チーム豊島VSチーム稲葉 ABEMAトーナメント2024~本戦トーナメント準決勝第二試合振り返り~

チーム豊島VSチーム稲葉 ABEMAトーナメント2024~本戦トーナメント準決勝第二試合振り返り~

ライター: 生姜  更新: 2024年09月13日

 9月7日(土)に放送されたABEMAトーナメント2024本戦トーナメント準決勝第二試合。チーム豊島「関西三銃士」(豊島将之九段、糸谷哲郎八段、大石直嗣七段)とチーム稲葉「井上一門」(稲葉陽八段、藤本渚五段、上野裕寿四段)の戦いを振り返る。5月に始まった本棋戦も残すところあと2試合ということで楽しみと同時に寂しさもある頃、暑さはまだまだ衰えを見せない。奇しくも関西棋士6人が集結した。

 第1局は大石と藤本の対戦。藤本は得意の雁木を採用。大石は右四間飛車に構えた。先攻した大石がうまく手をつなげてまずまずの態勢を築いたが、藤本の急所をつかませない指し回しもうまく、形勢は混沌。最後は大石の攻めが切れてしまい、藤本が幸先いいスタートを切った。

2局目 豊島将之九段─藤本渚五段

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 第2局は豊島と藤本の対戦に。藤本は勢いに乗っての連投だ。先手でもスラスラと雁木に囲い、豊島も同様に雁木を構築。相雁木のじりじりした序盤戦になった。

【第1図は△2四銀まで】

 手数はもうすぐ100手だが形勢はいい勝負。ここで▲2六歩と合わせたのが参考になる攻め。△2六同歩▲2五歩△同桂▲同桂△同銀▲3七桂が狙いだ。実戦は△2六同歩に▲9四歩と取り込み、△8四角▲同歩△7六歩▲8六角で先手ペースになった。以下△8四飛だと▲8五歩で困っている。2筋に嫌みをつけてから一転して9筋に目を向け、焦りを誘ったのは何とも戦上手。豊島は時間に追われながら攻め続けたが、藤本が的確に対処して差がついた。

3局目 糸谷哲郎八段─上野裕寿四段

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 第3局は糸谷と上野の対戦。糸谷は上着を脱いで気合十分。雁木の出だしから右玉に構える。自玉頭の4筋から仕掛ける思い切った攻めには『流れを変えてやる』の気概がうかがえた。豊島も「我々覇気がなかったですね」と笑みを見せる。形勢はやや上野よしで終盤戦に突入。糸谷の将棋ではよく見られる展開だ。

【第2図は△9八馬まで】

 ▲4三香が見えづらい俗手の攻め。だが糸谷はこういう手を逃さない印象がある。△2二玉▲4一香成△9七馬▲2六歩△6四馬に▲2五歩が強手。△9一馬で竜がタダだ。うっかりと思いきや▲2四歩で玉頭を攻めまくる姿勢である。しかし上野も簡単に崩れない。

【第3図は▲3一成香まで】

 △2二歩がしぶとい受け。▲2五歩△同銀▲2四歩△1三玉▲3二銀で一手一手の寄りのようだが、△3八成香▲同玉△3七銀が鋭い。▲同玉△2六角で先手玉は詰み筋だ。2五銀が寄せに働いている。上野が最終盤で抜け出し、見応えのある戦いを制した。

 第4局。チーム豊島は3連敗と厳しくなった。豊島が流れを変えに出陣。チーム稲葉もリーダーが満を持しての登場となった。稲葉は先手中飛車を採用し、豊島は穴熊に囲う。じっくりとした対抗形と思われたが、豊島が機敏に角をさばき、攻め続けて最後は堅さを生かして勝利。最終盤でも絶対に詰まない形を生かし、きれいな銀冠攻略を見せ切れ味抜群であった。稲葉は持ち時間を3分以上残してしまい、第5局のオーダー会議中でも悔しさをにじませていた。

 第5局。新たな決めポーズを披露して盤石モードの大石と、勢い止まらない上野が対戦。珍しい形の相掛かりになり、筋違い角も放たれて形勢判断の難しい戦いに。上野の強引に飛車を取りにいく構想がうまく、リードを奪ったあとは的確に追い詰めて大石玉を仕留めた。大石は時間に追われたようで、納得のいかない指し手を続けてしまったと思われる。最後は一手詰めまで指した。

6局目 糸谷哲郎八段─藤本渚五段

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 第6局は糸谷と藤本の対戦に。相雁木が予想されるカードだが、期待通りの戦型になった。藤本が糸谷調の5筋位取りで上部を盛り上げ、糸谷は右玉に。それぞれ個性を出していく。

【第4図は△7六歩まで】

 ここで▲7四銀が急所の張りつき。右玉は桂頭が薄いので、そこをしつこく食らいつくのがいい。△7七歩成▲同金直△6二銀▲5四桂△同金▲同歩△同銀に▲5九飛と飛車も攻めに活用。徐々に攻めが厚くなっていき、さしもの糸谷も支えきれなくなった。

【第5図は△6二桂まで】

 いよいよクライマックス。▲6三銀と打ちたくなるがわずかに詰まない。じっと▲7五桂でしばるのが確実だ。△7六角成が攻防手にならない展開にならなければ逆転はない。以下は△7八金▲9七玉で糸谷投了。藤本は豊島に続いて糸谷も撃破した。もう期待の新人という立ち位置では収まらないだろう。

藤本、上野の若手ふたりが力を発揮し、決勝に進出。前回稲葉に助けられたときの恩返しの構図となった。藤本は冒頭のあいさつで「稲葉先生に救ってもらったので今度は稲葉先生に楽をさせてあげたい」と話していたのだが、有言実行は素晴らしい。決勝の相手はチーム永瀬。どちらが勝ってもおかしくない最終戦、要注目である。

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【総合成績】
第1局 大石七段●─○藤本五段
第2局 豊島九段●─○藤本五段
第3局 糸谷八段●─〇上野四段
第4局 豊島九段○─●稲葉八段
第5局 大石七段●─○上野四段
第6局 糸谷八段●─〇藤本五段

【個人成績】
豊島九段 1─1
糸谷八段 0─2
大石七段 0─2
稲葉八段 0─1
藤本五段 3─0
上野四段 2─0

ABEMAトーナメント

生姜

ライター生姜

1993年生まれ。将棋連盟モバイルを中心に活動する中継記者。2018年現在は最年少の記者。棋士の食事注文に肉生姜焼き定食があると反応する。

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