ライター一瀬浩司
カニ囲い右四間飛車、塚田泰明九段が得意とされていた組み方【玉の囲い方 第89回】
ライター: 一瀬浩司 更新: 2019年09月09日
前回のコラムでは、「カニ囲い右四間飛車」をご紹介しました。カニ囲いでの右四間飛車は、二種類あると書きました。今回は、塚田泰明九段が得意とされていた形をご紹介します。では、どういう形なのかを見ていきましょう。
歩の下に銀がいても破壊力抜群
囲いの特徴:第1図をご覧ください。【第1図は△7三桂まで】
平成3年3月5日、第49期A級順位戦、▲南芳一棋王ー塚田泰明八段戦(肩書は当時)です。前回までは、腰掛け銀の形でした。非常に破壊力のある形でしたが、今回は歩の下に銀がいますね。銀が下なので、攻撃力は劣ると思われがちですが、この将棋も右四間飛車の破壊力が存分に発揮されました。
第1図から、南九段は▲2四歩△同歩▲同角と2筋を交換しました。当然、△2三歩と打つところに見えますが、それだと▲4六角と引かれて攻めをけん制されてしまいます。もちろん、「塚田が通れば道理が引っ込む」と称されたほど、攻め将棋の塚田九段はそんな平凡な受けはせず、先手陣に向かって攻撃を開始します。▲2四同角から、△8五桂▲8八銀△6五歩▲同歩△6六歩▲6八金引△6五飛▲7九玉(▲4六角などでは△6七歩成▲同金直△8八角成で先手陣は崩壊)と進み、先手陣はへこまされたものの、▲8六歩の桂取りが楽しみに残っています。後手が困っていそうですが、塚田九段はここで驚愕の一手を放ちます。第2図を見る前にどう指したのかぜひ考えてみてください。お分かりになりましたでしょうか?
△4四角(第2図)が2筋を素通しにしたおどろきの一手でした。
【第2図は△4四角まで】
▲4六角が2八の飛車で2一の桂、4六の角で9一の香取りと、両取りになって先手よしに見えますが、△2六歩▲9一角成△2五飛となると、先手は香得にはなりましたが、次の△2七歩成を受けることができず、後手優勢になります。攻めの強い方にはもうひとつ、別の攻めも見えるはずです。南九段も同じように攻め込んでいきました。
第2図から、▲4二角成△同金右▲2一飛成となれば、角と銀桂の二枚替えのうえに、竜まででき、さらに王手。先手大成功に見えますが、△3一金▲2八竜△2七歩(第3図)と進んでみると、▲同竜には△4九角、▲3八竜には△2五飛があり、塚田九段が以下勝ちきりました。
【第3図は△2七歩まで】
このように、5三(先手なら5七)銀型でも、破壊力は抜群ということはおわかりいただけたでしょう。では、先手の駒だけを配置して、囲いに組むまでの手順を見ていきましょう。
5七銀型に組むまでの手順
囲いに組むまでの手順:初手から、▲7六歩、▲2六歩、▲4八銀、▲5六歩、▲6八銀、▲7八金、▲6九玉、▲3六歩、▲5八金(第4図)。【第4図は▲5八金まで】
前回までの形は、5筋に銀を腰掛けるため、歩は突きませんでしたが、今回は5七に右銀を上がるため、突いていきます。ここまでは、矢倉に囲う順に似ていますね。第4図から、▲5七銀右、▲4六歩、▲4八飛、▲3七桂(第5図)。
【第5図は▲3七桂まで】
これで5七銀型のカニ囲い右四間飛車は完成です。次回のコラムでは、組む際の注意点と発展形を見ていきましょう。
玉の囲い方
監修杉本和陽四段
1991年生まれ、東京都大田区出身。2017年4月に四段。師匠は(故)米長邦雄永世棋聖。バスケットボールを趣味とする。ゴキゲン中飛車を得意戦法とする振り飛車党。