ライター一瀬浩司
垂らしの歩が絶妙手!桂跳ねを受けられたときの対応とは?【第39回 矢倉の崩し方】
ライター: 一瀬浩司 更新: 2018年06月15日
今回のコラムも、矢倉に対して4七銀、3七桂型から攻めていく指し方を見ていきます。それでは第1図です。
【第1図は▲4五桂まで】
いま、先手が▲4五桂と跳ね出したところです。前回のコラムでは、第1図を先手の手番として、どう攻めていくのかを見ていきました。▲4一金と角を殺す手が好手で、次の▲4四歩が厳しい。これが結論でした。
では、第1図で後手が受けの手を指してきた場合について見ていきましょう。まずは、平凡に△4四歩と桂を取りにきた場合です。これには、やはり▲4一金(第2図)がよいでしょう。
【第2図は▲4一金まで】
第2図から△4五歩と桂を取る手には▲4四歩が激痛ですし、△3二銀には▲4二金△同金に▲2四歩△同歩(△4五歩は▲2三歩成△同銀に▲2四歩が痛い)と突き捨ててから、▲5三銀が好手順です。△4三金に▲4四銀成(▲2四飛△2三歩▲4四飛も有力)△同金▲2四飛△2三歩▲4四飛△4三銀打▲同飛成△同銀▲5三桂成(第3図)で攻めがつながっていきます。
【第3図は▲5三桂成まで】
では、第1図から△3二銀はどうでしょうか? 今度は▲4一金を防がれつつ、後手陣を補強されていますが、これには▲4四歩△同金▲5三銀(第4図)が厳しい攻めとなります。
【第4図は▲5三銀まで】
では、第1図から△3七角はどうでしょう? ▲2七飛と当て返せますが、△4六角成と進むと次の△4五馬が桂を取りつつ飛車取りとなってしまいます。忙しい局面ですが、ここで絶妙手があります。△4六角成の局面を盤に並べて考えてみてください。
おわかりになりましたか? ▲3三歩(第5図)が絶妙な垂らしになります。
【第5図は▲3三歩まで】
△4五馬は▲3二金△1二玉▲2二銀△2七馬に▲1五歩が▲2一銀不成△1三玉▲1四歩までの詰めろとなって受けなしとなります。△3三同桂には、▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩に▲4四歩でピッタリ決まります。
では、プロの実戦例を見ていきましょう。第6図は昭和62年3月23日、第50期棋聖戦本戦、▲小林健二八段ー△中原誠名人戦(肩書は当時)です。
【第6図は△3七角まで】
後手の中原十六世名人が△3七角と打ったところです。小林九段は▲2七飛とかわし、△4六角成に▲3三歩と垂らしました。△4五馬は1筋の突き合いがないため、▲3二金△1二玉▲2二銀でより先手の条件がよくなっています。△3三同桂には▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲4四歩△2四歩▲4三歩成で後手陣は崩壊しますね。
そこで、中原十六世名人は△3三同金▲同桂成△同玉と、金を犠牲に玉を上部に出して粘ります。駒損はしますが、玉が一気に広くなった感じがしませんか? これが一流棋士の受けです。4六の馬も手厚く、さてどう攻めようか、というところですが、小林九段は▲2四歩△同歩と突き捨ててから▲7一銀(第7図)と玉とははるかに遠い、飛車を攻めにいきました。
【第7図は▲7一銀まで】
第7図から△8一飛や△9二飛は▲8二金で飛車が死にますし、△7二飛も▲6二金があります。中原十六世名人は△8三飛とかわしましたが、▲6二銀成として今度は6三の銀取りが受けにくいです。小林九段の盤面を広く見た攻めも、非常に参考になりますね。
矢倉の崩し方
監修阿部光瑠六段
1994年生まれ、青森県弘前市出身。2011年4月に四段。2013年に第2回電王戦でコンピュータソフト・習甦(しゅうそ)と対局し、快勝。 2014年の第45期新人王戦で優勝。居飛車、振り飛車ともに指すオールラウンドプレイヤー。