ライターマツオカミキ
「誰にも負けない自信があった」三段リーグ4期目、その自信の源とは【斎藤明日斗四段インタビューvol.2】
ライター: マツオカミキ 更新: 2019年01月28日
プロになって1年が経った、20歳の棋士・斎藤明日斗四段の4回連載インタビュー。第2回は、三段リーグで感じた藤井聡太三段(当時)への想いや、四段に上がってからの気持ちの変化についてお聞きしました。「頑張っても負ける時は、相手が自分以上に頑張っている時」と、自身の経験を振り返って語る斎藤四段。三段リーグからプロ入りまでの、正直な心の内を明かしてくれています。
成長か衰退か、高校卒業時に鈴木大介九段からもらった言葉
――三段リーグ2期目で藤井聡太三段(当時)が入ってきた時、どういう気持ちだったのでしょうか。
藤井三段が注目を浴びる中、自分が活躍できていないことに悔しさはありました。当時は直接対局することはなかったのですが、それでも周りから「本当に強い」という話を聞いていて‥‥。でも、なるべく意識しないようにしていましたね。今では本当に尊敬していると素直に言えますが、当時はそんな風には思えなかったので、「意識しないようにする」のが精一杯の強がりというか(笑)。
藤井三段が入ってくるまで、自分は三段リーグの中で一番年下でした。しかし、自分より活躍する年下が入ってきたことで、年齢に甘んじることなく、もっと頑張らなきゃいけないと強く思いました。
――そんな三段リーグ2期目、結果はどうだったのでしょう。
9勝9敗で、まだ四段になれるほどの実力が自分にはないと痛感しました。それで、3期目は自分が変わらないといけないと意気込んで臨んだのですが、結果は10勝8敗で四段には上がれず。ただ、初めて勝ち越せたことが、少し嬉しかったんです。
――前期より成長していることが、自信になりますよね。
そうですね。勝ち越せるようになると昇級候補として見てもらえるようになるので、それが自分の自信にもなりました。そして迎えた4期目は、高校を卒業したタイミングだったので、さらに将棋に打ち込むチャンス。しかし、将棋に費やせる時間が急に増えたため、上手く時間を使えずに悩みました‥‥。
――悩んだ、というと?
これまで将棋にかけられる時間は放課後や休日だけでしたが、いざ卒業してみると「1日って結構長いんだな」と感じました。一日中ずっと将棋に集中し続けるのは難しく、少しダラダラとしてしまう日もあったり‥‥。そんな時に、鈴木大介九段から「高校を卒業した瞬間、2つのタイプに分かれる」と言われて。
――2つのタイプ。
はい。将棋により打ち込むようになるか、まったくやらなくなってしまうか、どちらかだと言われました。それを聞いてハッとしたんです。本気で取り組まないと、自分は衰退してしまう。そこから、目の色を変えて将棋の勉強に打ち込むようになりました。
その甲斐あってか、4期目はとても調子が良かったです。期の途中からは、自分でも「これは負けないんじゃないか」と思うようになって。あの時は、どこまでも勝ち続けられる気がしてました。
何者でもない、認められていない自分が苦しかった
――どうして「負けないんじゃないか」と思えるようになったのでしょう?
「こんなに将棋に向き合っている人はいないだろう」と思えるぐらい、やってきたぞという実感があったからだと思います。自分でも驚くぐらいに、誰にも負けない自信がわいてきましたし、対局でも勝てるようになりました。
逆に、自分は頑張っているつもりなのに負けてしまう時は、自分以上に相手が頑張っているんだと思います。だから、そこで「頑張っても無理だ」と卑屈にならず、ひたむきに、誰よりも将棋と向き合うことが大切だと感じました。
――その結果、ついに四段に。
はい。4期は14勝4敗で、ようやく四段に昇段できました。誰も僕が昇段するなんて思っていなかったんじゃないかな。そんな中、期待をいい意味で裏切って四段に上がれたことで、さらに自信を持てるようになりました。
――昇段した時は、どういう気持ちでしたか?
正直、ホッとしました。三段リーグにいる間って、自分が何者でもない苦しさがあったんです。
――何者でもない自分、ですか。
棋士として認められていない自分。これだけ将棋に向き合っているのに、プロではない自分が、もどかしくて苦しかったんですよね。
――なるほど。そこから抜け出せた安心感。
はい。それでホッとしたんです。ただ、それから1年経った今も「棋士になれた」という安心感が抜け切っていない気がします。ここがゴールではないので、安心してはいけない。三段リーグで必死に戦っていた時の気持ちを思い出さなければ、と思っています。
――プロになってから、新たに感じたことはありますか?
いざ自分が四段になってみると、第一線で活躍している棋士の強さを改めて感じるようになりました。三段の頃には見えなかった部分、知らなかった側面がいっぱいあったんです。例えば、持ち時間の使い方や、食事で何を食べるかなど。第一線で活躍している人は、表からは見えない部分で工夫されています。将棋を指している間だけではなく、すべてが将棋につながる。だから自分も、今のやり方を改めなければならないと感じています。
――具体的には、どういうところでしょう。
例えば、対局の休憩時間。これまではすぐにご飯を食べ終えて、すぐ対局室に戻り、局面を考えることが多かったんです。しかし、それだと夜遅くなってきた時に、頭の中が真っ白になってしまうことがあって。
――真っ白になるというのは、集中力が落ちてくるとか‥‥?
いえ、集中力が落ちている感じはないんですが、なぜか先がまったく見えなくなるんですよね。それで対局に負けてから、休憩時間の過ごし方を改善しようと思うようになりました。最近は、先輩棋士がどう過ごしているかを観察し、学ばせていただいてます。そういった盤面以外の部分でも、自分を見つめ直さなければいけないですね。
第3回は、斎藤四段の休日の過ごし方や、棋士仲間とのプライベートのことなどを伺います。