詰みまで一気に畳み掛ける!カウンター▲6五桂の威力とは?【奇襲戦法 第2回】

詰みまで一気に畳み掛ける!カウンター▲6五桂の威力とは?【奇襲戦法 第2回】

ライター: 窪田義行七段  更新: 2018年07月16日

今日は。棋士の窪田です。第1回では、鬼殺し戦法の基本を紹介しつつ奇襲戦法に就いて概説しました。第2回は、後手の仕掛けに対し奇襲戦法の真価を発揮する有様を、詳細に解説します。

まずは、前回のおさらいとして、奇襲戦法の定義を確認しておきましょう。

奇襲戦法の三大定義

(1)「相手の準備が整う前に、意表をついて仕掛ける」

(2)「玉の囲いや攻防の駆け引きを省いて、シンプルに攻める」

(3)「相手陣や相手の心理を利用して、正攻法では得られない大戦果を挙げる」

鬼殺し戦法がまさにこの3つの要素を含んだ強力な戦法であります。

8筋が破れても慌てずに▲6五桂

まずは、前回の手順を確認します。

初手から、▲7六歩△3四歩▲7五歩△8四歩▲7八飛△8五歩▲7七桂(図1)

【第1図は▲7七桂まで】

前回も説明しましたとおり、▲7七桂がポイントです。さて、ここから鬼殺し戦法の核心に迫ってきます。

図1からの指し手

△8六歩▲同歩△同飛▲6五桂(図2)

【第2図は▲6五桂まで】

振り飛車としては、▲7六歩から▲6六歩と角道を止めて▲7七角と上がれば、8筋の突破を防げます。

ですが、飛角を同時に塞ぎつつ▲7七桂と跳ねれば、後手は当然△8六歩▲同歩△同飛と飛先交換して更に8筋突破を図り、次は△8七歩として角を取りにいくでしょう。最初の定義の(1)(2)らしからぬ展開ですが、実は(3)のお膳立てができました。

颯爽と▲6五桂(第2図)と跳ね、後手の8筋交換の瞬間を捉えた、振り飛車らしいカウンターの捌きという形で、先手は(1)(2)を実現しました。飛角の効きがぱっ!と再び開通した有様は、(3)を期待するに充分です。

後手は、一旦は天使の跳躍となる▲5三桂成(不成)を防ぐか、乗り掛かった船で更に8筋を攻めるか、急に悩ましくなりました。しかし、8六飛が逆に標的になった事に気付いているでしょうか?

5三を防いでも銀得の大戦果

第2図からの指し手

△6二銀▲2二角成△同銀▲7七角△8九飛成▲2二角成(図3)

【第3図は▲2二角成まで】

後手△6二銀は、▲5三桂不成の両取りを防ぎつつ、船囲いを目指す自然な受けです。△6四歩が間に合えば、『桂の高飛び歩の餌食』で先手失敗ですが、その前に後手の8六飛を標的に▲7七角と飛銀両取りを掛けます。△8二飛と引いても、6二銀が飛車の横効きを邪魔していますので、▲2二角成で無効です。△8九飛成は勢いですが、既に左桂が6五にいて取れない点も不満です。

後手は、8二飛の横効きを遮らずに5三を受ける手がなかったか、対局中ながら振り返るかも知れません。しかし、2段目に金か銀か玉が上がらないと受からないので、徒労となります。そんな心理的な引きずりをついて、「銀損だが勝負はこれから」と思い直す前に(3)を拡大したいところです。

左桂を取られる間に大捌きで追撃

図3からの指し手

△6四歩▲8八飛△同龍▲同銀△6五歩▲3二銀△同金▲同馬△5二玉▲3一飛(図4)

【第4図は▲3一飛まで】

後手が初志貫徹をする△6四歩は、6二銀が壁銀となって塞がっている右翼への退路を作る面からも侮れません。ただ、先手は、▲2一馬△6五歩▲1一馬と後手陣左翼の桂香をとって、銀香得に戦果を拡大しても必勝です。しかし、今回は鬼殺しの神髄を示すべく一気に即詰みで仕留めるまで寄せを解説します。▲8八飛は後手の期待の星とも言える龍と遊んでいる先手の飛を交換する気持ちの良い捌きで、心理的効果も大でしょう。後手が最善に頑張っても遠からず寄せ切れそうですが、諦めを誘うには心理的効果が重要です。

△同龍に▲同馬なら『馬は自陣に使え』ですが、後手の居玉を攻めたいので引きあげずに置きます。

△6五歩と左桂を取り替えされて銀桂交換になりましたが、後手は桂の使い道や飛角の打ち込み場所がありません。居玉は(2)の典型ですが、そういった効果も無視できません。とは言え、手をこまねかずに2二馬を活かし、後手の居玉の脇腹目掛けて▲3二銀と切りこみます。

後手は4一金を見捨てる訳には行きませんので、△同金▲同馬に△5二玉と上がり、6筋に出来たばかりの退路を目指します。しかし、▲4一馬の一手詰めを狙う、▲3一飛が後手の闘志を上回る寄せの手筋です。

後手が遂に力尽きる

図4からの指し手

△5一金▲4一金△7一飛▲5一金△同飛▲4二金△6一玉▲5一金△同銀▲8二飛△6三角▲5一飛成△同玉▲4二馬△6一玉▲6二銀まで先手の勝ち(図5)

【第5図は△6二銀まで先手の勝ち】

正直、飛を温存する△5一金はプロ級の頑張りという印象ですが、▲4一金が俗手ながらやすりを掛ける様な寄せの好手です。△同金は▲同馬で▲4一馬が実現しますが、△6一金と逃げても▲4二金と引かれると、△6三玉に▲6一飛成と金を取られます。

結局、△7一飛と打たざるを得なくなりましたが、▲5一金に△同飛と取って▲4一馬を防いだ物の▲4二金を食らいました。▲5一金△同銀に▲8二飛が気持ち良い打ち込みで、『玉は包む様に寄せよ』となる決め手です。

最後は、▲5一飛成からの即詰みに切って落とされました。

速戦即決が奇襲戦法の醍醐味

第2回では、満を持して決行した▲6五桂の威力をご堪能頂けたかと思います。

後手が先攻した為に(1)の内で防御の準備が整わない物の、振り飛車らしいカウンターの捌きが決まりました。先手は結局、居玉のままで飛を後手の龍と交換し飛・馬・銀の3枚を元に攻め切ったので、(2)に該当します。現実には、後手は心が折れて投了するか受け間違えてもっと早く詰まされるかも知れません。その場合は、完全に(3)に一致します。奇襲戦法は、「正攻法を推奨し邪道を戒める一般的な格言」と相性が悪いですが、終盤の寄せでは大いに参考になります。実戦でも良く思い返して下さい。

一般的な講座としては、17手目▲2二角成で「以下先手必勝」として解説を打ち切って構いません。本講座では、差別化を図るべく後手玉を詰ますまで解説しました。奇襲戦法の醍醐味となる、速戦即決の妙技をご理解頂ければ何よりです。

次回は、12手目で後手が△6二銀以外の対応を選んだ場合に就いて解説します。「振り飛車らしくカウンターで捌く」という形で、鬼殺しの威力を確認して行きます。

今回のまとめ

・「8筋が破れても慌てずに振り飛車らしくカウンター」

・「5三に注目させつつ銀得の大戦果」

・「左桂を取られる間に味良い飛者の捌きで追撃」

・「相手が力尽きるまで寄せの手を緩めない」

奇襲戦法

窪田義行七段

ライター窪田義行七段

1972年東京都の生まれ。1984年に第9回小学生名人戦で優勝し、同年、奨励会6級で故・花村元司九段に入門。2010年の第36期棋王戦、2006年の第56回NHK杯将棋トーナメントでともにベスト4。主として四間飛車及び角交換向かい飛車を愛用する、振り飛車党の一人。

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