ライター一瀬浩司
一手の違いで不利に。糸谷流右玉の駒組みでの注意点とは?【玉の囲い方 第58回】
ライター: 一瀬浩司 更新: 2018年12月13日
前回のコラムでは、対振り飛車における右玉の「糸谷流右玉」をご紹介しました。今回は、組む際の注意点と発展形を見ていきましょう。それでは、糸谷流右玉に組むまでの手順の復習です。初手から▲7六歩、▲2六歩、▲4八銀、▲4六歩、▲4七銀、▲2五歩、▲3六歩、▲3七桂、▲6六歩、▲6八銀、▲6七銀、▲3八金、▲4八玉、▲2九飛(第1図)。
【第1図は▲2九飛まで】
それでは、組む際の注意点を見ていきましょう。
組む際の注意点
前回、対中飛車には▲7六歩~▲2六歩~▲2五歩と進めるが、もっとも一般的な先手の対応と書きました。なぜ、糸谷流は▲4八銀を先にしたのでしょうか? 初手から、▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩▲4六歩とすると、△5六歩(第2図)と突かれる手があります。
【第2図は△5六歩まで】
▲5八金右は△5七歩成▲同銀に△8八角成▲同銀△3九角でいきなり先手不利に陥ってしまいます。よって、第2図では▲5六同歩と取りますが、△同飛とされると早くも嫌な形です。▲5七歩△5二飛▲2二角成△同銀▲6五角と両成りを狙うのは、△5五角と打ち返されると9九の香取りが受かりません。また、△5六同飛のときに▲6八玉と上がるのも、△4四歩と突かれておくくらいで、7六と4六のどちらかの歩が取られる形なので、これもはっきり悪いとまでは言えないですが、先手が好んで指す順ではないでしょう。
ですので、初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△5五歩▲4六歩△5二飛▲4七銀(第3図)とすれば、右銀が5筋を守るために4七に上がる手が間に合いますので、手堅い指し方となります。
【第3図は▲4七銀まで】
また、第4図をご覧ください。
【第4図は△5三銀まで】
なにかよさそうな手が見えませんか? 喜び勇んで▲4五桂と跳ねたくなりますよね? △5一角に▲5三桂成△同飛として、早くも銀桂交換に成功して指しやすくなるように思えます。先手玉はまだ5九ですので、▲6八玉から左に囲えば居玉も逆にプラスになりますよね。後手がうっかり銀を上がってきた、と思えるところですが、実はうっかりしたのは先手のほうです。▲4五桂に△1五角(第5図)とこちらに出られるとどうでしょう?
【第5図は△1五角まで】
先手玉に王手が掛かっており、▲4八金(▲6八玉は△3七角成)に△5四銀と上がられると両取りを受けられただけではなく、△4四歩と桂を殺す手が受からなくなって、逆に早くも先手不利となってしまいます。もし、▲6七銀と上がる手に変えて▲1六歩と突いてあれば、▲4五桂と跳ねて今度は本当に後手のうっかりとなります。ちょっとした形の違いでこのようにどっちのうっかりかが変わることはよくあるので、端歩の関係も注意したいところです。△1五角があるから▲4五桂は跳ねれないと思い込んでいると、本当のチャンスを逃すこともあります。
囲いの発展形ですが、第1図から囲いを発展させていくことはほぼありません。銀が6七なので、3筋や4筋の位を取ってもそれの確保が大変になります。第1図まで進めたら、左辺の攻撃陣の整備に移っていきましょう。
玉の囲い方
監修杉本和陽四段
1991年生まれ、東京都大田区出身。2017年4月に四段。師匠は(故)米長邦雄永世棋聖。バスケットボールを趣味とする。ゴキゲン中飛車を得意戦法とする振り飛車党。