「風邪をひいても、駒はひくな」米長永世棋聖の精神、前へ出る「米長流」急戦矢倉の駒組みとは【はじめての戦法入門-第20回】

「風邪をひいても、駒はひくな」米長永世棋聖の精神、前へ出る「米長流」急戦矢倉の駒組みとは【はじめての戦法入門-第20回】

ライター: 高野秀行六段  更新: 2019年12月17日

皆さん、こんにちは。高野秀行です。

前回は「米長流」の狙い筋をご紹介しました。
後手番の急戦策!「米長流」急戦矢倉の駒組みと狙い筋とは?

△5三銀左と角道を開けたまま△6五歩から、ダイナミックに歩を交換して、迎えたのが前回の第3図です。ここから△7五歩と仕掛けるのが狙いの攻め筋で、▲同歩に△8六歩~△6六角~△8六飛と見事な「十字飛車」が決まり、大成功!となりました。

【第1図=前回第3図(▲3七桂まで)】

(前回の第3図。ここから△7五歩と仕掛けますが、先手にも反撃があります。)

しかし、これはちょっと出来過ぎの手順。ここまで攻めが決まっては、先手もたまりません。今回はこの参考1図を今回の第1図とし、先手の反撃、それに対する後手の受け、そして大切な攻防の一着という、中盤のせめぎ合いをご覧頂きたいと思います。

△7五歩▲2四歩△同歩▲2三歩△同金▲2四角△3二玉▲4六角△2四歩▲5五歩(第2図)

【第2図は▲5五歩まで】

(形は乱れますが、△3二玉~△2三金で先手の攻めをいったん止めることに成功しています。)

△7五歩の仕掛けに対し、▲2四歩~▲2三歩が定跡となっている、先手反撃の手順です。

これに対し、△4四角とかわす手も有力ですが、▲4五桂と跳ねられ△4二銀と引くのでは、ちょっと元気がありません。ここは相手の手に乗り、堂々と△2三同金と取りましょう。

▲2四角に△同金は▲同飛△3三角打▲2三飛成△6六角▲同金△同角△2一竜(参考1図)以下詰まされてしまいます。この▲2四角の対する応手が米長流を指す上で、大切なポイント。▲3二玉を上がり、▲2四歩と上部で攻めを受け止めるのです。形は乱れますが、先手の攻めを遅らせることに成功しています。

【参考1図は△2一竜まで】

(▲2四角を△同金と取ると、一気に敗勢に。)

△2四歩に▲7五歩はやはり△8六歩からの十字飛車があるので、先手は▲5五歩と角道を止めて来ました。

第2図からの指し手
△5五同歩▲7五銀△5六歩▲5五歩△5七歩成▲同銀△同桂成▲同金(第3図)

【第3図は△5七同金まで】

(先手は銀桂交換の駒損になりますが、次に▲2五歩~▲2四歩の厳しい攻めを狙っています。)

角道を遮断する▲5五歩に対し、△4四銀や△7六歩などもありますが、△5五同歩が自然な一手です。先手の▲7五銀はわざと△5六歩と突かせて、銀桂交換を強要して手。先手は、第3図から▲2五歩~▲2四歩という継ぎ歩の攻めを狙っています。この攻めをまともに受けては、銀桂交換の駒得はなくなってしまいます。この第3図で攻防の一着があります。

第3図からの指し手
△3五歩▲同歩△3六歩▲4五桂△4四銀▲1五桂△1四金▲2三歩△3一角▲3四歩△4五銀▲2四角△2五歩(第4図)

【第4図は△2五歩まで】

(後手は強く駒を前に出して受けるこれがコツで、先手の攻めが切れ模様です。)

第3図で△3五歩が好手。▲同角は△5五角(参考2図)で△3七角成と△9九角成と気持ちの良い両取りが掛ります。

▲同歩に△3六歩と踏み込み、▲4五桂には△4四銀、▲1五桂には△1四金と強く対応すれば大丈夫。先手の駒がドンドン前に来ますが、駒不足で第4図となれば、先手の攻めが切れてしまい、後手はっきり優勢です。

▲2五歩~▲2四歩の攻めを緩和すると同時に、先手の桂先を狙う△3五歩はまさに攻防の一手。第1図からの手順△3二玉~△2四歩同様、米長流を指す上で覚えておかなくてはならない一手です。

【参考2図は△5五角まで】

(気持ちの良い「両取り」がかかって、後手優勢。)

では今回のおさらいです。

(1)△7五歩の仕掛けに対し、▲2四歩~▲2三歩が定跡となっている先手の反撃。

(2)△4四角もあるが、△2三同金と取りたい。▲2四角に△3二玉~△2四歩と上部で受けるのがポイント。

(3)中央の折衝で銀桂交換の駒得となったあとが、一番のポイント。▲2五歩からの攻めを緩和しつつ、桂を攻める△3五歩がまさに攻防の一着。

(4)以下強く金銀を上部に繰り出し、先手の攻めを切らす!

前回の鮮やかな攻めの手順と比べて、何とも地味で分かりにくい手順かもしれません。しかし「風邪をひいても、駒はひくな」という「前に出る」米長邦雄永世棋聖の精神が流れている手順です。

ぜひ盤上に並べ、得意戦法に加えて頂ければと思います。

さて、前回、今回と「米長流」で△5三銀左と角道を開けたまま仕掛ける作戦をご覧頂きましたが、△3三銀(参考3図)と一回飛車道を受けてから、△4四銀と中央に繰り出す作戦も有力。次回からはこの△3三銀型を解説したいと思います。

【参考3図】

(4二銀を3三に上がり、飛車先を一回受けます。この後△4四銀~△5五歩と仕掛けるのが、「米長流」のもう一つの作戦です。)

はじめての戦法入門

高野秀行六段

ライター高野秀行六段

1972年6月横浜市生まれ。1984年に6級で中原誠十六世名人に入門。1998年4月に四段。棋風は居飛車本格派。趣味はゴルフ。将棋教室で多くの子供たちに将棋を教えている。

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