「正統派」梶浦四段VS「独創的」大橋四段。第8期加古川青流戦・三番勝負の展望(インタビューあり)

「正統派」梶浦四段VS「独創的」大橋四段。第8期加古川青流戦・三番勝負の展望(インタビューあり)

ライター: 紋蛇  更新: 2018年10月19日

第8期加古川青流戦は、いよいよ決勝戦。梶浦宏孝四段と大橋貴洸四段による三番勝負は、10月19日、20日に兵庫県加古川市「鶴林寺」で行われる。

加古川青流戦は加古川市、加古川市ウェルネス協会が主催している棋戦。加古川市は「棋士のまち」を掲げており、市ゆかりの久保利明王将、井上慶太九段、稲葉陽八段、神吉宏充七段、船江恒平六段の棋士5名が活躍中。同市では加古川青流戦の三番勝負だけではなく、竜王戦、名人戦、王将戦のタイトル戦が何度も開催された。今年2月には、JR加古川駅南側に将棋盤付きのベンチが寄贈され、将棋人気の機運が高まっていることが窺える。

加古川青流戦は持ち時間は1時間(チェスクロック方式)、使いきると一分将棋の早指し棋戦。参加するのは棋士の四段、奨励会三段の上位者、女流棋士2名、アマチュア3名。

アマチュア代表は選抜大会で決定される。第5期(2015年)は、アマチュア代表の稲葉聡アマ(稲葉陽八段の実兄)が勝ち進み、三番勝負で増田康宏四段(当時)を破って優勝。アマチュアとして、初のプロ公式戦で優勝するという快挙を達成した。

第8期のアマチュアの選抜大会は今年3月に行われた。誰でも参加できるので、腕に自信のある方はレポートを参考にして、参加してみはいかがだろうか。

誕生日の勝利

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第76期順位戦C級2組9回戦(梶浦四段 対 藤井聡四段[当時]) 撮影:常盤秀樹

梶浦は2015年に四段昇段した、鈴木大介九段門下で唯一の棋士。今期は坂井信哉三段、岡部怜央三段、今泉健司四段、西田拓也四段(前期優勝者)に勝った。その中で印象に残るのは、岡部三段との対局だという。

【図1は▲2五桂まで】

▲2五桂に△4二角と逃げるのは、▲5四歩からのコビン攻めでつぶされてしまう。そこで、△4二飛が勝負手だった。後手の狙いは玉頭戦。飛車回りは4筋からの攻めを見据えて、力をためている。▲3三桂成から角桂交換になっても、△4六桂などの反撃が楽しみになる。

「△4二飛は、手厚い将棋が好きな自分らしい手でした。対局中は破れかぶれかと思ったのですが、いい勝負だったみたいですね」と梶浦。中盤は厚みを生かして先手玉に迫り、梶浦優勢で終盤に入った。

【図2は△4九飛成まで】

図は、後手が金を取りながら飛車を成り、先手玉を受けなしに追い込んだところ。梶浦は楽観していたが、▲1三銀に冷や汗をかく。△同香は▲1二金△同玉▲2四桂△2三玉▲3四銀から詰むので、△1三同玉▲2四銀△同玉と玉を引きずり出されるのはしかたない。

△2四同玉に岡部は▲2五歩と迫ったが、△1三玉から後手玉は詰まなかった。途中、▲3四馬と5二の馬を王手で使えたものの、投了図は4九にいる竜の守りが強力で後手玉に詰みはない。

だが、「△2四同玉に▲5四飛だと頓死筋に入っていたかもしれない」と梶浦。以下(1)△4四歩は▲2五歩△1三玉▲2四銀△1二玉▲3四馬から詰み。梶浦は(2)△4四金の予定で、感想戦でも詰みなしとされたという。だが再検証すると、▲4四同飛△同竜▲2五銀△1三玉▲2四金△1二玉▲1三金打△2一玉▲2二歩△3一玉▲2三桂△同金▲3二歩以下、手数は長いながら詰みがある(参考図1)。

【参考図1は▲3二歩まで】

正着は(3)△4四角。以下▲同飛は△同竜▲2五銀△1三玉▲2四角△1二玉、▲2五歩は△1三玉▲2四銀△2二玉▲3四桂△2一玉で、4四の角が2二まで利いているから詰まない。ただ、梶浦は▲5四飛に△4四角を考えておらず、負けになっていたかもしれなかった。

岡部戦の7月6日は、梶浦の23回目の誕生日。梶浦は「▲1三銀からの流れは詰みなので、誕生日に頓死するやつがいるのかと対局中に思った。運よく勝ち、この上ないプレゼントでした」と振り返った。

大橋流の斜め棒銀

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第46期新人王戦三番勝負第1局(菅井六段[当時] 対 大橋三段[当時]) 撮影:飛龍

大橋四段は所司和晴七段門下で、2017年にデビューした。今期の加古川青流戦で破った相手は、天野啓吾アマ、古森悠太四段、井出隼平四段(前々期優勝、前期準優勝)、杉本和陽四段。大橋が印象に残る対局として挙げたのは、準々決勝の井出戦である。

【図3は△5一金まで】

大橋陣を見てほしい。3一金・4二銀・5一金の囲い(以下5一金型)は非常に珍しく、それと△6四銀からの斜め棒銀を組み合わせたのが斬新なアイデアだった。定跡では6二銀・5二金・4一金の囲いが多い。大橋によれば、5一金型は手数をかけずに組めることと、横からの攻めに強いのが特長だという。対振り飛車急戦を研究するうちに新構想を思いついたそうで、棋譜データベースで調べたところ、前例はなかった。

大橋の仕掛けに対し、井出は角を手放して収めにいく。だが、大橋は中央を制圧し、一転してトーチカ囲いのような玉形に固め、緩急自在な指し回しで作戦勝ちを収めた。

【図4は▲3八金まで】

図は△4五桂に▲3八金と逃げたところ。緩まずに△5六飛▲同銀△4六角が素早い寄せで、後に角も切り、△5五歩から△4五桂と急所に桂を打って寄り筋に入った。△6五桂も華麗な手で、▲同桂は△6四金と詰めろ角取りで寄り。実戦は▲5五玉と粘ったが、△7四金と上部脱出を防いで、大橋が押し切った。

大橋は「中盤で得た模様の良さを、形勢の差につなげることができました。△5六飛と切ったのが決断の一手で、△5五歩まで一直線に進み、勝ちになったと思います」とまとめた。本局の斜め棒銀を準決勝の杉本和戦でも用いて、快勝している。「実際に指してみて、それなりに戦える感触がありました。対振り飛車急戦といえば船囲いが定番でしたが、その常識が変わればと思います」大橋のコメントは、自分から将棋を創っていく気概にあふれている。

大橋流の急戦は、ほかの棋士も採用し始めている。これからのトレンドになるかもしれない。

開幕直前インタビュー

――大橋四段の印象は?

梶浦 大橋四段は独創的なイメージで、今期の加古川青流戦の井出戦が印象に残っています。特に後手番が多彩で、的が絞れません。棋風はぐいぐいと積極的に良くしていこうとするタイプです。

――自身の棋風や将棋の持ち味は?

梶浦 手厚い将棋が好きです。

――三番勝負の意気込みについて

梶浦 三番勝負、そして東西の将棋会館以外の場所で公式戦を指すのは初めてです。すごくうれしいですし、注目される舞台なので、いつもと違う感じがしています。楽しみと緊張は半々ですが、緊張がよい方向に影響を与えてくれたらいいですね。力一杯指して、いい内容にしたいです。

――梶浦四段の印象は?

大橋 居飛車党の正統派で、流行形を取り入れた指し方をされている印象です。

――自身の棋風や将棋の持ち味は?

大橋 斬れる将棋を目指し、新しさを出しています。

――三番勝負の意気込みについて

大橋 しっかり力を出したいと思います。

まとめ

梶浦の決勝進出は、全棋戦を通じて初めて。一方の大橋は、加古川青流戦は初めてながら、第46回(2015年度)新人王戦で準優勝(当時の大橋は奨励会三段)、第3回(2018年度)上州YAMADAチャレンジ杯で優勝と大舞台の経験がある。

これまでの対戦成績は梶浦の1勝0敗で、今年8月の順位戦C級2組は後手の大橋が阪田流向かい飛車を採用した。

まず注目したいのは、持ち球の多い大橋が序盤でどのような工夫をこらすか。対する梶浦は大橋の動きを抑え込み、好みの手厚い展開にできれば理想的だろう。

早指し棋戦は決断のよさと、秒読みでも乱れない瞬発力が求められる。若手棋士らしい、キビキビとした戦いを期待したい。

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

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