「自分を変えなければ」プロになって一年、斎藤明日斗四段の「これまで」と「これから」【斎藤明日斗四段インタビューvol.1】

「自分を変えなければ」プロになって一年、斎藤明日斗四段の「これまで」と「これから」【斎藤明日斗四段インタビューvol.1】

ライター: マツオカミキ  更新: 2019年01月21日

「自分を変えなければ、と思っています」まっすぐな瞳でそう語るのは、2017年10月にプロ入りを果たした斎藤明日斗四段。20歳だからこそのフレッシュな雰囲気と、相手の目を見ながら落ち着いて話す姿が印象的な若手棋士です。

プロになって1年、環境や気持ちの変化はあったのか。また、どのように将棋と向き合ってきたのか。斎藤四段の「これまで」と「これから」をお聞きする4回連載インタビュー。初回は、将棋を始めたきっかけや、初段でぶつかった壁、三段リーグで出会った藤井聡太三段(当時)についてお話いただきました。

「もっと強くなりたい」ライバルの背中を追う小学生時代

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――この4回連載インタビューでは、四段になるまでの経緯や、プロになってからの変化をお聞きしたいと思っています。

よろしくお願いします。こういうインタビューは初めてなので、お声がけいただけて嬉しいです。

――まず、将棋を始めたきっかけからお伺いしたいです。

僕が5歳の時に、将棋好きな父が将棋盤と駒を買って、教えてくれたのがきっかけでした。その後、小学1年生から3年生までの間、子ども将棋スクールに通いました。当時は習い事のひとつとして楽しんでいただけで、棋士になりたいと思っていたわけではなかったです。

――将棋に打ち込み始めたのは、いつ頃でしたか?

子ども将棋スクールを卒業後、地域の将棋大会でライバルに全然勝てなかった時に、はじめて「もっと強くなりたい」と思いました。県予選でその子に毎回負けてしまって、結局、全国大会に一度も出られなかったんです。

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どうしてもその子の強さの秘訣が知りたくて、直接「どこで習ってるの?」と聞きました。そこで教えてもらったのが三軒茶屋の将棋クラブ。もっと強くなるために、僕もそこに通うことにしました。

奨励会を目指すために、師匠が提示した条件とは

――その将棋クラブが、今の師匠である宮田利男八段が開いている教室だったんですね。

はい。小学3年生から、そこで面倒を見ていただきました。そして、5年生になったある日、師匠から「奨励会を目指してみないか」と声をかけてもらったんです。ただ、「そのためにはひとつ条件がある」とも言われました。

――条件、ですか。

その条件が、「将棋かサッカーか、どちらかを選ぶこと」でした。

――サッカーも、やっていたんですか?

そうなんです。小学生の頃、僕はサッカーチームにも所属していて、そちらも本気で取り組んでいました。しかし、本気で奨励会を目指すのなら将棋に絞らなければならない、と。

――天秤にかけた結果、将棋を選んだ理由は何だったんでしょう。

当時、自分でも少しずつ将棋が強くなってきた実感があって、勝てる回数が増えていたからだと思います。そんな時に師匠から声をかけてもらって、「自分に奨励会なんて目指せるのかな?」と思いつつも、「せっかくだからやってみたい」と。

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――奨励会に入ってから、将棋との向き合い方は変わりましたか?

そうですね。奨励会の同期には自分よりも強い人がたくさんいたので、才能の差をまざまざと思い知らされました。それでもなんとか中学3年生で初段まで上がったのですが、そこから先にはなかなか進めず‥‥。運良く初段にはなれたけれど、実力がついてきておらず、負けが続くようになりました。

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そこに高校受験も重なり、受験勉強と将棋を両立させる日々。対局終わりで塾に行くこともあり、毎日が目まぐるしく過ぎていきました。将棋に費やせる時間が減ったことで、負けが続いて降級寸前になったこともあります。

――両立はなかなか難しいですよね。

本当にそう思います。結局2年近く初段のままだったので、自分もかなり焦っていました。高校入学後は気合いを入れて将棋に打ち込み、高校1年生の終わりに二段へ。その後、半年以内に三段へ上がることができました。あの時は、遅れを取り戻そうと必死でしたね。

注目される藤井聡太三段、活躍できない自分

――高校2年生、17歳で三段リーグに入ってからは、どのように進んでこられたのでしょうか。

三段リーグには通算4期もいたんですが、1期目は三段リーグの雰囲気に圧倒されるばかりでした。特別対局室の空気感や、自分より年上の方と戦うことに、まずは慣れないといけない。ピリピリとした緊張感の中で、どうすれば集中力を切らさずにいられるか、試行錯誤していました。

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また、三段リーグに入ったばかりの頃に、戸辺誠先生からアドバイスをいただいたのも印象に残っています。戸辺先生が「俺は毎回上がるつもりでやっていた」と。それが自分にとってはすごく衝撃的で。三段リーグでは、何期も上がれずに繰り返しているうちに、モチベーションが下がってしまう人も結構多いと思うんです。でも、自分が毎回死ぬ気で打ち込めば、絶対に上がれると背中を押してもらったような気がして、感動したのを覚えています。

でも、1期目の戦績は8勝10敗。力不足を実感しましたし、もっと頑張らなきゃいけないと感じました。

――三段リーグの2期目は、また気持ち新たにスタートしたのですね。

そうですね。2期目は、精神的にも鍛えられた時期だったと思います。そのきっかけのひとつが、藤井聡太三段(当時)が三段リーグに入ってきたこと。それまで僕は、三段リーグで一番年下だったので、自分よりも年下が入ってくるというはじめての経験でした。

――自分より年下で、しかも、周囲からとても注目されていて。

はい。藤井三段は「天才が出てきた」とメディアからも注目される一方で、自分なんかはまったく注目されることもなく、なかなか活躍もできず‥‥。やはりそこで、気持ちの変化はあったと思います。

第2回は、藤井聡太三段(当時)が入ってきたことによる気持ちの変化や、プロの棋士になって感じたことなどを伺います。

斎藤明日斗四段インタビュー

マツオカミキ

ライターマツオカミキ

2014年からライターとして活動する平成元年生まれ。28歳にして初めて将棋に触れました。将棋を学びながら、初心者目線で楽しさをお伝えします!普段は観光地や企業、お店を取材して記事を執筆中。

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