第5回ABEMAトーナメント~本戦トーナメント準決勝第一試合 チーム永瀬VSチーム稲葉 振り返り~

第5回ABEMAトーナメント~本戦トーナメント準決勝第一試合 チーム永瀬VSチーム稲葉 振り返り~

ライター: 紋蛇  更新: 2022年09月15日

 9月10日(土)17時に放映された第5回ABEMAトーナメント本戦トーナメント準決勝第一試合、チーム永瀬「川崎家」(永瀬拓矢王座・増田康宏六段・斎藤明日斗五段)VSチーム稲葉「サンライズワン」(稲葉陽八段・服部慎一郎四段・出口若武六段)の戦いを振り返る。

 第1局は増田が出口、第2局は服部が斎藤を破り、1勝1敗で第3局を迎えた。

【第3局 ▲永瀬拓矢王座-△服部慎一郎四段】

5abema_0910_pbk_01.jpg

 服部は稲葉から連投を打診され、快く了承した。チーム永瀬はリーダーが初登場。ふたりは練習将棋を含めて初めて盤を挟んだようで、タイトル保持者に新鋭の若手強豪がどこまで通じるかが注目の一番となった。

【第1図は▲5五金まで】

 戦型は角換わりになり、序盤は永瀬が銀桂交換でペースを握っていたように見えたが、服部が薄い玉にもかかわずうまく勝負に持ち込んだ。第1図で△4六角が好手。金取りかつ△6八角成▲同玉△5七金からの詰めろになっている。永瀬は▲4四銀と迫るも△同飛▲同金△同玉▲4一飛△4二銀▲5六桂△4三玉▲2一角△5三玉に、▲7九銀と自陣に手が戻るようでは流れがおかしい。以下△5七金から服部がリードを奪い、最後は永瀬の猛追もかわしきった。

 服部の将棋を見ていると、模様の悪さや実戦的に勝ちにくい展開であってもしぶとい粘りと玉さばきで決め手を与えない。いつの間にか相手が攻め疲れると、鋭い終盤力であっという間に逆転させてしまう。まるで糸谷哲郎八段のような力強さで、近いうちのタイトル挑戦を期待させる。

5abema_0910_pbk_02.jpg

【第6局 ▲出口若武六段-△増田康宏六段】

5abema_0910_pbk_03.jpg

 第4局は稲葉リーダーの提案で服部がまたも出場するも、増田に討ち取られて3連勝はならなかった。増田はこれで予選から負けなしの10連勝を達成している。

 第5局はリーダー対決となり、稲葉が制した。途中は一方的に攻められて苦しそうだったが、持ち味のしぶとさが生きた。

【第2図は△4六桂まで】

 第6局は第1局と同じ増田-出口のカードで、今度は出口の先手になった。相掛かりで中盤は激しい攻め合いになり、第2図に。3四にいた桂で金を取ったところで、△5八金と△7六銀から△8七銀成を組み合わせれば、先手玉の受けがなくなる。しかし出口は手筋の切り返しを用意していた。まずは▲7三銀。飛車が横に逃げれば△7六銀からの8筋突破がなくなり、▲3四香の攻めが間に合う。実戦は△8三飛とかわすも▲7二銀不成△7三飛▲3四香と、やはり銀をおとりにして飛車を8筋から追い払って3筋を攻めるのがよい。増田は▲3四香に△8八歩(▲同金は8筋が壁になって△5八金が厳しくなる)と手筋を放つも、▲7九玉△8九歩成▲同玉が好手順で、桂を王手で取られても相手の攻めに乗じて玉を深い場所に逃げ込むことができた。出口は後に▲3二香成△同金▲6三金を実現させて勝ちきっている。チーム勝利まであとひとつ、そして増田の無敗を止める大きな白星だった。

5abema_0910_pbk_04.jpg

【第7局 ▲斎藤明日斗五段-△稲葉陽八段】

5abema_0910_pbk_05.jpg

 第7局を迎え、チーム永瀬は斎藤2回・永瀬1回、チーム稲葉は稲葉2回、出口1回を残していた。互いに連投を避けるために、斎藤-稲葉戦は予想された組み合わせだろう。

【第3図は△8七歩成まで】

 先手の斎藤は得意の相掛かりに託し、積極的な指し回しでペースをつかむ。第3図は稲葉が反撃したところで、▲8七同金は△8九飛成の金取りがうるさく見える。以下▲8八金は△7九竜と銀を取られてしまうからだ。実戦は第3図で▲5三角成△同銀▲2一歩成△8八と▲3三歩と踏み込むも、秒に追われた大錯覚だった。△同金なら▲2五桂や▲4五桂打の予定だったと思われるが、稲葉にすかさず△8五角と打たれてみると、▲4八玉は△3六桂からの詰みがある。斎藤は▲5九玉とかわしたが、これも△6九金▲同玉△7九と▲同玉△7八銀から詰まされて投了となった。

 斎藤は局後に「(第3図で)▲8七同金なら難しかったですか。▲5三角成は自分らしいポカ」「(自玉の)詰みに気づいていないんで、△8五角で観念しました」と振り返った。斎藤の指摘した▲8七同金には△8九飛成▲7七金が予想される。以下△8五桂の両取りが痛いようだが、▲7八銀△9八竜▲7六角△9七竜▲8五角としのげば先手優勢のようだ。後手の竜が先手玉から遠ざかり、▲6三角成や▲2一歩成の着実な攻めが間に合う。斎藤は途中まで持ち味を発揮していただけに、終盤で急に崩れてしまったのが悔やまれる。

 チーム稲葉は、メンバーが全員が初の決勝進出となった。ちなみにエンディングでは、新婚の稲葉と出口が司会の香川愛生女流四段から「奥様はご覧になっていますか」「いまスタッフの方から奥様に一言ずつというお願いをいただいているのですが、伺ってもよろしいでしょうか」と攻められて、受けなし?になっていた。香川は元関西所属で、ふたりをよく知っているからこその質問だったと思う。それぞれの答えは、プレミアム会員になって放送を確認してほしい。

5abema_0910_pbk_06.jpg

【総合成績】
第1局 増田〇-●出口
第2局 斎藤●-〇服部
第3局 永瀬●-〇服部
第4局 増田〇-●服部
第5局 永瀬●-〇稲葉
第6局 増田●-〇出口
第7局 斎藤●-〇稲葉
総合 2勝-5勝

【個人成績】
永瀬王座 0勝2敗
増田六段 2勝1敗
斎藤五段 0勝2敗
稲葉八段 2勝0敗
服部四段 2勝1敗
出口六段 1勝1敗

ABEMAトーナメント

紋蛇

ライター紋蛇

2012年より、ネット中継に携わる。担当局で一番長い中継が2013年3月の第71期順位戦C級1組の森けい二九段-近藤正和六段戦で、持将棋の末指し直しとなり、終局時刻は翌日の朝5時40分。「中継は体力だ」と痛感している。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています