ライター水留啓
「観る将」も必読!将棋界の仕組みや最新情報を知って、さらに将棋を楽しもう
ライター: 水留啓 更新: 2020年01月23日
今回はこれまでの記事とは少し趣向を変えて、将棋界についての知識を得られるような本や雑誌を紹介してみましょう。最近は「観る将」(観る将棋ファン)という言葉に代表されるように、将棋の楽しみ方が多様化しつつあります。また、若手棋士・ベテラン棋士の活躍をきっかけとしてテレビ番組やニュースで将棋や棋士が取り上げられることも増えました。皆さんの職場や学校などでも、これまで将棋に興味のなかった方と将棋の話題になることもあるかもしれません。今回紹介する本を読んで将棋界に詳しくなり、将棋友達を増やしてみませんか?
【1】青野照市「将棋界の不思議な仕組み プロ棋士という仕事」(創元社)
「1968年に奨励会に入会して以来、50年近く将棋界に在籍」(まえがきより)している青野照市九段が、一般からの質問に答える形で将棋界の知られざる仕組みや実情について説明してくれる一冊です。1つの質問に対して見開き2ページほどで、図表も取り入れつつ簡潔に答えているところが本書の魅力といえます。第1章「棋士の仕事がわかる」、第2章「将棋界の仕組みがわかる」、第3章「将棋の第一歩がわかる」という章構成で、将棋に初めて興味を持った方も読み物として楽しめる内容になっています。
東西の将棋会館の内部や棋士の1か月のスケジュールなどライトな内容に始まり、「将棋のスポンサーになることはできる?」「対局料は1局いくら?」などすこし込み入った話題まで網羅されて観る将の方にはもってこいの内容です。職場や学校で将棋についての話題になったときに「順位戦っていうのはこういうシステムで...」「外国で将棋がいちばん普及している国はね...」「将棋の由来はそもそも...」などと話のネタにしてみるのもいいかもしれませんね。
【2】羽生善治「羽生善治の将棋辞典」(河出書房新社)
2009年に出版された『読む将棋百科』(河出書房新社)を新装した本書は、戦法・囲いから名棋士・名対局場にいたるまで将棋と将棋界にまつわるあらゆる知識を集合した辞典です。テーマ別に「(1)戦法・囲い、(2)将棋用語、(3)用具、(4)格言、(5)タイトル戦、棋戦、(6)名棋士・対局の宿」の6つの章からなっています。すべての語句の説明のあとには監修の羽生善治九段によるコメント「羽生の眼」がついており、それぞれの用語をより深く理解することができます。
例えば「棋士」の項目には「プロと同じ意味。公式戦に参加をする資格を持っている人たち。」という説明ののち、以下のような「羽生の眼」が記されています。
「対局に勝つことで直接の収入を得ているのだから勝つことはもちろん大事であるが、それが成り立っているのはプロが指す将棋を見て楽しんでくれるファンの方々の存在があることを、プロは忘れてはならない。勝つことと同時に、その勝ち方も強く求められている。」(75ページ)
このように、羽生九段ならではの視点からのコメントが本書を読み物としても面白いものにしています。この項目のほかにも「勝負の流れ」、「受け」(ともに第2章より)など、語句説明よりもコメントの長いものも多く、読みごたえがあります。
【3】渡辺明「増補 頭脳勝負」(ちくま文庫)
2007年にちくま新書として刊行された『頭脳勝負―将棋の世界』に『永世竜王への軌跡』(日本将棋連盟)の一部内容を収録し再編集された本書は、棋界の第一人者の渡辺明三冠が棋士という仕事について広く語ったガイドブックです。将棋界について予備知識のない方でも読めるように丁寧に解説した第1章~第3章と、2006年の佐藤康光九段との竜王戦、2008年の羽生善治九段との竜王戦の熱戦譜を自ら解説した第4章、そして将棋のルールや詰将棋を紹介した付録からなり、読みごたえは十分です。
【4】浦野真彦「初段になるための将棋勉強法」(白夜書房)
本書はその書名の通り、将棋を始めた人が初段になるための将棋の上達法についてまとめた本です。ともすれば「誰でもある程度がんばれば初段にはなれる」とか、「こどもの頃に将棋を始めて、気づいたら有段者になっていた」というケースが多数派になりがちな将棋の世界において、こうした勉強法の常識をまとめた本は入門者の需要にクリーンヒットしました。本書は2011年の発売以来何度も版を重ねています。
本書の章立ての中の重要な部分を紹介してみましょう。第2章「棋力アップの基本となる『一人で行う勉強』」において定跡書、棋譜並べ、詰将棋、対局観戦といった独習法を習得し、それに続く第3章「万能の勉強『対局』と『指導対局』」において感想戦のポイント、指導対局の活用法などを学びます。これの知識を踏まえて第4章「自分に合った勉強の組み合わせを知る」において自分だけの勉強法を構築していくという構成になっています。
「理解度がアップする戦術書の読み方」(54ページ)、「形勢判断を利用して自分を知る」(148ページ)など、伸び悩みを感じている級位者の方々にぜひ読んでいただきたい内容です。他にも、入門者~級位者の指導に当たられる指導者の方にも一読をおすすめします。
余談ながら、本書には菅井竜也七段(当時四段)へのインタビューが掲載されています。短い分量ではあるのですが、個人的にはインターネット将棋との向き合い方については大いに参考になるものを得ました。
【5】「将棋世界」(日本将棋連盟)・「将棋講座」(NHK出版)
将棋界に関する最新情報についてはインターネットはもちろんのこと、雑誌も頼りになることが多くあります。将棋を扱う定期刊行物としてぱっと思い浮かぶのがこちらの2冊でしょう。
「将棋世界」は日本将棋連盟が発行し、マイナビ出版が販売する月刊誌です。最新のタイトル戦や重要対局の棋譜が解説付きで読めたり、プロ棋士による最新定跡の解説が勉強できたりするのが最大の魅力。また、読者投稿による詰将棋コーナーやイラスト投稿コーナーなどがあり、将棋界と将棋ファンの架け橋の役割も果たしています。
NHK出版による「将棋講座」は、毎週日曜日にテレビで放映される講座およびNHK杯の副読本の役目を務めます。本誌で講座の内容を予習・復習した後に公式戦の対局棋譜で棋譜並べをすれば上達間違いなしです。棋譜並べのやり方はぜひ上掲の『初段になるための将棋勉強法』を参考にしてくださいね!
【6】「駒doc.」(ねこまど)
最後に少し宣伝を。私の所属する株式会社ねこまどでは将棋フリーペーパー「駒doc.」を発行しています。16ページの薄い冊子ながら、将棋界にまつわることを幅広く紹介する「将棋ことはじめ」、今注目の棋士にインタビューを行う「この手だれの手?」、毎号ごとの特集など、盛りだくさんの内容で将棋界を盛り上げます。2019秋号では木村王位へのインタビュー、「棋士の和装」特集、2020冬号では「特集:将棋ユーチューバー」などで読者の皆さんをお待ちしています。
*入手方法や駒doc.サポーター申し込みなど、詳しくはこちら>>
さて、今回は将棋の技術書から少し離れて将棋界についての最新情報を得る本について紹介してきました。書籍を読まれる際は、棋戦情報やタイトルホルダーなどの情報が刊行時と変わっている場合がありますのでご注意の上お読みください。また、本の中で紹介されている棋士の段位や肩書なども現時点では変わっている場合があります。皆さんも書籍・雑誌・インターネットという3本柱を自在に活用してご自身の上達や観戦ライフを楽しんでください!