麗戦と白玲戦で西山がどちらも奪取となれば勢力図が逆転するだけに、里見が清麗を防衛してその機会を摘み取るか、西山が清麗初戴冠で女流四冠に復帰するか、要注目のシリーズになることは間違いない。

 女流の覇を競う二人の戦いは女流棋戦だけで50局に達し、里見26勝、西山24勝と拮抗している。タイトル戦は過去11回戦い、里見が5回、西山が6回シリーズを制した。最初は4回連続で西山がタイトルを手にしたが、その後に里見の反撃が始まった構図だ。直近の対戦は2022年11月の倉敷藤花戦三番勝負第2局で、勝った里見が倉敷藤花を防衛している。これだけ活躍していて半年以上も対戦がないのは不思議な感もあるが、基本的にどちらかがタイトル挑戦までたどり着かないと実現しないカードなのだ。2022年度は実に20局以上指したこのゴールデンカード、今年はどのような棋譜が紡がれるのか楽しみでならない。

 第1局は7月12日、東京都千代田区「ホテルニューオータニ」で開幕する。

松本哲平

ライター松本哲平

2009年、フリーの記者として活動を始める。日本将棋連盟の中継スタッフとして働き、名人戦・順位戦、叡王戦、朝日杯将棋オープン戦、NHK杯戦、女流名人戦で観戦記を執筆。連盟フットサル部では開始5分で息が上がる。

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