「楽しんで指したい」「もっと力を」違う景色を見る里見香奈と里見咲紀が語る、これまでとこれから【前編】

「楽しんで指したい」「もっと力を」違う景色を見る里見香奈と里見咲紀が語る、これまでとこれから【前編】

ライター: 遠藤結万  更新: 2019年01月25日

里見姉妹インタビュー

十六歳でのタイトル獲得以来、女流棋界の頂点に立ち続けている里見香奈女流四冠と、ファンからの人気も高く、研鑽を続けながら普及にも貢献する里見咲紀女流初段

今回公開する前編では、二人が影響を受けた棋士や、知られざる二人の原点について伺いました。

二人がプロを目指したきっかけとは

――将棋を始めたきっかけについて伺います。インタビューなどで里見女流四冠は、森けい二九段に「プロになれる」と言われ、プロの道を目指すようになった、とお話されていました。

里見(香奈)女流四冠 島根にいると、プロ棋士の先生にお会いする機会自体が少ないんです。JT杯の中国大会の時だったんですが、レセプションに森先生がたまたま来られていて、そこで少しお話して。女流育成会に通うときに幹事の先生から「面識のある棋士はいますか?」と聞かれて、「森先生です」とお答えしたら、そこで幹事の先生が連絡をとって頂いたんです。たまたまご縁があったというか。

――近年は、頻繁に対局される師弟も多くなっていますが、そういった関係とは少し違う、と。

里見(香奈)女流四冠 見守っていただいた、という感じでした。年に一回森一門の合宿があって、そこでお話はするのですが、頻繁にお会いするという感じではありません。

――その流れで、里見女流初段も当然森門下に、ということでしょうか。

里見(咲紀)女流初段 私は、小学生の頃から、森一門の合宿に参加させていただいていたんです。

――すごい環境ですね(笑)。

里見(咲紀)女流初段 そうですね(笑)。いつ研修会に入るかということを周りからも聞かれていて、姉も森門下なので、やはり森先生に。

――里見女流初段は、研修会に入られた後、一度は研修会を辞められるなど、ご苦労もあったと伺っています。

里見(咲紀)女流初段 とんとん拍子に勝っている姉を見ていたので......研修会に入るときは「行けるだろう」と本当に思って受験したら、思ったよりもかなり下のクラスからスタートということになって。考え方が甘かったですね。

あの時は、(勉強を)やってるつもりだったんですけど、全然やってなかったので。なんでこんなに頑張っているのに勝てないんだろうって思っていました。

 

――それでも、また将棋の道に進まれたいなと、思われたのはなぜでしょうか?

里見(咲紀)女流初段 他に何をやろうと思った時に、他に何もなくて。進学ということになっても、将棋推薦を使ってしまう、ということになるので、いろいろ考えた上で、最初から決めてきた道を進みたいな、と決めました。

――里見女流四冠は、ご相談に乗られたりということはあったんでしょうか。

里見(香奈)女流四冠 私は、その時は実家を離れていたので。一回辞めるときは「辞めるなら辞めるので、いいんじゃないかな」とは思っていました。将棋に縛られない人生もあるんじゃないかな、と。

――里見女流初段が女流棋士になられたときは、どういう気持ちだったのでしょうか。

里見(香奈)女流四冠 すごく嬉しいっていうよりは、良かったかな、って気持ちですね。あんまり喜ばなかったので、周りの方が不思議がっていました。ホッとしたというか、これから頑張ってほしいという気持ちでした。

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――森九段は七十一歳まで現役を続けられ、昨年引退されました。お二人にとって師匠というのはどのような存在でしょうか。

里見(香奈)女流四冠 女流名人を初めて取ったときに、東京に来ていただいていて、お祝いの食事会をひらいていただきました。こちらを信じて見守っていただいている、というか。プレッシャーもないですし、のびのびと将棋を指させていただいています。

里見(咲紀)女流初段 私も数えるほどしかお会いしていないのですが、年に一回は近況報告をさせていただいてます。

――里見女流四冠は、幼少の頃に高橋和女流三段に「毎日詰将棋を解けば強くなれる」とアドバイスを受けた、というエピソードが有名ですが、今でも詰将棋は解かれていますか?

里見(香奈)女流四冠 今はさすがに......毎日解いているわけではないです。量より質ということで難しいものに挑戦する日もありますし、解きやすいものを解く日もあります。

――里見女流初段は詰将棋は解かれますか?

里見(咲紀)女流初段 私はあまり得意な方ではないんです(笑)。でも、詰将棋を考えることはとても好きです。今まではたくさん解こうと思ってやってきたのですが、最近は難しいものを盤に並べて考え続けるようにしています。

――今の将棋界では、「詰将棋は強くなるためには意味がない」という派閥もありますが、お二人とも「詰将棋は意味がある派」ということですね(笑)。

里見(香奈)女流四冠 やはり、将棋は最後、先のことまで読まなくてはいけないですから。詰将棋自体を解くのは好きなので、私にとっては苦痛ではない勉強法です。

二人が影響を受けた棋士とライバルについて

――強くなるという点では、他の棋士の影響も大きいと思うのですが、里見女流四冠が影響を受けた棋士はどなたでしょうか?

里見(香奈)女流四冠 畠山鎮七段です。礼儀作法や挨拶を教えている姿ですとか、畠山先生の将棋に対する姿勢を見て、研究会をお願いしたんです。断られると思っていたんですけど「ああ、いいよ」と言ってくださって。たくさんのことを教わった先生です。

――テレビ番組で畠山七段が「女流のタイトル戦と奨励会を両立するのは、普通の人は二倍大変だと思うかもしれないが、本当は八倍、一〇倍大変なんだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

里見(香奈)女流四冠 畠山先生は、言っていただけるタイミングが本当にすごくて、気持ちが読み取られているんじゃないかと思うくらいなんです(笑)その時すごく重要なことを、見据えていってくださるので、それはものすごく感謝しています。

――里見女流四冠は畠山七段という先輩棋士の名を挙げられましたが、里見女流初段はいかがでしょうか。

里見(咲紀)女流初段 私は、戸辺誠七段の棋譜とか定跡本を並べることがアマチュア時代から多くて。私の戦型は、中飛車も三間飛車も、戸辺先生の指している手に影響されています。一番棋譜を並べましたし、将棋という面では、一番プロになってから将棋を見ている先生ですね。戸辺先生の将棋を見ているととても楽しいというか、棋風がすごく好きで、ああいうふうに指せれば、といつも思っています。

対局の面では戸辺先生ですが、指導や普及の面では、豊川孝弘七段です。アマチュアの頃に指導対局を一番受けていたのは豊川先生なんですが、そのたびに、必ず前回の棋譜を覚えていらっしゃるんですね。自分が女流棋士になってわかるんですが、すごく多くの人と将棋を指すじゃないですか。それを、一年経っても前回の将棋を覚えてらっしゃるんですよ

――それは、すごいですね。

里見(咲紀)女流初段 本当にすごいです。私は指導を受ける側なので、もちろん覚えているんですけど、それよりも鮮明に覚えていらっしゃって。その時も驚いたんですが、プロになって改めてすごいなと。自分も指導する時に、しっかりと考えて指す、というのは心がけています。

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――戸辺先生もそうですが、豊川先生も人気のある先生ですね。

里見(咲紀)女流初段 面白い方だというのはもちろんよくわかっていたんです(笑)でも、本当にすごい、記憶力というよりも、心がけがすごい方なんだなと思いました。豊川先生は、今でも一緒に仕事があるとウキウキします。

――今挙げられたのはお二人とも先輩棋士でしたが、同年代の棋士や女流棋士についてはいかがでしょう。お二人にライバルはいらっしゃいますか?

里見(香奈)女流四冠 ライバルは......そうですね......(少し考える)

小学生の頃はいました。常にライバルの男の子がいたので、小学生の時は県予選をかけて頑張るという目標はずっとあって、それが将棋の伸びしろに大きく関係したかなと思います。

――プロになってからは、いらっしゃらない、と。

里見(香奈)女流四冠 女流棋士になってからは、ライバルというよりは、早くタイトルを取りたいという気持ちで、それが奨励会に入ってからは、同じ段級の子より早く上がりたいということで、この子に負けたくないという気持ちはありましたけど。はっきりした特定の人はいないですね。

――清水先生や中井先生はライバルという感じではないですよね。

里見(香奈)女流四冠 雲の上の存在だったので、ライバルというのはおこがましいです。早く対局したい、早く勝ちたいという憧れは有りましたけど、ライバルという感じじゃなかったですね。

――今は渡部愛女流王位や、伊藤沙恵女流二段西山朋佳女王など、若い世代の挑戦を受ける立場になっているかと思いますが。

里見(香奈)女流四冠 ライバルというよりは、自分の将棋を指して、頑張りたいなという気持ちでやっています。

――里見女流初段は、そういった「若い世代」と同世代ですが、同年代のライバルという点ではいかがでしょうか。

里見(咲紀)女流初段 私の年代ですと、関西には一つ上と一つ下に女流棋士がとても多いんですね。なので、その中で勝ち上がっていきたいという気持ちは当然あります。

あえて名前を上げるなら、石本さくらさんが、ちょっと抜けているというか、上に行っている感じなので、石本さんに追いつきたいという気持ちはあります。私のほうが、今はまだ棋力が低いと思っているので。

――里見女流四冠は女流王座戦で、清水市代女流六段と対局しましたね。里見女流四冠は、初めてタイトルを獲得されたのも清水女流六段(第16期倉敷藤花戦)との対局で、以降も度々尊敬の念を口にされています。

里見(香奈)女流四冠 清水さんは、元々将棋棋士として雲の上の存在だと思っていたんですが、同じプロになってから何度もお話させていただいて、この方は将棋以外の世界でも必ず成功される方なんだな、と違う意味での尊敬の念を抱きました。

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第8期リコー杯女流王座戦で戦った里見女流王座と清水女流六段 女流王座戦中継ブログより

――デビューから三〇年に渡ってトップ棋士の一人でいらっしゃる、というストイックさでしょうか。

里見(香奈)女流四冠 ストイックさももちろんですが、周りに対する分け隔てのない気遣いですとか、そういった姿を見ると尊敬の念しかありません。

――今年(2018年)は、女流棋界をリードされてきた蛸島彰子女流六段(LPSA所属)も引退されました。

里見(香奈)女流四冠 女流育成会の時に幹事をしていただいた先生ですし、女流棋界を切り開いてきた先生です。感謝とともに、頑張らなければいけないな、という気持ちになります。

二人が考える今後の女流棋界

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――女流棋界は、蛸島先生から歴史が始まったわけですが、そこから考えると、女流棋士自体の数も増えてきましたし、様々な形でファンの前に露出する機会も増えてきています。お二人は今後女流棋界はどう変わっていく、あるいはどう変えていくべきだ、と思われますか。

里見(香奈)女流四冠 そうですね......将棋を指して、スポンサーの方々に支えられて成り立っているものなので、自分の持っている力を発揮した将棋を指すことによって、いい方向に向かっていけばいいんじゃないかな、と思います。まずは棋力がどんどん上がっていけば嬉しいな、と。

里見(咲紀)女流初段 対局が第一なんですけど、普及の面でも、女性が将棋をしているのを見て始めていただく女性の方も多いと思うので、女流全体で普及も、棋力の面も、より上がっていけばいいんじゃないかな、と思っています。

――蛸島先生は、初めて女性として奨励会に入られましたが、里見女流四冠も、初めて女性として三段リーグに参加されたパイオニア、と言えるのではないでしょうか。

里見(香奈)女流四冠 私は自分が本当にやりたいことをやってきただけなので、自分を評価したりということは全く無いです。それがきっかけになって、将棋で強くなる男の子も、女の子も出てきてほしいなという気持ちはあります。

――将棋界はまだまだ男性社会という面があり、奨励会ではご苦労されたことも多いと思います。奨励会に入る女流棋士が増えてほしいという気持ちはありますか。

里見(香奈)女流四冠 私が将棋を始めた頃と今とでは、女流棋士の人数自体が違います。ちょっとずつ増えているということは、今後も増えていくということだと思いますし、人口が増えればそういう道も増えてくるかなと思います。

――里見女流四冠が出雲から夜行バスで通われていた当時、メディアにも多く取り上げられ、将棋界のイメージも変わりました。ご自身の活躍によって、女流棋士が増えた面もあるのではないでしょうか。

里見(香奈)女流四冠 それはわからないですけど、そうなっていたらいいなと思います。私は私で、私に出来ることをしていけたらいいな、と思っています。

――里見女流初段と同世代の棋士ですと、里見女流四冠を目標にして、という方も多いかと思うのですが、姉妹ですと、憧れるという感覚ではないですよね。

里見(咲紀)女流初段 憧れるというよりは、そうですね......。(数秒沈黙する)

「こうなりたい」というよりも、将棋に対する思いとか、そういう面で、参考にしなくては行けないな、と思うことはあります。よくインタビューで「お姉さんと対局をしたいか」とか「タイトル戦を指したいか」と聞かれるんですけど。

――はい。

里見(咲紀)女流初段 私は上に行って、女流棋界の上の方と指したいという気持ちもあって、その中に姉もいる、という感じですね。

――お姉さんと、という感じではない。

里見(咲紀)女流初段 姉だから......という感じではないです。

羽生九段に清水女流六段。偉大な先輩たちから学ぶこと

――なるほど。一方、普及面では、お二人で将棋教室などを始められた、と聞いています。お忙しいかと思いますが、日々の生活の中で、普及と研究や対局準備などのバランスについてはどのように考えていらっしゃいますか?

里見(香奈)女流四冠 自分が言葉をかけてもらう立場になると、例えば羽生先生に頂く言葉は特別ですし、影響力のある方に頂く言葉というのはとても大事に思っています。ですから、タイトル戦で頑張った上で、そういった普及活動に力を注げればなと思っています。

里見(咲紀)女流初段 私の場合は、まず第一に実力をつけなくてはいけないので。イベントに出ているばかりではなかなか対局に勝つことも出来ないので、まずは力をつけなくては、と。指導対局をする機会もあるのですが、そこも実力がなければいけないので。メディアには、まだ私は出れる立場ではないと思っているので、まずは身近な方に対して普及活動ができればと思っています。

――羽生先生の名前が出ましたが、里見女流四冠は羽生先生とお話されたことは?

里見(香奈)女流四冠 あるんですけど、やっぱり緊張して話せないです(笑)。それ、会話ですか、という感じで。羽生先生が気を使っていろいろ聞いていただいて、お答えするという感じですね。

――将棋のことを聞かれたりしたんでしょうか。対局の話とか。

里見(香奈)女流四冠 覚えていないレベルなので。いざ目の前にすると何を話したらいいんだろ、ってなって。

――女子高生棋士としてメディアに取り上げられている頃、里見女流四冠は「女版羽生」などと紙面に書かれたこともありましたが......。

里見(香奈)女流四冠 それはちょっと......流石に(笑)。

――目標とされる存在ということでしょうか。

里見(香奈)女流四冠 ずっと羽生先生を見ていると、将棋はもちろんなのですが、将棋以外の普及面にもたくさん出られているじゃないですか。羽生先生は何人いるんだろうって(笑)。体調面ですとか、自己管理もしっかりされていますし、その上で本当に隙間時間を見つけて普及されているので、色んな意味で第一人者というか。

――女流棋界の第一人者として、学ぶことが多いと。

里見(香奈)女流四冠 私は本当にまだまだです。振る舞いも羽生先生と比べて全く出来ていませんし、清水さんの立ち振舞も本当に綺麗ですし、学ばなければいけないなと。

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――里見女流初段は、羽生先生とはお会いになったことは?

里見(咲紀)女流初段 去年イベントで、姉も一緒にお会いする機会もあったのですが、本当に緊張して、姉のように固まってしまって......(笑)。

姉の斜め後ろあたりに位置して、羽生先生が姉になにか質問して、姉が答えて、私は横で控えていました(笑)羽生先生と谷川先生は、オーラが凄くて喋れなくなりますね。

――関西の棋士にとっては、谷川浩司九段も、やはり特別な存在でしょうか。

里見(咲紀)女流初段 初めてニコニコ生放送に出たとき、谷川先生とご一緒したんです。初めてなので本当は、中継に緊張しなければいけないんですが、谷川先生と一緒にいること自体に緊張して、お昼ご飯のときも緊張して、カメラとかどっかに行っちゃいましたね(笑)。

 

 

今回のインタビューでは、羽生善治九段や谷川浩司九段など、様々な名前が飛び出しましたが、里見香奈女流四冠は何度も清水市代女流六段の名前を上げ、尊敬の念を示していました。

女流棋界を背負う第一人者として、通じるものがあるのかもしれません。

また、里見咲紀女流初段が、あえて「普及活動中の」豊川孝弘七段の名前を上げたのも印象に残りました。

二人の将棋観や、目指すものの違いが見えたのではないでしょうか。

次回のインタビューでは、藤井聡太七段との対局や、これからの抱負などを伺います。

遠藤結万

ライター遠藤結万

ライター。振飛車党で向かい飛車が大好き。著書に「エッセンシャル・デジタルマーケティング(技術評論社)」。 「ハーバー・ビジネス・オンライン(扶桑社)」連載中。

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