ライター渡部壮大
将棋の月刊誌、週刊紙、書籍などの編集部に在籍経験あり。
アマチュア大会の最高成績は全国ベスト16だが、もう少し上に行けないかと日々努力中。
ライター: 渡部壮大 更新: 2020年09月16日
7個目の女流タイトル戦となったヒューリック杯清麗戦。第1期は里見が獲得し、今回は初の防衛戦となった。里見と上田のタイトル戦は4度目。そのうち2度の女流名人戦五番勝負はフルセットの激闘で、名局賞特別賞も受賞する大熱戦となっている。今回は新型コロナウィルスの影響もあり、全局東京の将棋会館で行われた。
開幕戦は里見の先手中飛車に上田は相振り飛車を選択。お互いに玉の囲いもそこそこに、早い段階で戦いとなった。
【第1図は△3五同飛まで】
ここで▲6四角がうまい手作り。△7三銀なら▲6三歩とたたき、▲4六角が飛車取りの先手になるので手が続く。実戦は△7三桂と受けたが、▲4六銀左△3四飛▲3五歩△2四飛に▲7三角成が狙いの順。以下△同銀に▲3六桂で飛車を捕獲することに成功した。飛車を取れば▲2一飛が厳しいため先手がペースをつかみ、以下の攻め合いを一手勝ちで制した。
撮影:常盤秀樹
第2局は里見のゴキゲン中飛車に上田は超速3七銀戦法。お互いに研究十分の形で仕掛けとなった。
【第2図は▲4九金まで】
終盤戦で、▲4九金と粘りの姿勢を見せたところだが、じっと△3七飛成がお互いの速度を見切った好手となった。▲6四桂は厳しいが、△6六歩がそれ以上の厳しさで、次に△6八銀成~△6七歩成~△6九銀の寄せがある。実戦は▲5七歩と手を戻したが、△6七歩成▲同銀△5七歩成と攻めて4九の金が受けに働きにくい展開となり、後手の勝ち筋に入った。
撮影:常盤秀樹
第3局は里見の三間飛車に上田は得意の穴熊。上田がリードを奪うも、里見も簡単には決め手を与えず混戦となっていく。
【第3図は▲3五金打まで】
ここで△2三飛だと▲2四歩が厳しいが、△5九成桂が妙手だった。▲同飛なら△3五馬で、後手はこの馬を取り返すことができない。実戦は▲2四金と取ったが、△4九成桂▲2三歩に△2四馬が手厚く後手勝勢だ。上田が踏ん張り1勝を返す。
第4局は第2局と同様の形に。里見の銀をうまく遊ばせて上田がリードを奪う。
撮影:常盤秀樹
【第4図は△7五金まで】
上田が押している将棋だったが、なかなか決着には至らず長いねじり合いとなっていた。ようやく終わりが見えたところで、▲8三桂成△同銀▲5二竜△同歩▲8三香成△同玉▲6三角成がさわやかな寄せ。上下から詰ます筋があり、後手は受けが利かない。上田が連勝で追いつき決着は最終局へ。
撮影:常盤秀樹
第5局は第2局、第4局と同じくゴキゲン中飛車対超速3七銀の銀対抗の形に。双方に主張のある難解な戦いから激戦に。終盤は里見が勝勢になるが、悪手が出て混戦となった。
【第5図は▲5九玉まで】
図は詰むや詰まざるやの最終盤。ここで△7五角がピッタリの一手で里見が踏みとどまった。△6八金からの詰めろを掛け、▲9一飛に△8二玉~△9三玉の逃げ道を作った攻防手。以下先手も▲6一香成△同玉▲4一飛から肉薄するが届かず、後手が熱戦を制した。
ヒューリック杯清麗戦中継サイトより
里見が2連勝から2連敗と追い込まれるが、最後に底力を見せて防衛。上田は里見と3度目のフルセットになったが、今回もわずかに届かず。力のこもったシリーズで、また二人がタイトル戦で顔を合わせる時が楽しみだ。
ヒューリック杯清麗戦中継サイトより
ライター渡部壮大