昔ばなし――松浦隆一七段

昔ばなし――松浦隆一七段

ライター: 松浦隆一  更新: 2021年03月06日

下町生まれ

 昭和26年に下町の浅草で生まれ、子供の頃から将棋には慣れ親しんでいました。
浅草の街は将棋が盛んで当時は浅草寺の境内にも縁台将棋コーナーがあり盤が数面設置、適当に相手を見つけては一局指し、負けた方が一局分の席料を払う仕組みでした。
小学校低学年の頃は近所の悪ガキ達とメンコ・ベーゴマ・ビー玉・缶蹴り・鬼ごっこと学校から帰ると毎日のように遊んでいました。けれど雨の日は誰かの家に集まって将棋を指すのが常。定跡など知らず、ただ遊んでいる程度の実力でした

転機

 転機が訪れたのは中高一貫の進学校(開成)に通っていた中学2年の頃、父が買ってきた「将棋世界」を見てプロの世界に興味を持ち将棋にのめり込んで行きます。
学校帰りにはカバンを持ったまま将棋道場に通う毎日。最初は何と8級の認定でしたが約1年半の高校1年の時には4段まで昇段。 ドンドン昇級していくのが楽しくて仕方ありませんでした。
何とかギリギリで高校には進級できましたが将棋熱は一向に収まりません。
今でこそ開成は都内でも屈指の強豪校ですが当時は将棋部など無く昼休みに将棋を指していても教師に怒られる時代。
しかし私が中学2年の昭和40年に「第1回全国高等学校将棋選手権大会」が開催され教育界に於いても将棋に対する認知度が徐々に高まりつつありました。ちなみに第1回の個人戦優勝者には沼春雄(現七段)の名前が有ります。

高校選手権参加

 学校での部活はできないので上級生が同好会を結成、文化祭の参加や校外での活動はしていました。
当然、高校選手権にも参加したいのですが、申込書には学校責任者の署名が要るのです。公式に頼み込んでも学校側の許可は望めません。
そこで将棋好きの教諭を口説き落とし、何とか署名を貰い参加にこぎつけていました。
当時の高校選手権は夏休みに東京世田谷にあった昭和薬科大学(現在は玉川学園に移転)で開催され初日は個人戦、二日目は団体戦と二日間で全てを終わらせる超ハードな日程でした。
若干の地方予選も有りましたが、事前申し込みをして当日会場に来られさえすれば個人戦、団体戦共に誰でも参加できるという、今では考えられない方式でした。
当時連盟の理事で運営の責任者でもあった師匠(故丸田祐三九段)から苦労話をよく聞かされましたが、主催をしていただいた昭和薬科大学、後援の朝日新聞社、棋士、連盟職員の全面協力が無ければとても開催は出来なかったでしょう。

団体戦参加

 それまでは個人戦のみ参加していたのですが私が高校二年の第4回大会には、メンバーが揃い団体戦にも初参加することに。
受験勉強一本で将棋同好会の活動も止めていた三年生の強豪一人に無理やり参加をお願いし、残りは私を含め二年生四人の布陣。
私と三年の先輩は四段、残り三人も二、三段ぐらいの実力。
内心、結構良いところまで行けるかなと思ってはいたのですが......

準優勝

 一回戦から苦戦の連続でしたが幸運にも判定勝ち(運営上一定の時間が経つとプロ棋士が判定する)を含め、殆ど3勝2敗ながらも6連勝で奇跡の決勝進出。
決勝は休憩後に別室で行われる事になりましたが、移動前に応援に来ていた先輩達の「フレーフレー開成」の声援が静かな体育館に響き渡りました。
決勝の相手校は福岡県の八幡中央高校、前日の個人戦で優勝した野口鎮生選手や高校生ながらアマ名人戦福岡県代表になった児玉孝一選手(現八段)がメンバーにいる超強豪校です。
当然ながら1勝4敗で完敗。
それでも全員決勝まで勝ち進んだ達成感で満足気でした。

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思い出のメダル

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思い出のメダル裏はこうなっています

祝勝会

 表彰式での準優勝盾と賞状そして銀メダルの授与も終わり帰宅の準備、しかし簡単には帰してくれません。当然ながら大学生の先輩たちが祝勝会をやろうと待ち構えています。
記憶が定かではないのですが新宿のデパートの屋上に連れて行かれたような気が......
そして乾杯をして、先輩だけ?が泡の出る飲み物を飲んでいたような気が......(笑)
そんなこんなで益々将棋熱は高まり奨励会受験へと突っ走つて行くのですが、これから先はまたの機会に。

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久しぶりにメダルをかける松浦隆一七段

私のシリーズ

松浦隆一

ライター松浦隆一

1951年12月24日生まれ。東京都台東区出身。(故)丸田祐三九段門下。
1977年2月四段。2006年4月七段。2011年6月引退。

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