ライター石高澄恵
道南暮らし――石高澄恵女流二段
ライター: 石高澄恵 更新: 2021年01月14日
昨年の夏に札幌市から実家のある函館方面へ夫と義母と一緒に引っ越してきた。関東や札幌にいた頃は義母とは別々の暮らしをしていたが、実家の父が病気で入院し母も体調があまり優れないと聞き、夫と相談して実家近くに引っ越して母親を見守りながら義母と三人で暮らそうということになった。幸い実家近くに安くて設備の整っている理想的な物件が見つかり、現在はプライバシーも守りつつ穏やかな生活を送っている。
愛鳥のピヨちゃん(4歳、メス)
ところで、対局のたびに北海道から東京や大阪に遠征する私にとって、雪の影響を受けやすい冬場は毎回緊張感を伴っての移動となる。今のところ対局に穴を開けたり延期になるような経験はないが、数年前の12月下旬には、移動日に大雪の影響で飛行機が飛ばず一日遅れの遠征となったことがある。その年は、まれに見る大雪で数日間飛行機が飛ばず、その時はたまたま対局前日に公務以外の予定を入れていて一日早く移動する予定だったこともあり、早めに欠航後の手続きに移ることができたため、かなり時間を要したものの対局日には影響しなかった。もし普段通り対局前日に移動する形であれば、手続きが間に合わず延期は避けられなかったと思う。
また、千葉県の遠くに住んでいた頃には、特急電車が強風の影響で止まり、本来は1時間早く到着するところを40分の遅刻で精神的なダメージをを受けたこともある。
公共交通機関だけでなく、車での移動中にも恐怖を感じることがある。夏場に北海道へ観光でドライブに訪れた人からは「北海道は道が広くて走りやすい」とほめてもらえるのだが、冬場にはその光景が一変することをご存じだろうか。除雪作業による大量の雪が道路の両端に積み上げられ、道幅は半分に。そして最も怖いのがアイスバーン。どんな運転のプロでも全神経を集中して慎重な走りが要求される危険な状態で、冬場は運転を控えるドライバーも多い。...などと言いつつ、私自身は運転免許は持っているものの、まだ一度も雪道を運転したことがない。それどころか、ペーパードライバーに近い方向音痴のゴールド免許持ちなのである。しかし、10月頃から時々助手席に母親か夫を乗せては運転の練習に出掛けるようになった。
理由は、高齢の母が1月中に免許の返納を決断したものの、どこへ出掛けるにも車がないと大変なので、私が代わりに運転してあげられたらと思ったから。もっとも、せいぜいスーパーへの送り迎え程度しか役に立てないかもしれない。そして、恐怖の雪道デビューが刻々と近づいている(11月末現在)。母親も怖がっているので冬場は全く動けないかもしれないが、夫に協力してもらい無事に雪道での練習を行えるようドキドキしながら冬将軍の到来を待っているところである。
最近はありがたいことに女流棋戦が増えて全体的な対局数も多くなった。
新棋戦の白玲戦は一位から最下位まで全てが公になり、栄光と挫折が色濃く映し出されてしまう恐ろしい棋戦である。私としては、なんとか目立たない位置に落ち着きたいというのが今の率直な気持ちであるが、最悪な状況もつい思い浮かべてしまう。自分がそうなりたくないという思いはもちろんあるが、誰かが必ずそうなる、必ず誰かが...、そんなことを考え始めるたびに、言い知れぬ悲しみに襲われてしまう。とはいえ、対局前から悲観的な思考はご法度なので、自分の力が発揮できるよう準備しながら臨んでいこうと思う。
対局が増えると記録係不足も深刻化するのが悩ましいところだが、最近は記録係を積極的に志願してくれる女流棋士が増えて、記録募集係の私も楽しく作業を進めることができ、ありがたく感じている。
家族の誕生日祝い用に購入したお食事券(12月中に使用済)
世の中が大変な時代に将棋への関りで生活できることへの感謝と、自分にできることは何かを問いかけながら、これからも歩んできたいと思う。