ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2021年12月16日
豊島将之叡王に藤井聡太王位・棋聖が挑戦した第6期叡王戦五番勝負。並行する王位戦七番勝負と立場を入れての対戦となった。これまで両者の対戦は豊島が圧倒してきたが、このダブルタイトル戦は藤井が逆襲した。前期までは持ち時間変動制の七番勝負で行われていたが、今期からは持ち時間4時間の五番勝負となる。
第1局は東京都千代田区「江戸総鎮守 神田明神」にて。藤井の角換わりから、序盤早々に飛車角交換となる乱戦となった。
【第1図は△8四飛まで】
第1図は▲8七銀で8六の飛車を△8四飛と追ったところ。▲3九角とここに角を手放しても戦えると見ていた大局観がすごい。△6五歩▲8六歩△6六歩▲同歩△5五銀直に▲2三歩成△同金▲2四歩△2二金▲3四角が巧みな手作り。形勢としては難しいが、以降正確な指し手を積み重ねた藤井が競り勝った。
写真:常盤秀樹
第2局は山梨県甲府市「常磐ホテル」にて。角換わりの相早繰り銀から藤井がリードを奪う。そのまま押し切るかと思われたが......。
【第2図は△3三香まで】
先手は9筋も破られており、かなり厳しい局面に思える。だがここで▲5四銀が強烈な勝負手。△同歩▲同飛△8八と▲5五飛△5三銀▲6二銀成と勝負勝負と迫っていく。形勢はまだ苦しいが、残り時間が少なくなる中、ついに逆転。最後は藤井の王手ラッシュをかわしきり、豊島が逆転勝ちを収めた。
写真:中野伴水
第3局は愛知県名古屋市「か茂免」にて。角換わり腰掛け銀から後手が攻め、先手が受け止める展開になる。
【第3図は△6六香まで】
△6六香と打って先手玉にプレッシャーを掛けたところだが、気にせず▲3三歩△同銀▲4五桂と反撃に出たのが好判断。△2二玉と受けたものの、この交換を入れてから▲6三歩成△同銀▲6五銀で後手の攻めを催促した。以下も的確に局面をまとめあげ、藤井の快勝となった。
写真:常盤秀樹
第4局は愛知県名古屋市「名古屋東急ホテル」にて。相掛かりから藤井の動きにうまく対応した豊島がリードを奪う。
【第4図は△7六桂まで】
桂の利きに▲8八角が勝ちを決める強手。飛車を取れば▲6一飛が痛打になるので一番勝ちが速い。実戦は△6八桂成▲同玉△7九飛成▲同角△7二銀としたが、俗に▲8四桂が厳しく先手勝勢だ。互いに先手で2勝ずつとし、決着は最終第5局へ。
写真:常盤秀樹
第5局は東京「将棋会館」にて。振り駒で先手となったのは藤井。相掛かりから難解な押し合いが続くが、ペースをつかんだのは藤井。不安定な後手陣をとがめ、着実に差を広げていく。
【第5図は△7二玉まで】
残っていた時間を使い、藤井もここで一分将棋に突入。▲5五角が自然と見られていたが、意外なところに藤井の手が伸びる。▲9七桂と端桂を跳ねたのが見た目以上に厳しい攻めになった。後手は△3六歩としたが▲8五桂と取り、△3七歩成に▲6二金△同玉▲4四角で詰み筋に入った。8五の桂が7三、9三を押さえているため、後手玉が一気に狭くなっている。
写真:常盤秀樹
フルセットの激闘を制し、藤井が叡王を奪取。史上最年少での三冠を達成した。両者は竜王戦七番勝負でも顔を合わせるため、まだまだ戦いは続く。
ライター渡部壮大