雁木や早繰り銀の流行が原因?4六銀、3七桂型が見られなくなった理由とは【第48回 矢倉の崩し方】

雁木や早繰り銀の流行が原因?4六銀、3七桂型が見られなくなった理由とは【第48回 矢倉の崩し方】

ライター: 一瀬浩司  更新: 2018年08月09日

前々回のコラムでは、4六銀、3七桂型から矢倉を攻めていく実戦例を、前回のコラムでは第1図のように△4五歩と反発して、そもそも▲3七桂と跳ねるところまで先手に組ませない指し方が見直され、有力になったという話をしました。

【第1図は△4五歩まで】

まずは第1図の形が再び出たことにより、4六銀、3七桂の形に組めないようになりました。今回はもう一つの理由を見ていきましょう。第2図をご覧ください。

【第2図は△7五歩まで】

平成27年10月27日、第1期叡王戦本戦、▲森内俊之九段ー△阿部光瑠五段戦(段位は当時)です。左美濃に手早く囲い、居角を生かして素早く攻めていく指し方が出てきました。第2図を見ると、先手玉はまだ6九で囲いの外にいるのに対し、後手玉は3一で美濃囲いに堅く囲っており、飛車角銀桂で攻める形を作り上げています。第2図からは、「鉄板流」とも呼ばれるほど受けの強い森内九段を、阿部六段が攻め倒してしまいました。また、第3図をご覧ください。

【第3図は▲4五歩まで】

平成29年9月22日、第48期新人王戦、▲増田康宏四段ー△近藤誠也五段戦(段位は当時)です。雁木といえば、6七と5七に銀を並べた形で、それは以前からたまに指される程度でありました。しかし、第3図のような6七と4七に銀を配置する形がバランスがよく、近年大流行しています。

第3図からは△4五同歩▲同桂△4四銀▲2四歩△同歩▲同角△同角▲同飛△2三歩▲2九飛と進みました。こうなると、4七の銀が後手の角の打ち込みを防いでおり、先手満足な展開です。先手の銀がもし4七でしたら△3八角と打ち込まれて馬を作られてしまいますし、そもそも△4五銀と桂を取られてしまいます。以下▲4六歩としても△3六銀で銀は捕まらず、先手は桂損となってしまいます。第3図から、▲2九飛まで進んだ局面でもし△4五銀なら▲4六歩で後手の銀の行き場はなく、桂は取られません。また、第4図をご覧ください。

【第4図は△6四銀まで】

平成30年5月12日、第3期叡王戦決勝七番勝負第3局、▲高見泰地六段ー△金井恒太六段戦(段位は当時)です。後手は囲いよりも銀の出足を優先して、速攻を狙っていますね。このように雁木や早繰り銀の速攻作戦など、後手の有力な作戦が近年ではいろいろとあり、矢倉の出だしでもそもそも相矢倉にならないということも多々あります。最後に第5図をご覧ください。

【第5図は△3三銀まで】

平成30年7月4日、第44期棋王戦挑戦者決定トーナメント、▲斎藤慎太郎七段ー△郷田真隆九段戦です。以前といえば、飛車先はできるだけ突かないほうが主流でしたが、近年は左美濃や雁木、早繰り銀などの急戦を警戒して飛車先を早々と伸ばして△3三銀を強要してしまう指し方も多くなりました。第5図の形にしてしまえば、もう後手は左美濃や雁木にはできませんよね。しかし、飛車先を2五まで伸ばしてしまったために4六銀、3七桂型に組むことはできなくなってしまいました。2五まで歩が突いてあると、3七の桂を跳ねるスペースがありませんね。4七銀、3七桂型でしたら、▲4五歩△同歩▲同桂などの仕掛けがあるため、飛車先を伸ばしてあっても問題はありません。また、第4図のように▲2五歩とされても△3三銀などとは受けずに飛車先交換は甘受し、右銀を繰り出してこられたら相矢倉自体になりません。

以上が4六銀、3七桂型が見られなくなった理由でした。しかし、今後もまた定跡が見直されて、この形が復活するかもしれませんし、がっぷり四つの相矢倉が好きという方もまだまだ多いと思います。覚えておいて損はありませんので、次回からは4六銀、3七桂型から矢倉を攻めていく指し方を見ていきましょう。

矢倉の崩し方

一瀬浩司

ライター一瀬浩司

元奨励会三段の将棋ライター。ライター業のほか、毎月1回の加瀬教室や個人指導など、指導将棋も行なっている。主なアマチュア戦の棋歴としては、第34期朝日アマチュア将棋名人戦全国大会優勝、第63回都名人戦優勝などがある。

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阿部光瑠

監修阿部光瑠六段

棋士・六段
1994年生まれ、青森県弘前市出身。2011年4月に四段。2013年に第2回電王戦でコンピュータソフト・習甦(しゅうそ)と対局し、快勝。 2014年の第45期新人王戦で優勝。居飛車、振り飛車ともに指すオールラウンドプレイヤー。
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