免状のはなし 時代背景を映し出す免状の歴史

免状のはなし 時代背景を映し出す免状の歴史

ライター: 日本将棋連盟 免状課  更新: 2020年06月10日

木村義雄十四世名人の直筆免状が発見される

令和が2年となり寒暖差が身に染みるころ一通のメールが将棋連盟に送られてきた。「昭和20年代の初段の免状で、允許スではなく、免許スとなっているのは、何故でしょうか?父親の免状ですが、もちろん、プロではなく、アマチュアです」。メールを寄せてくれたのは初段を許された岡本茂氏の息子さん。詳しいことは分からないが父君は高島一岐代九段のもとで研鑽を積んでいたという。(※1)

添えられていた画像は現代、発行されている免状とはやや仕様が異なるものだった。字体を見る限り「名人 木村義雄」の自筆に「会長 渡辺東一」を添えたもので「将棋初段ヲ免許ス」は簡にして要、わずか八文字ながら長年の精進をきらびやかにたたえている。ことに昭和27年は2月に(※2)陣屋事件、7月に名人位の箱根越えから木村は引退、将棋界にとって大きな節目となった年で貴重価値をさらに高めている。

※1:免状の文面はアマプロで若干の違いがあるため、ここではアマチュアの場合に限って紹介している
※2:第1期王将戦で升田幸三八段が木村義雄名人との香落ち上手番の対局を拒否した事件。対局場の名を取り「陣屋事件」として後世に伝えられている

小説家・瀧井孝作氏の案による文面が記されるようになったのは昭和33年からで「允許」の表記で統一された。文末に会長、名人の署名が入り、時を経て平成元年から竜王の署名が加わることとなった。栄えある初代竜王は当時六段だった島朗。以来、3人署名を基本とし今に続いている。

歴史と伝統を継承しながら話題に合わせた特別免状も多く企画されている。羽生善治七冠王誕生渡辺明初代永世竜王達成記念は大きな反響を呼び、記憶に新しいところでは木村一基王位獲得の特別署名がある。


平成元年から会長、名人、竜王の連記に。棋界の双璧を表し、その移り変わりは時代を反映している。
また昭和の大棋士・大山康晴十五世名人の署名はこの当時、多くの免状に見られた。


羽生善治七冠達成と渡辺明初代永世竜王達成の快挙は将棋ファンのみならず日本全国を熱狂させた。


平成10年、書家としても知られた原田泰夫九段の直筆免状が限定100本で発行された。
「三手の読み」「礼儀作法も実力のうち」など有益な造語の数々は「原田語録」として、今も指導者の間で重用されている。


六段、七段、八段免状は巻物仕様も希望により発行していた。現在は受注終了。

免状を最初に作ったのはいつ?

◆先生
「○○君は最近強くなってきたね。そろそろ初段かもしれない。将棋の実力を示す目安として段位があるけれども、段位やそれを証明する『免状』はいつごろ生まれたのか知っているかい」

◇生徒
「教室に飾ってある先生の免状には六段と書いてありますね。日付は平成になっているけれどその前の昭和...いやずっと昔の明治時代でしょうか」

◆先生
段位制度は江戸時代に始まったことがわかっている。江戸幕府初代将軍の徳川家康が慶長17年(1612年)に将棋と囲碁の達人に幕府から俸禄を支給することを決め、家元制の基礎を築いたんだ。
江戸時代はそれ以前の戦国時代と違って庶民文化が隆盛し、将棋や囲碁のような知的遊戯が盛んになった。最高の実力者は「名人」の称号を得たが17世紀後半になると技芸の上達度合いを測る物差しとして家元から『免状』が渡されるようになったんだ。武芸の免許皆伝と似ているね」

◇生徒
「段位を取るとなにかいいことがあったのでしょうか」

◆先生
門下生にとっては修業の成果を表す励みになったし、家元も謝金を受け取り収入源になっていた。これは現在と一緒だね。18世紀初頭の享保2年(1717年)には段位で実力を示す『将棊図彙考鑑』という名簿が発刊され、全国の有段者167名(七段3名、六段1名、五段4名、四段17名、三段22名、二段30名、初段90名)の名が記されている」

◇生徒
「そのころの初段といまの初段の実力はだいぶ違うんでしょうね」

◆先生
「当時は駒落ちでハンディをつけることが普通で今のようなプロとアマの区別はなかった。七段は名人(九段格)と香落ちの手合いだからかなりの実力だ。初段は名人に二枚落ちで勝てるのが目安だったから、これは現在とあまり変わらない。武家の将棋好きは多く、徳川家治(十代将軍)は七段まで進み、ほかの有力武家にも有段者は多かったようだ。
明治維新で家元制は崩壊したけれど、その後にできた将棋や囲碁の競技団体に段位や免状の制度は受け継がれ現在に至っているんだよ」

◇生徒
「ところで、先生の免状には『○段を允許す』のように書かれていますがこうした文面は誰が考えたのですか」

◆先生
「昔は家元や団体を代表する棋士が与える人ごとに文面を考えて書かれていたようだが、日本将棋連盟が昭和33年に、将棋好きだった小説家の瀧井孝作氏に依頼して現在のスタイルになった。格調の高い文章だと思わないかい」

初段免状の文面・読み方・意味

※各段で文面が変わる。

【文面】
夙ニ将棋ニ
丹念ニシテ
研鑽怠ラス
進歩顕著ナ
ルヲ認メ
茲ニ初段ヲ
允許ス

【読み方】
つとにしょうぎに
たんねんにして
けんさんおこたらず
しんぽけんちょなるをみとめ
ここにしょだんをいんきょす

【意味】
日ごろから将棋に真心をこめているうえに
研究を怠らないで進歩が著しいことを認め
ここに初段を認可する

免状は、努力の証はもちろん、伝統を重んじながら、それぞれの時代背景も映し出しているのであろう。


話題の棋士の特別署名もファンにとっては待ち焦がれたもの。
バラエティーで人気沸騰の加藤一二三九段と、46歳で初タイトルを獲得した木村一基王位。
いずれもキャンペーン期間中に申請した特典である。

[記事協力]大阪商業大学アミューズメント 産業研究所主任研究員 古作 登
[免状資料協力]岡本明・遠藤正樹

日本将棋連盟 免状課

ライター日本将棋連盟 免状課

江戸時代、免状の発行権は、時の将棋所(名人)の管掌にありました。昭和に入り実力名人戦の実施と共に免状発行権が日本将棋連盟に移管しました。 免状課は段級位を認定し級位認定状・免状を発行し皆様にお届けしています。

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