矢内女流五段が第8期女流王位戦全局で採用した陣形 菊水矢倉の組み方(1)【玉の囲い方 第73回】

矢内女流五段が第8期女流王位戦全局で採用した陣形 菊水矢倉の組み方(1)【玉の囲い方 第73回】

ライター: 一瀬浩司  更新: 2019年06月17日

今回のコラムでは、相居飛車の囲い「菊水矢倉」をご紹介します。矢倉と聞くと一般的ですが、菊水がつくと聞き慣れない名称になると思います。さて、これはどのような囲いなのか。そちらを見ていきましょう。

「矢内矢倉」とまで言われた矢内女流五段が得意とする陣形

囲いの特徴:第1図をご覧ください。

【第1図は▲8九玉まで】

平成9年10月14日、第8期女流王位戦五番勝負第3局、▲矢内理絵子女流二段ー△清水市代女流王位戦(肩書は当時)です。後手の清水女流六段の陣形は矢倉に囲う途中ですが、先手の陣形は玉が8九におり、相居飛車では見慣れない形をしていますね。これが菊水矢倉です。

当時、矢内女流五段は菊水矢倉を得意としており、このシリーズでは全局菊水矢倉を採用しました。フルセットの末、見事3勝2敗で女流王位を奪取し、一部の棋士や関係者の間では、「矢内矢倉」とまで言われたほどの活躍を見せました。この将棋の4手目の局面が、第2図です。

【第2図は△8四歩まで】

横歩取りの出だしですが、矢内女流五段はここで▲6六歩と止め、△8五歩▲7七角として菊水矢倉を目指しました。清水女流六段といえば、相掛かりや横歩取りというような、急戦調の将棋を得意としています。第2図から▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金と進めばほぼ横歩取りの将棋になりますが、角筋を止めてしまえば、しばらくは戦いが起きずじっくりとした戦いに持ち込めます。横歩取りは嫌だけど、囲い合う居飛車の将棋が指したい、という方にはよいかもしれません。

菊水矢倉に組むまでの手順

では、いつも通り、先手側の駒のみを配置して、菊水矢倉に組むまでの手順を見ていきましょう。

囲いを組むまでの手順:初手から、▲7六歩、▲2六歩、▲6六歩、▲7七角(第3図)。

【第3図は▲7七角まで】

3手目(実戦では後手の手番もあるので5手目)に▲6六歩と角筋を止めて▲7七角と上がります。なんで▲7六歩の次に▲6六歩としないの? と思われる方もいるでしょう。その理由は次回書きますので、それまでになぜなのかを考えてみてください。すぐに▲7七角と上がっていますが、後手が△8五歩と突いてこない場合でしたら、▲5八金右など別の手がよいです。それも次回理由を書きます。

では、続きを見ていきましょう。第3図から、▲7八金、▲5八金、▲8八銀、▲6九玉、▲4八銀、▲5六歩(第4図)。

【第4図は▲5六歩まで】

金銀を上がっていき、駒組みを進めます。▲5八金右と右金を先に上がったり、▲8八銀は後にしたりと、これまでの囲い同様にこれが正解というものはありません。では、ここから完成までを見ていきましょう。第4図から、▲6七金右、▲6八角、▲7九玉、▲7七桂、▲8九玉(第5図)。

【第5図は▲8九玉まで】

▲7七桂のところで、▲7七銀と上がれば普通の矢倉になります。今回は6八に角を引きましたが、2六に使いたい場合は▲5九角と引くほうが、スムーズに▲2六角と上がることができます。(6八ですと、そこから▲5九角と引くのでは、6八に引いた一手が無駄になりますし、▲4六角~▲3七角~▲2六角のルートでは二手余計に掛かってしまいます。こちらは好みですので、場合によって使い分けていただけたらと思います。

次回のコラムでは、菊水矢倉に組む際の注意点を見ていきます。

玉の囲い方

一瀬浩司

ライター一瀬浩司

元奨励会三段の将棋ライター。ライター業のほか、毎月1回の加瀬教室や個人指導など、指導将棋も行なっている。主なアマチュア戦の棋歴としては、第34期朝日アマチュア将棋名人戦全国大会優勝、第63回都名人戦優勝などがある。

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杉本和陽

監修杉本和陽四段

棋士・四段
1991年生まれ、東京都大田区出身。2017年4月に四段。師匠は(故)米長邦雄永世棋聖。バスケットボールを趣味とする。ゴキゲン中飛車を得意戦法とする振り飛車党。
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