加藤清麗の連覇か、里見女流四冠の復位か。第4期大成建設杯清麗戦五番勝負の展望

加藤清麗の連覇か、里見女流四冠の復位か。第4期大成建設杯清麗戦五番勝負の展望

ライター: 渡辺弥生  更新: 2022年07月06日

里見、リターンマッチへ

2022年5月23日、東京・将棋会館の特別対局室で第4期大成建設杯清麗戦の挑戦者決定戦が行われた。ここまで勝ち上がってきたのは里見香奈女流四冠と西山朋佳白玲・女王。里見と西山はどちらかがタイトルホルダーでどちらかが挑戦者という構図が多く、挑戦者決定戦でぶつかるのは初めて。

4seirei_outlook06.jpg
写真:睡蓮

西山が初手▲7八飛、里見がそれに対して△5四歩~△4二銀~△5三銀と上がってから飛車を振り、二人にとってお馴染みの出だしの相振り飛車になった。里見が作戦勝ちから西山の攻め駒を押さえ込んで完勝。ただしふたりは今期の清麗戦の予選トーナメント3回戦でも当たっており、そのときは逆に西山が里見の攻めを丁寧に余して勝利した。

昨年度の第3期大成建設杯清麗戦五番勝負で加藤桃子女流三段に清麗を奪われた里見がわずか一年で雪辱を果たすべく清麗戦五番勝負の舞台に戻ってきた。

絶好調の両対局者

里見は現在女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花の四冠を保持。女流タイトルの獲得数は48期、タイトル戦登場回数は今度の清麗戦五番勝負が61回目となる。実績もさることながら、ここのところの里見の充実ぶりは目覚ましい。まずタイトル戦の番勝負で最初4連敗していた西山に1年前から逆に勝ち越している。年齢のことを持ち出すのはつまらないが、里見の方が3歳年上ということを考えると、並大抵の努力ではこういう結果にならないだろう。5月には第48期棋王戦コナミグループ杯で挑戦者決定トーナメント入り。8月から棋士編入試験も始まる。里見は大忙しで、ひとつきに10局対局していることもある。身体を壊さぬよう気を付けて乗り切ってほしい。

4seirei_outlook03.jpg
写真:玉響

里見を迎えうつのは加藤桃子清麗。女流タイトル獲得数は9期、タイトル戦登場回数は今度の五番勝負が19回目。女流王座はあと1期でクイーン王座の資格を取得できる。加藤は2019年4月に奨励会をやめ女流棋士に。それまで出場できる女流棋戦が限られていたことを考慮せずともすごい実績である。今年度に入ってから加藤も9勝1敗と調子が良い。勝った相手の中には西山白玲・女王も含まれている。

4seirei_outlook04.jpg
写真:玉響

図は昨年度の第3期清麗戦五番勝負第5局の終盤戦。先手が里見、後手が加藤。里見にしては珍しく仕掛けで失敗し、中盤から苦しくなった。局面は里見が▲5六歩と打ったところ。ここで急所の一着がある。

4seirei_outlook02.jpg
写真:牛蒡

【第1図は▲5六歩まで】

第1図以下の指し手
△3六歩▲同銀△1五歩▲5五角△同龍▲同歩△1六歩▲1八歩△1七歩成▲同歩△1八歩

△3六歩が急所の一撃。▲同歩は△3七歩▲同銀△4九歩成。実戦の▲3六同銀に△1五歩で先手は受けに窮した。▲1五同歩は△1八歩▲同香△1七歩▲同香△1六歩▲同香△1七歩。銀を3六へ呼んだ効果で次に△1八金が厳しい。
最後の△1八歩に▲同香は△1九角▲同玉△3九龍。手段がなく、このあとすぐに里見が投了。加藤は女流棋士に転向してから初のタイトル獲得となった。

10度目の番勝負

加藤と里見がタイトル戦で対戦するのは今度の五番勝負が10度目となる。
2013年 第3期リコー杯女流王座戦五番勝負    里見奪取
2014年 第7期マイナビ女子オープン五番勝負   加藤奪取
2016年 第6期リコー杯女流王座戦五番勝負    里見奪取
2017年 第7期リコー杯女流王座戦五番勝負    里見防衛
2018年 第40期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負  里見防衛
2020年 第31期女流王位戦五番勝負       里見防衛
2021年 第47期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負 里見防衛
2021年 第3期大成建設杯清麗戦五番勝負     加藤奪取
2021年 第29期大山名人杯倉敷藤花戦三番勝負  里見防衛

特に加藤が女流棋士に転向してからというもの、加藤にとって里見は目の上のたんこぶだった。誰にとっても里見は一番困る相手だが、ことに番勝負となると里見の戦い方のうまさが光っていた印象がある。
しかし加藤にとって昨年の清麗戦の番勝負で勝利したのは大きい。一年前のように伸び伸びと自分らしい将棋が指せるはずだ。加えて清麗は加藤が現在唯一保持しているタイトル。並々ならぬ気合いで臨むはず。そうした勝負ではどちらに結果が転ぶかわからない。

加藤が居飛車なのは間違いなさそうだが、最近里見は振り飛車だけでなく居玉のまま速攻を仕掛けたり、居飛車を指すことも増えた。加藤と里見が3月に対戦したときは相居飛車になっている。戦型は居飛車対振り飛車の対抗型のほか、里見が序盤から仕掛ける力戦も見られそうだ。中終盤の切り合いは両者とも得意とするところで、一手一手目が離せない戦いになるだろう。女流棋界最高峰の攻防にぜひご期待ください。

第4期大成建設杯清麗戦五番勝負第1局は7月8日(金)、東京都千代田区「ホテルニューオータニ」にて開幕する。

渡辺弥生

ライター渡辺弥生

大学で将棋を覚えて以来、すっかりその魅力の虜になった。王様より飛車が大事な、振り飛車でしか勝てない居飛車党。

このライターの記事一覧

この記事の関連ワード

  • Facebookでシェア
  • はてなブックマーク
  • Pocketに保存
  • Google+でシェア

こちらから将棋コラムの更新情報を受け取れます。

Twitterで受け取る
facebookで受け取る
RSSで受け取る
RSS

こんな記事も読まれています