ライター相崎修司
ABEMAトーナメント2025~準決勝振り返り~
ライター: 相崎修司 更新: 2025年08月21日
ABEMAトーナメント2025もいよいよ大詰め。今回は8月16日(土)に放映された準決勝第1試合、チーム天彦「ヘッドハンティング」(佐藤天彦九段、広瀬章人九段、増田康宏八段)対チーム豊島「関西三銃士」(豊島将之九段、糸谷哲郎八段、大石直嗣七段)および、準決勝第2試合、チーム藤井「詰将棋パラダイス」(藤井聡太竜王・名人、斎藤慎太郎八段、古賀悠聖六段)対、チーム菅井「振り飛車+渚」(菅井竜也八段、藤本渚六段、西田拓也六段)戦の模様をお伝えする。第1試合は9時から、第2試合は17時から、生中継で行われた。
準決勝第1試合
第1試合、第1局はチーム天彦の先手に。チーム天彦はリーダー自らが初戦に登場。対するチーム豊島は副将格の糸谷を初戦に出してきた。糸谷の後手番というと、一手損角換わりを期待する声は高いだろう。その期待に応える形の戦いとなり、激しい攻め合いを制した佐藤がチームに初戦の勝利をもたらした。
第2局、今度はチーム豊島がリーダーの登場となる。対する増田は予選での個人成績が8勝1敗という圧巻の成績で、ここまでチームを引っ張ってきた。準決勝でも相手のリーダーを倒して、チームに弾みをつけたいが......。
【第2局 豊島将之九段-増田康宏八段】
【第1図は△8六歩まで】
第1図。ここで▲8六同銀と取ったのが豊島の強手である。当然△同飛と取り返したいが、それは▲8七歩と受けられると△8一飛で後手を引くことになり、先手からの▲3五桂や▲7二銀がすこぶる厳しい。増田は△6五飛と金取りに回ったが、▲6五歩△3五飛▲3六歩△同飛▲3八歩の進行は先手が一息ついた形だ。こうなると先手の桂得という実利が大きくなってくる。以下は粘る増田を振り切って、豊島がチーム成績をタイに戻した。
広瀬VS大石戦の第3局は後手の大石が角交換型振り飛車を作戦に採る。相銀冠の対抗形となり、中盤で戦機をつかんだ広瀬が押し切った。第4局は第1局に続く佐藤VS糸谷戦。先後が入れ替わったた戦いは、またも佐藤が勝利。続く第5局も増田VS豊島戦の再戦となり、今度は増田が豊島に借りを返した。
こうなるとチーム天彦の勢いは止まらない。第6局も再びの広瀬VS大石戦に。前局とは異なり相居飛車、角換わりの対戦となった。
【第6局 広瀬章人九段-大石直嗣七段】
【第2図は△8一飛まで】
第2図から大石は銀を逃げずに▲7二銀と攻め合いを目指す。以下△7七桂成▲同金△4一飛▲6四角成△5七角の進行について「後手がうまく立ち回ったような」と解説の佐藤紳哉七段。次に△6八銀を打たれると先手は受けが難しくなる。大石は▲3四歩△同銀を利かせてから▲2八飛と引いたが、△3五角成と後手も馬を作った。次に△3六歩などから、馬を軸に先手の飛車を押さえ込む狙いが生じており、ここでは後手が一本取っている。
チーム天彦が決勝進出一番乗りを果たした。決勝進出について佐藤リーダーは「皆で支え合ってここまで来たというのが星にも表れてます」と語る。予選では増田の活躍が目立ったが、準決勝では先輩2人がきっちり仕事をしてみせた。
準決勝第2試合
第2試合、第1局はチーム菅井の先手から古賀VS藤本の若手対決で始まった。この対戦は相居飛車の熱戦を藤本が制する。第2局は藤井VS西田戦で、藤井が竜王・名人の貫禄を示した。第3局の斎藤VS菅井戦は菅井がリーダーの意地を見せる。第4局は再びの古賀VS藤本戦で、藤本が古賀のリベンジを許さなかった。
第5局は斎藤VS西田戦。西田の高美濃対斎藤の居飛車穴熊という対抗形に。ここまでチームが1勝3敗と押されており、また自身の個人成績も2勝3敗(予選で2勝2敗、準決勝で1敗)と波に乗れていない感のある斎藤だが「内容的にはいろいろ悪手もあったような気もしますが、気持ちは負けないように」と振り返る意地の勝利を見せた。
続く第6局。流れからすると藤井VS菅井戦となりそうだが「みんなが待っているカードでしょう」という菅井の言葉もあって、藤井VS藤本戦が実現した。藤井の先手で始まった本局は後手の藤本が凝った序盤作戦を披露するが、藤井はフィッシャールールならではの早指しを続ける。「こんな作戦も研究済みなんですかね」という驚きの声も上がった。
【第6局 藤井聡太竜王・名人-藤本渚六段】
【第3図は△6五金まで】
第3図。この△6五金に▲同香は後手の馬筋が通ってくるので指しにくい。ここで藤井の指した▲4五銀が好手である。解説の西尾明七段も「なるほどですね」と称えた。△4五同馬でタダのようだが、馬筋がそれるので▲6五香と金を取ることができた。また先手には▲2二飛成の狙いも残っている。最後は超高速で藤井が後手玉を即詰みに討ち取って、チーム成績を3勝3敗のタイに戻した。控室に戻ってきた藤本に「▲4五銀と指してくるのは相手が強かったというしかない」という菅井の言葉が全てを物語っている。
改めて三番勝負となり、第7局は古賀が菅井に、第8局は西田が斎藤にそれぞれ勝利した。これで両チームともに全員が1勝以上したことになった。
リーダー対決となった最終第9局は藤井の先手で、菅井の三間飛車から相穴熊に。中盤は千一手模様となったが、藤井が果敢に打開した。しかしこの打開にはやや無理があったようで、菅井がリードを奪って終盤戦に突入する。
【第9局 藤井聡太竜王・名人-菅井竜也八段】
【第4図は▲8四歩まで】
終盤の第4図。ここで△8七馬と銀を取るのは▲9二竜から後手玉がトン死する。後手の馬が一路ずれたことでこのトン死筋が生じるのだ。果たして菅井は第4図から△5八飛と詰めろに打った。この詰めろ自体は簡単に受かるが、先手に駒を使わせつつ飛車を敵陣に設置できるのは大きいとしたものだ。だが藤井の▲7八金に対し、時間に追われて打った△7九銀が痛恨の落手。すかさず▲4六角と王手銀取りに打たれて△8二歩▲7九角と打った銀を抜かれてしまった。また8筋に歩を打たされたことで、攻めに歩が使えなくなったのも大きい。△7九銀では△8四金と手を戻すか、あるいは第4図から△7七金ならば後手が有望だった。
かくして決勝はチーム藤井対チーム天彦の組み合わせとなった。このカードは予選Bリーグの初戦でもぶつかっており、その時はチーム藤井が5勝4敗で辛勝している。
決勝について藤井は「チーム天彦は手厚いメンバーがそろっていますが、こちらも思い切りぶつかっていきます。詰将棋の力を発揮できるように頑張ります」と意気込みについて語った。決勝戦は8月23日の放映をどうぞお楽しみに。
【第1試合総合成績】
第1局 佐藤○-●糸谷(第1局はチーム佐藤が先手番。以下は交互)
第2局 増田●-○豊島
第3局 広瀬○-●大石
第4局 佐藤○-●糸谷
第5局 増田○-●豊島
第6局 広瀬○-●大石
総合5勝 ― 1勝
【個人成績】
佐藤九段 2-0
広瀬九段 2-0
増田八段 1-1
豊島九段 1-1
糸谷八段 0-2
大石七段 0-2
【第2試合総合成績】
第1局 古賀●-○藤本(第1局はチーム菅井が先手番。以下は第8局まで交互、第9局はチーム藤井の先手番)
第2局 藤井○-●西田
第3局 斎藤●-○菅井
第4局 古賀●-○藤本
第5局 斎藤○-●西田
第6局 藤井○-●藤本
第7局 古賀○-●菅井
第8局 斎藤●-○西田
第9局 藤井○-●菅井
総合5勝 ― 4勝
【個人成績】
藤井竜王・名人3-0
斎藤八段 1-2
古賀六段 1-2
菅井八段 1-2
藤本六段 2-1
西田六段 1-2
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