ライター一瀬浩司

作戦が限定されないように組んでいこう!菊水矢倉の組み方(2)【玉の囲い方 第74回】
ライター: 一瀬浩司 更新: 2019年06月22日
前回のコラムでは、「菊水矢倉」をご紹介しました。今回は、組む際の注意点と発展形を見ていきましょう。それでは、菊水矢倉に組むまでの手順の復習です。初手から、▲7六歩、▲2六歩、▲6六歩、▲7七角、▲7八金、▲5八金、▲8八銀、▲6九玉、▲4八銀、▲5六歩、▲6七金右、▲6八角、▲7九玉、▲7七桂、▲8九玉(第1図)。
【第1図は▲8九玉まで】
▲7六歩の次は▲6六歩??
それでは、組む際の注意点を見ていきましょう。
組む際の注意点:
前回のコラムで、囲いに組むまでの手順のところで、▲7六歩の次にすぐ▲6六歩とせず、▲2六歩と突いてから▲6六歩としました。それはなぜかわかりましたでしょうか?
初手から▲7六歩△3四歩に▲6六歩と突くと、△3二飛(第2図)や△3三角~△2二飛などとされて、飛車を振ってこられる可能性があります。
【第2図は△3二飛まで】
もちろん、これで不利になったというわけではありませんが、居飛車党の場合は、▲7七角から相振り飛車にはしにくいでしょうし、角筋を止めてしまっているので急戦の選択肢が作戦から消えてしまっています。
居飛車で玉を囲う場合は、ここから左美濃や穴熊にすることになるでしょうが、早くも作戦が限定されていますよね。▲2六歩△8四歩としてから▲6六歩なら、後手も8筋の歩を突いてしまっているので、そこから飛車は振りにくいということです。
また、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲6六歩のとき、△8五歩なら▲7七角と上がりますが、△6二銀の場合はすぐ▲7七角ではなく、▲5八金右や▲7八金のほうがよいとも書きました。それはなぜでしょう? 第3図をご覧ください。
【第3図は△6五歩まで】
これは極端な例ですが、右四間飛車にされた場合、6筋の守りが間に合っていませんね。もし、▲7七角ではなく▲5六歩なら、▲5七銀の応援が間に合うところでした。
また、このようにすぐ仕掛けられない場合でも、△7三桂~△8五桂と角を目標に仕掛けられてしまうこともあるので、△8五歩を突いてこない場合はすぐに角を上がらないほうがよいでしょう。次に、第4図をご覧ください。
実は菊水矢倉は角交換に向いていない!?
【第4図は△3一角まで】
ここから菊水矢倉に組むには、▲6八角や▲5九角と引いて、△8六歩▲同歩△同角には▲7七桂として角交換を拒否しなければなりません。角を引かずに▲8八銀とすると、△8六歩▲同歩△同角となって、角交換を避けることができません。そこから菊水矢倉に組むこともできなくはないですが、実は菊水矢倉は角交換に向いてはいません。第5図をご覧ください。
【第5図は△4九角まで】
第4図から8筋で角交換になった場合の一例ですが、△4九角と打ち込まれたところです。次に△7五歩と突かれると桂頭が受からなくなってしまいますが、現状では身動きの取れない4九の角を、先手はうまく取ったりすることができません。もし、先手陣が通常の矢倉なら7七の駒は銀なので、後手も次の狙いがありませんが、第5図は桂頭の弱点をうまくつかれています。
では、第4図で間違って▲8八銀と上がってしまったら先手が不利なのか? それを含め、次のコラムで見ていきましょう。もちろん、次回からは別の囲いのご紹介になります。
玉の囲い方


監修杉本和陽四段
1991年生まれ、東京都大田区出身。2017年4月に四段。師匠は(故)米長邦雄永世棋聖。バスケットボールを趣味とする。ゴキゲン中飛車を得意戦法とする振り飛車党。