ライター直江雨続
2007年ごろよりカメラを片手に将棋イベントに参加してきた『撮る将棋ファン』。
この10年間で撮った棋士の写真は20万枚以上。
将棋を楽しみ、棋士を応援し、将棋ファンの輪を広げることが何よりの喜び。
『将棋対局 ~女流棋士の知と美~』や女子アマ団体戦『ショウギナデシコ』で公式カメラマンを務める。
ライター: 直江雨続 更新: 2016年09月26日
将棋に興味ありますか?でも難しそうって尻込みしていませんか?大丈夫です。良い本があるんです。
将棋のルールを覚えて指してみたいあなた。棋士ってどんな人たちなのか知りたいあなた。漫画なら読んでみようかな、って思っているあなた。
これから紹介する5冊、おすすめです!これを読んで将棋のことを知ると、きっと毎日が楽しくなりますよ。
◆羽生善治のやさしいこども将棋入門 池田書店
将棋を覚えて遊んでみたいと思っているあなたには、まずはこの本をおすすめします。こども向けに書かれていますが、むしろだからこそ大人が読んでも内容がすぐに頭に入ってきます。
この本を一冊読んで内容をしっかり理解すれば、もうそれだけでアマチュア5級くらいの棋力になると思います!この本には「勝つコツがわかる5つのテクニック」という副題がついています。『進む』『取る』『成る』『詰める』『守る』の5つです。この5つのテクニックは、どうすれば初心者が勝てるようになるのかという命題を非常にクリアにしてくれます。
- 『進む』すなわち、自分の駒を相手陣に向かっていくことなり
- 『取る』すなわち、相手の兵隊を奪い、戦力を増やすことなり
- 『成る』すなわち、味方の戦力を成長させ、パワーアップすることなり
- 『詰める』すなわち、勝利の一手で勝負に決着をつけることなり
- 『守る』すなわち、敵駒を自陣や自玉に近づけないことなり
なるほど、この5つのテクニックをまずは覚えて対局すればいいんですね!
もちろん、この本はいきなりそのテクニックを教えるのではなく、まずはプロローグとして「将棋というゲームを知る」、そして第1章で「駒のパワーと使い方を知る」という段階を踏んでから、第2章が「強くなるための5カ条」という順番になっています。なので「将棋って何?」「駒の動かし方がわからない」という人でも安心ですね。
そして5つのテクニックの解説を読んで覚えたら、第3章「トレーニング問題で強くなる」に挑戦してみましょう。第3章「トレーニング問題で強くなる」は問題となる局面での最善手を当てるクイズになっています。そこで私が素晴らしいと思ったのがヒントの出し方。先ほど紹介した5つのテクニック『進む』『取る』『成る』『詰める』『守る』のどれを使うかが問題に明記されているのです。「そうか、ここでは『守る』手を考えればいいのか」「この問題は『成る』のがいい手なのか」というように、考える方針を最初に立てることができるので、初心者でも問題に取り組みやすくなっています。
この本のポイントがもうひとつあって、第1章の「駒のパワーと使い方を知る」で王から歩までのそれぞれの駒に「駒の価値」「攻撃力」「守備力」「機動力」という4項目に1点~10点までの点数をつけていることです。つまり、駒の能力パラメータとして数値化しているのです。これは非常にわかりやすいです。ゲーム好きならこのパラメータを見るだけでもワクワクしてきますね。
最後に、私がこの本を推す一番の理由をあげておきます。それはこの本を執筆したのが凄い人だからです。小田切秀人指導棋士五段です。これまでにこの方が指導したこどもは1000人を超えるという、まさにこどもに将棋を教えることに関しては将棋界随一のプロ中のプロ。将棋が強いこどもを多数育ててきた小田切先生の、長年にわたる指導のノウハウと経験がすべて詰まった将棋入門本なのです。そしてこの本を監修したのは言わずと知れた将棋界のスーパースター羽生善治三冠。
どうぞ安心してこの本を手に取ってみてください。
◆将棋の渡辺くん 伊奈めぐみ 講談社
別冊少年マガジンで連載中の人気漫画です。作者の伊奈めぐみ先生は、実は渡辺明竜王の奥様。妻の目から見た渡辺竜王の日常や将棋界の様子が、かわいらしい絵柄の漫画で楽しめる一冊です。
将棋や棋士にこれまで興味がなかった人への導入のきっかけに、この本はとってもおすすめです。「将棋に興味がなかったお母さんに、この漫画を読ませたら渡辺竜王夫婦のファンになった」とか、「この漫画に描いてある、渡辺竜王って、本当にいる人なの?」などの声をよく聞きます。
もちろん、これから将棋を始めてみたい人、プロの将棋を観戦してみたい人にも。現在2巻まで発売されていますが、読み進めていくと伊奈先生の絵や漫画の構図がどんどんうまくなっていることにも驚きますよ。
そして、この本を読んでから、ぜひ次に紹介する渡辺竜王の「頭脳勝負」もあわせて読んでいただきたいです。
◆頭脳勝負-将棋の世界 渡辺明 ちくま新書
この本が出たのは2007年で、まだ世の中に「観る将棋ファン」の存在がそれほど認知されていなかった頃です。ですが、さすが渡辺竜王は今の将棋界、将棋ファンのすそ野の広がりを当時から予見していたのでしょう。
この本は「観る将棋ファン」が最初に読むべき必携の書です。むしろこの本を渡辺竜王が書いてくださったことにより堂々と「観る将棋ファン」がその存在を世の中にアピールできるようになったともいえます。渡辺竜王が将棋界と将棋ファンに与えた影響は非常に大きいです。ありがとう渡辺竜王!
さて、この本は「将棋ってこんなふうに楽しめばいいんだよ」ということを多様な視点から渡辺竜王が解説してくれています。
そういった疑問を渡辺竜王が明快な語り口でスパッと解決してくれます。
そして渡辺竜王が佐藤康光挑戦者を迎え撃った2006年の第十九期竜王戦七番勝負について、その時の心情を赤裸々に語る第四章。渡辺竜王ファンならずとも、一度は読んでみる価値ありです!
また、本書は「将棋のルール解説」と「さらに将棋を楽しむために」と「詰将棋」の3つの付録がついており、全くの初心者でも、この付録を読んでおけば将棋を始められますよ!
ということで、「将棋の渡辺くん」と「頭脳勝負」はどちらかと言えば指すよりも観る方が好きな将棋初心者におすすめの本でした。
◆1手詰ハンドブック 浦野真彦 日本将棋連盟(マイナビブックス)
将棋を始めた。アプリで指してみた。でも、どうしても勝てない。そんなあなたはもしかしたら将棋で勝つために必要な「詰み」を見つける力が足りていないのかも。
将棋が強くなる方法はいくつもありますが、中でもやっぱり「詰将棋」をたくさん解くことは、将棋の基礎体力作りに一番良い方法です。素振りをしなかったプロ野球選手がいないように、詰将棋を解かずに強くなった棋士はいません。
駒の動かし方と王様がどうすれば詰みの状態になるかがなんとなくわかってきたくらいの初心者からでも、この「1手詰ハンドブック」を買って、暇な時間に少しずつ、繰り返し1手詰の問題を解いていくと、すぐに効果が実感できるはずです。
なにしろ1手詰なのです。問題図の自分の駒を一つ動かす、あるいは持ち駒があればそれをどこかに打つ、それだけの簡単な詰将棋です。とっても簡単ですが、この本に載っている300題の問題は、実戦で現れやすい王様の詰まし方、詰みの形のほぼすべてを網羅しています。だから、この本の問題を繰り返し解いて、覚えていくことで、将棋の終盤で王様が詰む形がぱっと見えるようになってくるんです。脱初心者、脱詰み逃しのための必携の書。
そして1手詰ハンドブックの問題を見た瞬間に答えが浮かぶようになったら...。今度はもっと手数の長い、3手詰や5手詰の詰将棋の本にも挑戦してみてください。将棋と同じくらいに、詰将棋もまた奥が深く楽しいものです。その詰将棋の楽しみの最初の一歩を踏み出すための本。それが1手詰ハンドブックです。
そうそう、将棋ファンに人気のアプリ「将棋RPGつめつめロード」でなかなか詰将棋が解けない方にも、この本は「攻略本」としておすすめしておきますよ。
◆3月のライオン 羽海野チカ 白泉社
17歳のプロ棋士、桐山零(きりやま れい)を主人公とする将棋を題材とした超人気漫画です。2016年秋よりテレビアニメが放送予定、2017年に映画化作品公開予定となっており、将棋ファンならずともこの作品を目にする機会は多くなってくると思います。
さて、私はこの漫画(特に第2巻)を将棋をおぼえたい初心者におすすめしたいと強く思っております。
第2巻の『Chapter.15 将棋おしえて』は、将棋初心者で中学2年生の川本ひなたに、桐山君が何とか将棋について説明しようとする、という回なのですが...。将棋のルールを一から全部教えようとするとやはり説明することが多く、ひなたちゃんに「んー、やっぱり難しいかも...」と思われてしまいます。桐山君ピンチ!
と、ここで桐山君の親友でプロ棋士の二海堂晴信(にかいどう はるのぶ)が助け舟を出すのですが、その方法が凄い。なんと二海堂君自作の将棋入門絵本が登場するのです!この将棋入門絵本というのが、将棋の駒の動きや性格を可愛らしいニャーちゃん(猫)たちのイラストで表していて、とにかくわかりやすく「将棋って面白そう!」と多くの方に思ってもらえるような、素晴らしいものなんです。二海堂君のおかげでひなたちゃんもばっちり将棋に興味を持ってくれたようです。
将棋をもっといろいろな人に知ってほしいという羽海野チカ先生の思いが詰まったこの回。「3月のライオン」を読んだことがきっかけで将棋に興味を持った、という方は私の知人にも多数います。
こんな素晴らしい作品を将棋の普及に生かさない手はありません。もちろん将棋初心者の方にもおすすめですし、将棋監修が先崎学九段ですので観る将棋ファンの人が読んでもプロ棋士のリアルな描写に驚くはずです。
あなたの周りに将棋を知らない友人がいたら、ぜひ「3月のライオン」をおすすめしてください。そしてニャーたちに力を借りて将棋の面白さを伝えられたら、こんなに素敵なことはないと思います。
将棋って楽しいゲームなんですよ。プロ棋士ってすごい魅力をいっぱい持った人たちばかりなんですよ。
だから、もっともっと多くの人に将棋というゲームを知ってほしいし、プロ棋士がどんなに素敵な人たちなのかを見て欲しいです。
その最初の一歩としてまずは漫画からでも大歓迎です。
将棋のことについて書いた本を読んでください。将棋にちょっとでも興味を持ってください。プロ棋士ってどんな人たちなのかなって、そんな風にして知的好奇心をこちらに向けてみてください。
将棋はいろいろな楽しみ方ができるゲームです。将棋にかかわるスタンスも、何を面白いと思うかも人それぞれ。見るのが好きな人も、指すのが好きな人もいます。あなたもあなたの楽しみ方で大丈夫。
今回紹介した本をぜひ手に取ってみてください。そして自分の好みに合いそうなところから、将棋の世界へ足を踏み出してみてください!
ライター直江雨続