将棋閑話~対局者と時空を共有するということ~

将棋閑話~対局者と時空を共有するということ~

ライター: 常盤秀樹  更新: 2016年11月02日

10月15、16日に渡辺明竜王に丸山忠久九段が挑戦する第29期竜王戦七番勝負第1局が京都・嵯峨嵐山の禅刹、天龍寺で行われた。1937年に阪田三吉と花田長太郎八段(当時)の対局「天龍寺の決戦」が行われ、それから約80年の時を経て、再びここでの対局が実現した。

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世界遺産に指定されている天龍寺の建物や庭園を商用として撮影するには、申請が必要となる。撮影は基本的に観光客がいない開園前に済ませなければならない。というわけで、対局2日目の朝7時半過ぎからあたふたと撮影。観光客のいない朝、透き通った陽ざしに照らされて荘厳に佇む天龍寺を撮ることは、滅多に経験できることではない。(取材協力:天龍寺)

私が天龍寺を訪れるのは、下見を含めて3度目となる。前2回に訪れた時も良かったが、やはり、木々の葉が色づき始めるこの時季の京都・嵐山の美しさは格別だ。まさに、将棋界最高棋戦の開幕にふさわしい舞台だと改めて感じた。1994年に世界文化遺産に登録された天龍寺は、方丈という建物とそれを臨む曹源池庭園が有名で、つい最近の鉄道会社のコマーシャルでも紹介された。その美しい映像に目を奪われた方も多いかと思う。

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今回のイベントでは、封じ手直前から対局室に入り観戦することができた。重苦しい空気が漂う中での数分間は、対局というものを肌で感じる貴重な経験だろう。

そんな最高の舞台の中で対局を撮影する機会に恵まれたことは、幸運だった。今もなお語り継がれる天龍寺の決戦から約80年。再びこの地で渡辺竜王と丸山九段が、一局の将棋に心血を注ぎ、思考の限りを尽くす。カメラのファインダー越しに見るその姿に、人生を賭して勝負に臨んだ阪田と花田の姿がオーバーラップしてくるようだった。そこに時代を超越した人間としての普遍的な美しさを感じずにはいられない。

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対局は、速いペースで進行した。2日目の昼休明けでは、局面も終盤をむかえていた。いつも以上に対局者の表情が険しい。

今では、インターネットでほぼ全てのタイトル戦を動画中継し、対局の模様も逐一放送されている。かつては、ベールに包まれていた対局中の様子も詳らかになり、将棋ファンにとって身近なものになったと言えよう。しかし、対局場で対局者と同じ時間と空間を共有することでしか味わえない感覚もある。その場その時の空気感みたいなものだ。

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対局が行われた友雲庵。阪田対花田戦は、1枚目の写真で移っている方丈という建物の大書院の部屋で行われた。写真右手前の部屋だ。取材協力:天龍寺)

第1局初日のイベントでは、初手と封じ手観戦が組まれていた。30人の参加者は、対局者2人が発する緊張感に押しつぶされそうになったのではないかと思う。特に封じ手の際は、その場で撮影していた私ですら気圧されそうな重い空気が対局室に漂っていた。この時の痺れるような感覚は、モニターから見るだけでは決して体験できない。

機会は少ないが、こういう体験ができるイベントも開催しているので、その際は機会を逃さず、ぜひ参加していただきたい。料金以上のものが得られることは間違いないだろう。

常盤秀樹

ライター常盤秀樹

日本将棋連盟の職員として将棋界を20年以上見てきた。タイトル戦中継に際してのITインフラの準備や設営に従事。その傍ら、対局写真や棋士、女流棋士の写真も数多く撮影。給料の多くがカメラやレンズ代に消える。

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