藤井の3連覇か、菅井が振り飛車党の意地を見せるか

藤井の3連覇か、菅井が振り飛車党の意地を見せるか

ライター: 相崎修司  更新: 2023年04月10日

 藤井聡太叡王に菅井竜也八段が挑戦する第8期叡王戦五番勝負は4月11日(火)に「江戸総鎮守 神田明神」で開幕する。昨年度は史上最年少の六冠を達成し、また叡王戦と同時進行で行われる名人戦にも挑戦中と、まさに無敵状態の藤井叡王だが、振り飛車党とのタイトル戦は今期の叡王戦が始めてだ。注目の五番勝負を展望する。

タイトルホルダー藤井聡太叡王

 まずは藤井叡王。今期の叡王戦には3連覇がかかる。叡王戦はタイトル戦に昇格した第3期以降、挑戦者が奪取するという状況が続いていたが、前期の藤井がそのジンクスを打破した。タイトル戦初登場となる出口若武六段をストレートで退けている。

【第1図は▲2一角まで】

 第1図は前期の第2局、千日手から指し直しで迎えた局面である。この▲2一角は部分的には昔からある定跡だが、△5二玉型では成立しにくいイメージが共有されていた。ところが本局の藤井は先の先を読んでいたのだ。第1図から△4一(4二)玉は▲3二角成△同玉▲4二金で先手優勢だ。他にも受けの候補手は色々あるが、いずれにしても先手が良くなる。出口が指した△2三銀はここでの最善手だ。対して▲3二角成△2四銀▲8二歩△9三桂▲8一歩成△同銀と進み、ここで▲4四金という妙手が炸裂した。△同歩はもちろん▲7六馬と飛車を抜いて先手よし。しかしこの金を取れなくては後手陣の受けが難しい。遠く7六の飛車をにらんでいるからこそ、▲2一角が成立していたのだ。結果的に後手は▲8二歩に△9三桂ではなく、△8六飛▲8一歩成△同飛と桂損を甘受するしかなかった。

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写真:琵琶

挑戦者菅井竜也八段

 対する菅井挑戦者。叡王戦は第4期で挑戦者決定戦まで進出した経験があるが、惜しくもタイトル戦には至らなかった。自身のタイトル戦登場は2017年度、18年度の王位戦七番勝負に続く3度目である。今期の叡王戦は段位戦予選の八段戦で糸谷哲郎八段、神崎健二八段、真田圭一八段を連破し本戦入り。本戦では石井健太郎六段、佐藤天彦九段、本田奎五段、永瀬拓矢王座を破って挑戦権を獲得した。その全てが振り飛車の将棋である。

【第2図は△8六桂まで】

 第2図は初戦の糸谷八段との一戦。この△8六桂で駒柱が立った。実戦は以下▲8四金△同香▲8三歩△同銀▲7四銀△7八桂成▲同銀△7九金▲7七金△2九馬と進む。最後の△2九馬と桂を取った手が一見ぬるそうで、実は盤面全体を把握しての一着だ。後手が桂馬を手にしたら次の△8七桂▲同金△7八金が速く、そして先手はわかっていてもこの順を防げない。192手の死闘を制した菅井が、以降も得意の振り飛車を駆使して、一気に五番勝負まで駆け上がった。

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写真:独楽

第8期叡王戦五番勝負の行方は

 さて、改めて今期の五番勝負について考えてみよう。前述したように、藤井が振り飛車党の棋士とタイトル戦を戦うのは今期が初だ。そのこともあってか、藤井はタイトル戦の舞台で振り飛車の将棋を一局も経験していない。また、コアなファンならばご存じだろうが、藤井はこれまで400局近く指した公式戦で、一局も飛車を振ったことがない。

 今回のシリーズは菅井の振り飛車に、藤井が居飛車で応じるという対抗形の将棋が続くことがほぼ間違いなさそうだ。では藤井の対抗形の戦績がどうかというと、こちらも飛び抜けている。手番と振った飛車の位置によって分類すると、以下の通りだ。

先手番対四間飛車が19勝2敗
先手番対三間飛車が7勝0敗
先手番対中飛車が3勝0敗
先手番対向かい飛車が5勝0敗

後手番対四間飛車が4勝2敗
後手番対三間飛車が7勝1敗
後手番対中飛車が22勝4敗
後手番対向かい飛車が2勝0敗

 先手番での対振り飛車はほぼ無敵状態で、後手番の対振り飛車勝率も8割を超えている。圧巻と言うほかない。

 ただ、藤井―菅井の直接対決をみると、藤井の5勝3敗で(藤井先手が1勝0敗、藤井後手が4勝3敗。他に藤井の先手番で2局の千日手がある)、藤井の勝ち越しとはいえどもそこまで差のある数字ではない。そして直近の直接対決(昨年8月の順位戦A級)では、菅井が勝っている。挑戦権を獲得した直後のインタビューで、 「将棋ファンは振り飛車党が多い。今の時代は振り飛車が苦しいですが、振り飛車でも充分勝負できるというところを見せたいなと思っています」
と語った菅井が、どのような振り飛車を見せるか。そして藤井がどのように応じるか。注目の五番勝負が始まる。

相崎修司

ライター相崎修司

2000年から将棋専門誌・近代将棋の編集業務に従事、07年に独立しフリーライターとなる。2024年現在は竜王戦、王位戦・女流王位戦、棋王戦、女流名人戦で観戦記を執筆。将棋世界などにも寄稿。

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