前期挑戦者にして、今期も本命? 王将リーグでの羽生三冠の実績を紹介

前期挑戦者にして、今期も本命? 王将リーグでの羽生三冠の実績を紹介

ライター: 直江雨続  更新: 2016年10月30日

今期の王将戦挑戦者を決める「第66期王将戦挑戦者決定リーグ戦」が開幕しました。この王将リーグを戦う7人の棋士について順にご紹介していこうと思います。まずは羽生善治三冠です。羽生三冠のこれまでの王将戦でのエピソードや王将リーグでの実績などを皆さんに見ていただきたいと思います。

羽生七冠誕生の場所 王将戦にまつわるドラマ

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1996年、羽生が七大タイトルを独占し史上初の七冠王となった時、最後の七冠目に獲得したタイトルが何だったか、ご存知ですか? それは『王将』のタイトルです。羽生七冠誕生となった歴史的なその日は1996年2月14日。相手は谷川浩司王将でした。そして、その1年前からのドラマこそがこの記録をより一層偉大なものにしています。七冠達成の前年の1995年、第44期王将戦七番勝負は、すでに王将以外の全タイトルを保持していた挑戦者羽生善治六冠と、残るひとつのタイトルを持つ谷川浩司王将の戦いという図式となりました。

そんな中、第1局と第2局の間の1月17日、未曽有の事態『阪神淡路大震災』が発生し、谷川王将は被災者となってしまいます。羽生六冠との王将戦は谷川王将にとって七冠阻止の戦いでもあり、阪神淡路大震災の被災者を勇気づける意味でも、絶対に負けられない戦いとなったのです。結果はフルセットの末に谷川王将の防衛。この時、羽生六冠による七冠制覇の夢は遠のいたかのように見えました。なにしろ、ここから七冠になるには1995年の名人戦、棋聖戦、王位戦、王座戦、竜王戦、1996年の棋王戦をすべて防衛し、さらに王将リーグをもう一度戦って王将戦の挑戦者になり、谷川王将との番勝負に勝たなければならないのです。

しかし、この不可能とも思われた七冠ロードを羽生六冠は走り抜け、6つのタイトル戦をすべて防衛、そして王将リーグでも勝ち抜いて再び王将戦の挑戦者となります。谷川王将との第46期王将戦七番勝負、羽生六冠は4連勝で王将を奪取。ここに空前絶後の大記録となる七大タイトル制覇の偉業が達成されることになりました。つまり、王将戦とは羽生七冠誕生の場だったのです。

この第46期王将戦以来、羽生善治は王将位を通算12期獲得し、王将獲得10期以上の条件を満たし、『永世王将』の称号の資格保持者となっています。ちなみに永世王将の資格保持者は王将位20期の大記録を持つ大山康晴十五世名人と羽生三冠の二人のみです。

王将リーグの実績もレジェンド級

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王将戦に挑戦するための挑戦者決定リーグ、通称「王将リーグ」は7人が参加しての総当たりで、その成績で挑戦者1名と、残留3名、陥落3名を決定します。羽生三冠が初めて王将リーグ入りしたのは第41期(1991年度)、1985年のプロデビューから実に6期目のことでした。最初に参加した第36期は一次予選で敗退、続く第37期も一次予選で一回戦負け。第38期、第39期、第40期は二次予選で敗退。毎年3人しかリーグ入りできないという王将リーグの狭き門が若き羽生三冠を阻んだのです。

しかも、その初めての王将リーグ、羽生三冠の成績は3勝3敗で、なんと陥落してしまいます。ちなみにこの時の王将挑戦者となったのが谷川竜王(棋聖・王位)(当時)でした。南芳一王将との七番勝負は4勝1敗で挑戦者の谷川竜王が勝利し初の王将位を獲得します。以来、谷川王将は4連覇。王将を失ったのはあの羽生七冠誕生の1996年でした。

さて、羽生三冠の王将リーグに話を戻します。初参加でいきなり陥落という洗礼を浴びた羽生三冠ですが、翌年の第42期(1992年度)の二次予選を勝ちあがり、再び王将リーグ入り。この時の王将リーグでは4勝2敗となり、同じく4勝2敗だった村山聖六段(当時)とのプレーオフを戦います。「東の天才羽生」対「西の怪童村山」によるタイトル挑戦をかけた大一番。勝ったのは村山六段でした。この時の谷川王将との王将戦は村山六段にとって生涯唯一のタイトル戦となります。

その翌年の第43期(1993年度)の王将リーグ、羽生は3勝3敗で残留。第44期(1994年度)は5勝1敗で挑戦者となり、七冠をかけて谷川王将に挑みました。しかし、そこで敗れたものの、さらに翌年の第45期(1995年度)の王将リーグでも5勝1敗で2年連続の挑戦者となり、谷川王将から王将位を奪取、七冠王に輝くことになります。この時以来、第45期から第50期まで6連覇。第51期は佐藤康光九段に敗れて失冠しますが、翌年再び番勝負に登場し、王将を奪還します。第53期は森内俊之九段に敗れて失冠。しかし、翌年の第54期にまた奪還するとそこから5連覇!実に16年連続の王将戦七番勝負への登場という、これも羽生善治伝説のひとつです。

7年ぶりの王将復位を目指して

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羽生三冠は第59期(2009年度)に久保利明棋王(当時)に王将を奪われてから、まだ復位はありません。昨年度も郷田王将に敗れており、今年こそはとの思いで今期リーグを戦うはずです。そして羽生三冠は王将リーグ初挑戦の年に一度陥落していますが、その翌年以降、24年連続で一度も陥落がありません。もし今期も残留以上であれば、その記録は25に伸びることになります。この記録がいつまで続くのかも王将リーグに注目するポイントですね。

羽生三冠の王将戦と王将リーグでの実績をご紹介しました。まとめますと、今期王将リーグは羽生三冠にとっては14回目の参加となります。過去13回は挑戦6回(奪取3回、敗退3回)、残留6回、陥落1回というデータとなっています。果たして今期の挑戦はなるのでしょうか?そして7年ぶりの王将復位は見られるのでしょうか?ぜひ今期王将リーグでの羽生三冠の戦いにご注目ください。

直江雨続

ライター直江雨続

フォトグラファー/ライター。
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。

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