ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2018年05月29日
今回はと金がいかに強い駒であるかを見ていきましょう。
【第1図】
まずは第1図、穴熊の終盤戦で出てきそうな部分図です。ここで攻めとしては▲6二金打が普通ですが、後手も△7一金打と受けてきます。以下▲7二金△同金▲6二金打△7一金打......と繰り返すと千日手。金を使った攻めは相手に金を渡してしまうため、受ける余地を与えやすいのが難点です。
【第2図】
第2図は似たような局面ですが、と金や歩で攻めているのが違うところ。ここでは▲6三歩と垂らすのが厳しい攻めになります。他に▲6二金△7一金打▲6三歩と攻めるのも有力です。攻め筋としては先ほどと似ていますが、と金で金をはがせるのが違うところ。と金の場合は相手に渡しても歩に戻るため、先手にとって駒得になります。これが「と金は金と同じで金以上」と言われるゆえんです。手数は掛かっても、と金攻めは確実に敵陣を薄くすることができます。これなら相手に千日手に逃げられることもありません。
【第3図は▲4八同銀まで】
第3図はプロの実戦から。先手は飛車を取られましたが、5三とが非常に大きな存在で先手優勢です。これが「5三のと金に負けなし」の格言です。と金が5三にいると攻めの足掛かりになります。実戦は△4七歩▲同銀△5六歩▲2四成銀△5七歩成▲同金△4五桂▲5八金引△5七歩▲4八金△2四歩▲3四角から先手が押し切りました。5三のと金がいるため、後手は飛車を転換することもできません。
形勢判断をする上で「5三のと金に負けなし」は役立つでしょう。
【第4図】
第4図では▲5二歩と垂らすのが確実な攻め。以下▲5一歩成~▲4一と~▲3一とで金を一枚はがすことができます。手数が掛かって一見遅いようですが、実はなかなかに速い攻めです。これを「と金の遅早」と言います。
【第5図は△8七角成まで】
最後に髙﨑一生六段の実戦から。第5図は第25期竜王戦ランキング戦4組(平成24年1月▲髙﨑五段△横山泰明五段・段位はいずれも当時)で、先手の石田流に後手の居飛車。お互いに美濃囲いにガッチリと囲ってから戦いが始まりました。先手は竜と馬を作り、駒得ではありますが歩切れ。後手からは△7八歩が確実な攻めとして残っているので、先手も何か手を作らなくてはならず、忙しい局面です。実戦は▲8一とと、じっとと金の活用を図りました。以下△7八歩▲7一と△7九歩成▲7二と△8六馬▲8三馬△7四銀▲7三馬△6三金▲同馬△同銀▲7三と△5二銀▲6二と(第6図)まで進み、9一にいたと金でついに金駒をはがすことに成功しました。
【第6図は▲6二と金まで】
形勢は先手が苦しいながら、と金を使って勝負に持ち込みました。以下も激戦が続きましたが、最後は先手が制しました。「と金の遅早」で相手にプレッシャーを掛けていったのが逆転のきっかけでしょう。自玉が安全な時はと金を使った攻めが間に合うかどうか考えてみるのが良いでしょう。
と金は相手に渡しても歩ということを考えると、実は竜や馬以上に強い攻め駒かもしれません。手数の計算をしてと金攻めができるようになれば、かなりの実力者です。
ライター渡部壮大
監修高崎一生七段