ライター一瀬浩司
攻めているはずが大失敗。相手にチャンスを与えてしまう攻め方とは【第44回 矢倉の崩し方】
ライター: 一瀬浩司 更新: 2018年07月21日
今回のコラムも、矢倉に対して4七銀、3七桂型から攻めていく指し方を見ていきます。それでは第1図です。
【第1図は▲2四歩まで】
いま、▲3三桂成と金をはがし、後手が△同玉と応じてきたところに▲2四歩と、飛車先を突き捨てようとしたところです。前回のコラムでは、ここから△2四同歩に▲2二歩と打ち、△同玉▲3四銀で先手よし、ということになりましたが、本当にこれでよいのか、それともなにか応手があるのか。これを考えてみてくださいと、宿題を出しておきました。
では、答え合わせも兼ねてまずは第1図の突き捨てが入るのかどうかから順に見ていきましょう。第1図で先手の手番なら、▲2三歩成△同金▲4三歩成で後手陣は崩壊します。これは前回解説しましたね。前回は△2四同歩と取りましたが、それ以外の受けはなにかあるでしょうか? 2三と4三を同時に補強する、△3四銀はどうでしょう? ですが、これには▲4三金(第2図)が平凡ながらすこぶる厳しい打ち込みになります。
【第2図は▲4三金まで】
△4三同銀は▲同歩成△同玉▲2三歩成ですし、△2二玉も▲3二金△同玉▲2三歩成△同銀に▲4三銀と打てば、△4一玉には▲2三飛成ですし、△2二玉は▲2三飛成△同玉▲3四銀打以下の詰みがあります。
というわけで、第1図からはやはり後手は△2四同歩の一手となります。では、続けて▲2二歩(第3図)と打った局面を考えてみましょう。
【第3図は▲2二歩まで】
△2二同金は▲4三金、△2二同玉は▲3四銀で先手よしということになりました。かといって▲2一歩成と桂を取られるのは痛いですよね? やはり後手が困っているじゃん。やっぱり後手に受けはなくて先手よしだよ。と思われた方、もう少し局面をながめてみましょう。△1三桂とひとまず逃げてみましょうか。当然、先手は喜んで▲2一歩成(第4図)としますよね。
【第4図は▲2一歩成まで】
こんな玉の近くに、と金を手順に作れればはっきり優勢に見えませんか? 香も取れるし次の▲4八飛の威力も増していますよね。
ただし、手番はここで後手に回りました。後手も指したい手がありませんでしたか? そうです。ようやく△4四玉と、拠点の歩を払うことができました。こうなると、4二の角が2四に利いており、▲2四飛とすることはできません。
もう一手、できたと金で▲1一と、と香を補充してみましょうか。後手は玉を上がった手を生かして△4六歩(第5図)と垂らしてきます。
【第5図は△4六歩まで】
ここまで進むと景色が一変していますね。手順にできたはずのと金は盤の隅ですし、後手は△4七歩成から上部を開拓する楽しみがあります。4四の中段玉が強く、押さえる手もありませんし、第5図から▲4九香としても△3七銀▲2七飛△2五桂となって手も足も出なくなってきます。こうなると仕方なく逃げたはずだった1三の桂が、上部開拓に大活躍することになりますね。
よって、第1図から△2四同歩に▲2二歩は、△1三桂で後手の上部開拓のお手伝いになってしまいます。次回は正しい攻め方を見ていきましょう。
矢倉の崩し方
監修阿部光瑠六段
1994年生まれ、青森県弘前市出身。2011年4月に四段。2013年に第2回電王戦でコンピュータソフト・習甦(しゅうそ)と対局し、快勝。 2014年の第45期新人王戦で優勝。居飛車、振り飛車ともに指すオールラウンドプレイヤー。