場面場面で使える手筋を学んで、加速度的なスピードで上達しよう!初段を目指している人が読むべき手筋・格言棋書

場面場面で使える手筋を学んで、加速度的なスピードで上達しよう!初段を目指している人が読むべき手筋・格言棋書

ライター: 水留啓  更新: 2019年06月24日

今回は手筋や格言に関する本を5冊紹介していきます。手筋とは、駒の働きを最大限に引き出す局所的な使い方のことです。歩にはじまり玉にいたるまで、それぞれの駒に特有の使い方があるだけでなく、いくつかの駒を組み合わせた手筋を使うことで高い効果を得られることがあります。また格言とは、古くから伝えられる、攻めや守りに関する経験的な知見のことです。多くの場合、格言は覚えやすい短いフレーズになっています。

(1)『将棋・ひと目の手筋』(週刊将棋編、渡辺明監修、マイナビ)

この本は、実戦によく出てくる手筋を次の一手形式でまとめた文庫本です。章立てとしては、第1章「駒別ひと目の手筋」、第2章「囲い崩しの手筋」、第3章「端攻め・ひと目の手筋」、第4章「ひと目の受け」、第5章「ひと目の必死」という構成になっています。

例として次の問題を考えてみましょう。

【第1図:ひと目の手筋・第38問】

居飛車対中飛車の部分図で、先手は持ち駒に銀を持っています。後手陣にはスキがないように見えますが、ここで▲4一銀と打つのが強烈な一撃。(第2図)飛車と金の両取りになっています。

【第2図:ひと目の手筋・第38問】

以下は、飛車を逃げれば金を取り、さらに▲2三飛成という手で先手の攻めが続きそうですね。

手筋に関する第1の性質として、その手を知らなければ自分で思いつくことが難しいということが挙げられます。この例で言うと、将棋を指し始めたばかりの初心者の人が▲4一銀を思い浮かべるのはけっこう大変なのではないでしょうか。手筋はこの点で、しらみつぶしに王手を検討していけば答えにたどり着ける可能性のある詰将棋とは一線を画していると考えられます。

もう1問、第4章「ひと目の受け」から引用します。(第3図)

【第3図:ひと目の手筋・第171問】

今度は立場を変えて受けの問題を考えてみます。先手玉には詰めろ(次に詰まされてしまう状態)がかかっていますが、うまく受けることはできるでしょうか。この問題は監修者の渡辺明二冠も悩んだそうで、結構歯ごたえがあります。答えは本書を買って確認してみてくださいね。

(2)『将棋・ひと目の端攻め』(週刊将棋編、マイナビ)

続いては、端攻めに関する手筋の本です。本書は先ほどの『将棋・ひと目の手筋』と姉妹書で、とりわけ端(1筋、9筋)での攻めに関する手筋を特訓するための本です。端の攻防だけでなんと200問も収録されています。

本書の冒頭に載っている、基本的な問題を見てみましょう。(第4図)

【第4図:ひと目の端攻め・第5問】

どうということのない1筋の風景という感じも受けますが、先手の持ち駒に注目してください。ここから端攻めをすることが可能なのです。

まずは▲1四歩と歩を突き捨てます。△1四同歩に対して▲1二歩△同香▲1三歩△同香と香取りに歩を連打したのち、▲1二歩が仕上げの一手。(第5図)

【第5図:ひと目の端攻め・第5問】

最後は地味な垂れ歩の手筋ですが、後手は次の▲1一歩成というと金作りを受けることができません。本書の答えのページを見ると、見出しに大きく「3歩持ったら端攻め」とアドバイスが書いてあります(ちなみに、問題図のヒントには「3歩あれば手が作れます」とあります)。

先ほど書いた通り、時間の限られた実戦においては知らない手筋を独力で考えつくのは至難の業でしょう。本書のような持ち運びしやすい文庫本でサクサク問題を解き、答えのページのフレーズも覚えてしまうくらい繰り返せば、実戦において手の見え方がグンと伸びることは間違いないでしょう。電子版で読むのもおすすめです。

(3)『格言・用語で覚える居飛車の基本手筋』(神崎健二著、マイナビ)

相居飛車の実戦によく出てくる手筋や格言を、全体図と部分図を用いながらわかりやすく解説した本書は、居飛車党必携の書といっても過言ではないでしょう。矢倉、角換わり、横歩取り、相掛かり、その他の相居飛車という5つの章で基本の手筋を学んだあとは、第6章「実戦次の一手」の豊富な練習問題(30問)で実力を試すことができます。

【第6図:居飛車の基本手筋・例題II】

例題はこちら(第6図)。いかにも矢倉戦で出てきそうな形ですね。ここからの洗練された寄せの手順を考えてみてください。俗っぽい攻め方をするとすれば▲4二銀の打ち込みが思い浮かぶでしょう。しかしこの手は後手に放っておかれても大した攻めにはなりません。

この場面での手筋は、▲3一銀です。ただ捨ての銀ですが、△3一同金には▲2三歩が用意の王手。(第7図)

【第7図:居飛車の基本手筋・例題II】

以下△1二玉の一手に▲3一馬まで、ゆるむことなく寄り形を築くことができました。(第8図)

【第8図:居飛車の基本手筋・例題II】

手筋に関する第2の性質として、手筋を知ることで問題図にいたるまでの手の作り方を学ぶことができるという点が挙げられます。本問で言うと、問題図の1手前の局面はおそらく以下のような形だったでしょう。(第9図)

【第9図:仮想図】

ここでさきほどの▲3一銀!の手筋を知っていればこそ、ここで▲2四歩!という手筋の攻めを繰り出すことができるのです。もちろん、▲2四歩に対して△同銀とすれば▲4二歩成でと金を作って攻めが成功しますね。

つまり、1つの手筋はほかの手筋と連携して攻めを構成していくのです。強い人ほど早い段階のチャンスを生かして局面をリードしていく印象がありますが、これは早い段階で一連の手筋のはじまりを発見していると捉えられるのではないでしょうか。

余談ですが、本書に掲載されているコラムには著者の神崎八段の棋書愛があふれており、とても親近感のわく一冊として私は座右の書としています。

(4)『羽生善治の手筋の教科書』(羽生善治著、河出書房新社)

4番目に紹介するこの本は、駒別の手筋をまとめたオーソドックスな手筋集です。まさに教科書というネーミングがぴったりな仕上がりになっています。ほとんどの問題が実戦形式の全体図から採られています。ふりがなが振ってあったり図面に矢印が描いてあったりと、とくに子どもにおすすめできる構成です。以前の記事で紹介した『羽生の法則』シリーズと並ぶ名著と思います。

【第10図:手筋の教科書 p.180】

また、居飛車の飛車先の歩交換を防ぐ角上がりを「飛先受けの角」(第10図)、

相手の飛車の働きを縦か横かに制限する銀打ちを「寸鉄の銀」(第11図)と呼ぶなど、フレッシュなネーミングもこの本の特徴といえるでしょう。棋書をはじめて読むという方にもおすすめできます。

【第11図:手筋の教科書p.146】

(5)『将棋は歩から(上)(中)(下)』(加藤治郎、東京書店)

最後に紹介するこちらは、昭和23年の出版以来、現代まで読み継がれる昭和の名著です。著者の加藤治郎名誉九段は、将棋連盟会長も務めた名伯楽。著者のなによりの功績は、歩に関する手筋だけで上中下3冊からなる本書を編み上げたことでしょう。著者の努力に敬意を表して、その用法(章立てに同じく)を列挙してみましょう。

(1)前身の歩、(2)交換の歩、(3)突き違いの歩、(4)蓋歩、(5)突き捨ての歩、(6)継ぎ歩、(7)垂れ歩、(8)焦点の歩、(9)死角の歩、(10)ダンスの歩、(11)単打の歩、(12)合わせ歩、(13)十字飛車の歩、(14)連打の歩、(15)成り捨ての歩、(16)控え歩、(17)中合いの歩、(18)底歩、(19)直射止めの歩、(20)面打の歩、(21)紐歩、(22)歩切れの将棋、(23)端歩

これを見ると、いまでも対局において日常的に使われている用語が多いのに気づくでしょう。「ダンスの歩」や「焦点の歩」など、70年以上前の命名とは思えないネーミングセンスを感じます。歩関連以外では、「陽動振り飛車」、「端角」なども加藤名誉九段の命名のようです。

本書の構成としては、まずは部分図を用いて各用語の定義をした後、簡単な練習問題を経て、当時のプロの実戦譜でその手筋の活用法を示すという、まさに「理論と実践」を地で行くものとなっています。

余談ながら、前書きを読むと、本書が昭和15~16年から終戦直前まで、4~5年間「将棋世界」誌に掲載されていた「歩の使用法」という連載をもとにしていること、「歩のない将棋は負け将棋」という格言に象徴される歩の大切さを伝える本であること、本書のタイトルは作家の菊池寛によるものであることがわかります。

ここでは皆さんご期待の「ダンスの歩」の練習問題をご紹介します。(第12図)

【第12図:将棋は歩から(中) p.193】

ここから、3枚の歩をたよりに手を作っていきます。

まずは▲2三歩△同金▲2四歩△3三金と歩を叩いていき、手順に桂を跳ねます。(第13図)

【第13図:将棋は歩から(中) p.193】

金を4三に逃げてはと金を作られますから、金を引くくらいですが、そこで▲2三歩成が妙手。(第14図)

【第14図:将棋は歩から(中) p.193】

この歩は取るしかないですが、最後に▲2四歩がとどめの一手。(第15図)一連の妙手順で金を捕まえることができました。

【第15図:将棋は歩から(中) p.193】

この例は金が斜め後ろに進めないという弱点を突いた見事な攻めでした。ひとつ覚えておきたいのは、歩の手筋を勉強することで、他の駒の長所・短所も同時に勉強できるというメリットがあるということです。

おわりに

これまでに紹介した手筋を総括すると、手筋に関する第3の性質として、部分的な知識であるためさまざまな局面での応用可能性が高いということが浮かんできます。ともすれば盤面全体の暗記にも陥りがちな定跡学習と異なり、手筋と格言は局所的な戦いで頻出するテクニック・知識の集まりです。場面場面で使える手筋をたくさん学ぶことで、複数の手筋を組み合わせるという技術も芽生えることでしょう。今回紹介した棋書を上手に使って、加速度的なスピードで上達の道を進んでいきましょう!

棋書紹介

水留啓

ライター水留啓

ねこまど将棋教室講師。こども教室担当として積んだ指導経験を生かし、大人向け講座「平手初心者のための棒銀/四間飛車/中飛車入門講座」を開講。初心者・初級者を中心に、幅広い層に将棋の楽しさを伝えている。趣味は棋書収集で、最近は自宅の本棚が足りなくなってきているのが悩み。

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